共同研究・競争的資金等の研究 - 阪口 政清
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正常皮膚および腫瘍に対するWnt調節因子REIC/DKK3の作用に関する研究
研究課題/領域番号:18591249 2006年 - 2007年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(C)
片岡 健, 李 代偉, 阪口 政清, 片岡 健
配分額:3500000円 ( 直接経費:3200000円 、 間接経費:300000円 )
1.培養ヒト正常表皮角化細胞にREIC/Dkk-3を発現するアデノウイルスベクター(Ad-REIC)を感染させ発現が変化する遺伝子をスクリーニングしたところ、免疫機能の調節に重要な役割を果たすサイトカインの発現が誘導されることが分かった。このサイトカイン誘導により個体の免疫機能の亢進することが認められ、REIC/Dkk-3が生体での防護機構に関与する可能性が示唆された。
2.REIC/Dkk-3を強制発現すると腫瘍特異的にアポトーシスが誘導される。この機構を探るため、Ad-REICに高感受性のがん細胞株をスクリーニングし、マウス腎がん細胞株RENCAを同定した。この細胞株と正常線維芽細胞であるNIH3T3を比較することにより、Ad-REICによる腫瘍特異的アポトーシス誘導にHsp70/72が防護的に働き、それが腫瘍特異的アポトーシス誘導の一因であることを明らかにした。
3.Ad-REICに感受性がある前立腺がん細胞株PC3に低濃度でAd-REICを感染させながら長期間培養し、耐性細胞を得た。この細胞を用いてPC3親株と比較するためマイクロアレイによる発現解析を行ったが、結果は現在解析中である。また耐性の鍵となるシグナル伝達経路を同定し、詳細な解析を行った。
4.前年度に開発した方法によりヒト正常線維芽細胞からREIC/Dkk-3タンパク質を培養実験に使用できる純度で精製した。
5.REIC/Dkk-3のノックアウトマウスを作成中である。当該遺伝子をノックアウトしたマウスES細胞を既に得て、現在個体を作成中である。 -
上皮細胞増殖制御の機能的ハプタンパク質S100Cの機能解明とがん治療への応用
研究課題/領域番号:18013035 2006年 - 2007年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 特定領域研究
許 南浩, 阪口 政清, 宮崎 正博
配分額:12100000円 ( 直接経費:12100000円 )
本研究計画は1)がんのTGFβ抵抗性とS100A11機能との関連を明らかにする、2)S100A11のAnnexinA1との結合、ヒトがんでの発現充進の意味を明らかにする、3)この知見を治療に応用する、ことを目的とする。平成18年度は1)について報告した。平成19年度は主に2)に取り組み、以下の結果を得た。
1.正常ヒト表皮角化細胞(NHK)において、S100A11はAnnexin A1と複合体を形成しPhospholipase A2と結合してその活性を抑制した。その結果アラキドン酸カスケードが抑制されて細胞増殖が低下した。EGFという増殖刺激が入るとphospholipase A2活性抑制の解除が起こって細胞増殖が維持される。即ち、TGFβとEGFというシグナル系がS100A11を接点として関連する。(J Biol Chem 282:35679-86,2007)
3.NHKはS100A11を分泌し、分泌型SIOOA11はNHKの増殖を促進した。この増殖促進は主にEGFファミリーの産生誘導によった。S100A11はRAGE、NFkBとAkt、CREBを介してEGF遺伝子を活性化した。即ち、S100A11は、細胞内では増殖抑制、分泌されると増殖促進という二面性の役割を担う。(Mol Biol Cell 19:78-85,2008)
4.S100A8とS100A9がNHKから分泌され、NHKに作用して炎症性サイトカインの産生・分泌を誘導する、それが逆にS100A8,S100A9の産生・分泌を促進する、S100A8/A9自体がNHKに対する増殖促進作用を持つ、ことを見出した(J Cell Biochem印刷中)。
以上の成果によって、S100C/A11の機能的ハブとしての本態の解明に大きな展開が得られた。今後は、SIOOタンパク質群の受容体RAGEの作動機構の本態の解析を通じて治療戦略の構築を目指す。 -
S100C タンパク質を介した新規細胞増殖制御機構の解明
2005年 - 2006年
独立行政法人 日本学術振興会 若手研究(B)
阪口 政清
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S100C/A11を介する新しいTGFβ増殖抑制信号伝達系の発がんにおける意義
研究課題/領域番号:17014065 2005年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 特定領域研究
許 南浩, 宮崎 正博, 阪口 政清
配分額:6800000円 ( 直接経費:6800000円 )
S100C/A11を介する新しい信号伝達系が、ヒト正常表皮角化細胞の増殖抑制と発がんにどのような意義を持っているかを検討し、以下の結果を得た。
1.TGFβは受容体の活性化からSmadを介する経路とS100C/A11を介する経路に分岐するが、増殖抑制には両経路の活性化が必須であり、一方でもブロックすると抑制が解除されることが明らかになった。このことは、高Caの場合でも、Smad経路がNFAT1経路に代わるだけで成り立つことが分かった。
2.核内における両経路の集約機構を検討した結果、増殖中の細胞のp21プロモーターにはSp/KLF family memberのKLF16が結合して不活化しており、このKLF16を駆逐してp21プロモーターを活性化するには、両経路によってそれぞれ活性化されたSp1とSmad3を含む複合体が必要であることを明らかにした。以上を纏めて、論文に発表した(ProNAS USA 102:13921,2005)。
3.ヒト正常上皮細胞の多くはTGFβによって増殖が抑制され、それに対する抵抗性の獲得が発がんや悪性度の進展に関わると考えられている。TGFβに対する抵抗性獲得の機序としてS100C/A11経路の異常が関与しているかどうかを検討した。解析対象としたヒト扁平上皮がん細胞株は、全例がTGFβに対して抵抗性であった。TGFβによるS100C/A11、Smad3、Smad4の核移行は増殖抑制に必須であるが、これらのがん細胞株では様々組み合わせで異常が見られた。従って、がん細胞の示すTGFβ抵抗性の少なくとも一部はS100C/A11経路の異常によることが示唆された(投稿中)。
4.本研究で明らかになったS100C/A11の機能を治療に応用することを目指して、信号伝達機能を担うドメインとHIV由来の細胞内移行シグナルを融合したペプチドの大量合成と精製条件を確立した。このペプチドを培地中に添加すると多様な細胞でアポトーシスが誘導された。現在、その詳細な細胞内機構を解析中である。 -
皮膚組織構築に関わる遺伝子のヒト疾患における意義とその再生医学的治療法の開発
研究課題/領域番号:14370260 2002年 - 2004年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(B)
許 南浩, 宮崎 正博, 高石 樹朗, 片岡 健, 阪口 政清, 諸橋 正昭
配分額:14600000円 ( 直接経費:14600000円 )
本研究は、皮膚の組織構築に関わる遺伝子の同定とその作用機序を解明し、その知見を活用して皮膚疾患の再生医学的治療法を開発するための基盤研究を行うものである。研究期間中の主な成果は以下のとおりである。
1.ヒト表皮角化細胞の増殖抑制:S100C/A11を介する新しい機構の解明
高CaとTGFβはヒト表皮ケラチノサイトの代表的な増殖抑制因子であるが、その詳細な機構は明らかではなかった。我々は、S100C/A11が両者の増殖抑制シグナル伝達に関与することを明らかにした。高CaかTGFβにヒト表皮ケラチノサイトが曝露されるとPKCαが活性化しS100C/A11をリン酸化する。このS100C/A11がNucleolinと結合して核に移行し、Sp1を介してp21を誘導することにより、細胞増殖抑制をもたらすのである。高CaとTGFβによる増殖抑制には、それぞれNFAT1とSmadsを介する固有経路の活性化も同時に必要であった。
2.表皮角化細胞の角化:Hornerin遺伝子の解析
Hornerinはprofilaggrinに類似したタンパク質をコードする新しい遺伝子である。マウスでは皮膚、舌、食道、前胃の重層扁平上皮発現しており、profilaggrinと同一のケラトヒアリン顆粒に見出された。ヒトのHornerin遺伝子を単離してその構造を明らかにした。成人の正常駆幹表皮には発現が見られなかったので様々な表皮を検索し、乾癬病変部および創傷治癒過程にある表皮でHornerinの発現が誘導されることを見出した。
3.マウス骨髄細胞の皮膚細胞への分化
マウス骨髄細胞を、ヌードマウス皮膚欠損部での皮膚再構成系に混入すると、3週間で表皮、毛のう、皮脂腺を含む各種皮膚構成細胞に分化することを明らかにした。
4.マウス皮膚細胞由来幹細胞の単離
マウス胎児皮膚から、特殊なゲルを用いて簡便に幹細胞を単離する方法を開発した。 -
ヒト細胞の老化、不死化、癌化
研究課題/領域番号:01J04310 2001年 - 2003年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 特別研究員奨励費
阪口 政清
配分額:3600000円 ( 直接経費:3600000円 )
我々は先に、高Caによるヒト表皮角化細胞の増殖抑制が、S100C/A11のリン酸化、核移行、Sp1の活性化によるp21(WAF1/CIP1)の誘導という新しい信号伝達経路を介することを報告した(JCB,163:825-835,2003)。本研究では、ヒト表皮角化細胞に対するもう一つの代表的な増殖制御因子であるTGFβの作用機序を検討した。ヒト正常表皮角化細胞(NHK)をTGFβで処理すると、高Caに曝露した際と同様に、S100C/A11は10Thrがリン酸化され、nucleolinに結合して核に移行し、核内でSp1を介してp21(WAF1/CIP1)を誘導した。S100C/A11をリン酸化する酵素を探るため、皮膚で発現しているprotein kinase C(PKC)のα,δ,ε,η,ζ分子種を強制発現させたところ、PKCαのみがS100C/A11の10Thrをリン酸化した。TGFβ処理により、PKCαは活性化された。また、PKCαのドミナントネガティブ体を導入すると、TGFβによるS100C/A11のリン酸化が阻害され、増殖抑制も解除された。以上の結果は、細胞内でS100C/A11の10Thrをリン酸化するのはPKCαであることを示している。TGFβの信号伝達にSmad s系が働いていることはよく知られている。siRNAを用いてSmad3をdown-regulateすると、TGFβに依る増殖抑制が解除された。抗S100C/A11抗体を用いて、S100C/A11の機能をブロックしても同様であった。即ち、TGFβによる増殖制御はS100C/A11系とSmad s系の両方が機能して初めて起こることが確認された。なお、この条件下でSp1はSmad3と結合し、p21(WAF1/CIP1)プロモーターに作用する。以上、我々はS100C/A11がNHKの増殖抑制に中心的な役割を果たすことを明らかにした。