共同研究・競争的資金等の研究 - 髙柴 正悟
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歯周病原性細菌によって起こる誤嚥性肺炎の分子免疫学的病態の研究
研究課題/領域番号:14657554 2002年 - 2003年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 萌芽研究
高柴 正悟, 前田 博史, 明貝 文夫, 苔口 進
配分額:2600000円 ( 直接経費:2600000円 )
誤嚥性肺炎は,食物や口腔内細菌などの誤嚥に起因する肺炎であり,主に高齢者に発症する。とりわけ歯周病に罹患している高齢者の口腔内には大量の歯周病細菌が存在するので,誤嚥性肺炎発症のリスクは高いと考えられる。また,肺炎は重篤になると肺局所の炎症にとどまらず,全身症状の悪化をきたし時に死を招くこともある。したがって誤嚥性肺炎を発症した肺局所の炎症巣の全身に対する影響を知ることは重要である。我々は,本研究援助の下,(1)誤嚥性肺炎のマウスモデルを構築し,(2)肺局所と血清中のIL-1β,IL-6,TNF-α,そしてTNF-αのアンタゴニストである可溶性TNF受容体(sTNFR1およびsTNFR2)の産生動態を比較検討した。誤嚥性肺炎のマウスモデルは,代表的な歯周病細菌であるPorphyromonas gingivalis(P.g)の死菌体をマウスの肺に直接,感染させて構築した。このモデルは,組織学的に,P.g感染後,1-3日後の肺に著明な炎症性細胞浸潤を認め,7日後の肺では健常レベル回復するという比較的弱い炎症症状をきたすものである。我々は,この肺炎マウスにおける肺と血清中において,各種サイトカイン産生量を経時的(感染後2時間,1,3,7日)に測定した。IL-1βは,肺局所において感染後2時間-3日後に有意に増加したが血清中では検出できなかった。IL-6は,肺局所において感染後2時間-3日後に有意に増加し,血清中においても感染後2時間で有意に増加した。TNF-αは,肺局所において感染後2時間のみで有意に増加したが,血清中では検出できなかった。またsTNFR1の産生量は感染の有無によって,肺局所,血清中ともに変化しなかった。一方,sTNFR2は肺局所において感染後2時間-3日後に有意に増加したが,血清中では変化しなかった。また,感染後2時間で血清中のsTNFR2/sTNFR1比が有意に増加した。以上の結果から,この血清中におけるIL-6とsTNFR2の産生量の増加が肺の局所炎症に対する全身反応であることが示唆される。この研究結果により,将来の局所炎症に対するサイトカインを用いた炎症制御療法の発展が期待される。
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TNF-αの新しい転写因子LITAFが歯周病病態に果たす役割
研究課題/領域番号:14571982 2002年 - 2003年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(C)
明貝 文夫, 新井 英雄, 西村 英紀, 高柴 正悟, 河野 隆幸, 前田 博史
配分額:4000000円 ( 直接経費:4000000円 )
抗LITAFモノクロナール抗体を用いてTHP-1細胞を免疫染色した結果,LPS-induced TNF-α factor(LITAF)は刺激のない状態では細胞質に存在するが,LPS刺激すると核内で豊富になることが判明した。ウエスタンブロット解析によって,THP-1の細胞質内と核内のそれぞれおけるLITAFタンパクの動態を示すことができた.すなわち,LPSで2時間刺激すると核内LITAFの量が上昇するが,その後24時間まではもとのレベルに戻った。他方,細胞質内LITAF量はLPSで刺激しても有意な変化は見られなかった。これらの結果から,LITAFタンパクはLPS刺激によって細胞質内から核内へと輸送されることが示唆された。LITAFタンパクは核移行シグナルを有さないので,他のDNA結合タンパクがその輸送に必要なのかも知れない。
ヒトゲノムライブラリからLITAFプロモーターの1.2kbをクローニング・シークエンスした。これについて詳細なレポータープラスミドを構築し,これをヒトT細胞株に導入してプロモーターアッセイを行った。プロモーター活性は-76から-43の領域で最大を示し,ここには既知のコンセンサスシークエンスが存在しなかった。LITAFの転写にはこの未知のシークエンスが重要な役割を果たすことが示唆された。 -
生物学的に修復象牙質を形成促進するための分子クローニングとその応用法に関する研究
研究課題/領域番号:14571844 2002年 - 2003年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(C)
園山 亘, 滝川 正春, 高柴 正悟, 窪木 拓男, 矢谷 博文
配分額:3900000円 ( 直接経費:3900000円 )
1.ヒト抜去歯からの歯髄細胞の単離とその表現系の確認
本学倫理委員会の許可のもと,ヒト抜去歯から歯髄細胞を単離し,その遺伝子発現をRT-PCR法で確認した。その結果,本細胞は象牙芽細胞特異的とされるdentinsialophosphoprotein(DSPP)を発現しており,象牙芽細胞,もしくは前象牙芽細胞からなる細胞群であると思われた。
2.本細胞の細胞接着,増殖,分化に与える各種成長因子の効果の検討
既存の因子の中で修復象牙質形成に関与していると思われるβ型形質転換増殖因子(TGF-β1),塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)と結合組織成長因子(CTGF)の細胞接着,増殖,分化に与える各種成長因子の効果を検討した。その結果,細胞接着はこれらの因子を培養プレートに吸着することにより促進された。また,細胞増殖はTGF-β1を培地に添加したときのみ有意に促進された。一方,アルカリフォスファターゼ活性は,bFGF, TGF-β1の添加により有意に抑制されたが,CTGF添加では,その影響は明らかでなかった。
3.ハイドロキシアパタイト(HAP)への細胞接着の検討
HAPに対する本細胞の3時間後の接着細胞数を検討したところ,ポリスチレン製の培養プレートに比較して,HAP上には有意に多くの細胞が接着していることが明らかとなった。
4.HAPが本細胞の分化に与える影響の検討
本細胞の遺伝子発現がHAP上で培養することにより影響を受けるかを検討したところ,DSPP,ならびにI型collagenの遺伝子発現が有意に促進しており,分化が誘導されていることが推測された。 -
歯周組織の治癒に関わる遺伝子の研究
研究課題/領域番号:01F00761 2001年 - 2002年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 特別研究員奨励費
高柴 正悟, 村山 洋二, PETELIN Milan, PETELIN M.
配分額:1000000円 ( 直接経費:1000000円 )
研究1 歯周病細菌Porphyromonas gingivalis (Pg)感染した肺炎マウスにおける局所・全身のTNF-αおよび可溶性TNFレセプターの産生動態
近年,歯周病細菌が何らかの経路で遠隔臓器に感染し,様々な為善作用を及ぼすことが知られるようになってきた。しかし,その詳細な生体反応のメカニズムについては不明である。本研究は,代表的な炎症性サイトカインであるTNF-αおよび可溶性TNFレセプター(sTNFR)の産生動態を指標に,Pg感染性肺炎が全身にどのような影響を及ぼすのかを調べた。
【方法】Pg感染を肺炎マウスにおいて,経時的にその肺抽出液および血清中のTNF-αおよび可溶性TNFレセプターの産生量を市販のELISAキットを用いて調べた。
【結果】肺抽出液中:TNF-α量は,Pg感染後2時間で有意に高い値を示した。また1型sTNFRの産生量は,感染の有無に関わらず変化しなかったが,2型sTNFRの産生量は,感染後1-3日まで有意に高い値を示した。血清中:TNF-α量は,感染の有無に関わらず変化しなかった。また,2型sTNFR/1型sTNFR比は,Pg感染後2時間で有意に高い値を示した。
【考察および結論】Pg感染後,肺局所において産生されたTNF-αの為害作用は,局所・全身ともに2型sTNFRの産生量が増すことによって抑制制御されている可能性がある。したがって,TNF-αを中心とした局所炎症の拡がりを制御するには,2型sTNFRが有効なのかもしれない。
研究2 ラット唾液腺に発現させた抗菌ペプチドを用いた歯周病抗菌療法における基礎研究
近年,医科額域における遺伝子治療の発展は目覚ましい。この流れから,我々は歯周病における遺伝子治療の応用を検討している。本研究では,ラット唾液腺に遺伝子を強制発現するための有効な手段を探るため,効率のよい遺伝子導入法を検討した。
【方法】ラット唾液腺に電気的手法,化学的手法および直接法の3種遺伝子導入方法でβ-gal遺伝子を発現させ,その発現強度を比較検討した。
【結果】化学的手法による遺伝子導入方法が,他の手法に比して有意に高いレベルでβ-galを発現した。
【考察および結論】歯周病抗菌療法には,化学的手法を用いた遺伝子導入法が有効な手段であることを示唆する。今後,βデフェンシンなどの抗菌物質を唾液腺に強制発現させ,歯周病抗菌療法の応用に向けた有効性を検討する予定である。 -
ティッシュエンジニアリングを用いた組織再生構築に関する総合的研究
研究課題/領域番号:12307051 2000年 - 2003年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(A)
山田 了, 前田 勝正, 高柴 正悟, 栗原 英見, 小田 茂, 長谷川 紘司
配分額:39730000円 ( 直接経費:33700000円 、 間接経費:6030000円 )
1.Mescnchymal stem cells部門:増殖歯根膿の基礎的成果をふまえて臨床応用の頃階に入った(山田、太田)。SPARCは組織分解とHPLcellsの増殖を促進し、歯周靭帯の修復過程に関与することが示唆された(栗原)歯肉線維芽細胞に比較しヒト歯根膜細胞においてmRNAの最も顕著な発現量を示した遺伝子は、PDL-29mRNAであり、in vitroがin vivoより大きいことを示した(高柴)。BMP-2依存的な骨芽細胞分化は、EP2/4アゴニストによりさらに増加することが確認された(長谷川)再生療法における移植材の開発で多層性線維芽細胞シートおよび細胞外マトリックスの役割について検索し、ティネシンの沈着は線維芽細胞の多層性増殖を促すことが示唆された(前田)。2.Gnowth factor部門:歯根膜細胞をbbFGFにて刺激することにより、高分子型のヒアルロン酸の生合成が誘導されること、シンデカン-2のsheddingが惹起された(村上)。ラットにおける再生された長い付着上皮について、NORsを標識するAgNOR染色法を用いて検索し、長い付着上皮が、増殖活性を維持する再生結合組織によって置換されることが示唆された(橋本)。rhBMP-2によって新生した歯周組織は長期的に維持されて機能し得ることが明らかになり、スペーサーの応用により骨性癒着を減少できることが示された(川浪)リン酸カルシウムセメント(CPC)の骨形成能をビーグル犬を用い検索し、セメントの吸収、ホール中の新生骨形成、血管供給が観察された(小田)。3.Matrix factor部門:生体吸収性GBR用PLLA頃を試作し、動物実験による病理組織学的検索により、長期吸収型PLLA膜は、臨床応用の可能性が示唆された(和泉)。人工歯相の第一段階であるセメント実の形成には、人工歯根表面の幾何学的性質が重要であることを明らかにした(滝田)
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根尖病巣が全身に及ぼす影響に関する研究
研究課題/領域番号:12307044 2000年 - 2002年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(A)
石原 祥世, 川島 信之, 野杁 由一郎, 高橋 慶壮, 長谷川 雅子, 林 義彦, 山本 宏治, 松下 健二, 高柴 正悟
配分額:34980000円 ( 直接経費:30600000円 、 間接経費:4380000円 )
感染根管歯に生息する嫌気性細菌およびそれら細菌により形成されたバイオフィルムの性状を生化学的および微細形態学的に解析し、(1)菌種によってバイオフィルム形成に差がある、(2)菌体外バイオフィルムにglycocalyx様構造物が存在する、ことを明らかにした。また、根管内細菌の同定法として、チェアーサイド嫌気システムによるE.faecalisの分離・同定法を確立した。さらに、polymerase chain reaction法を応用して感染根管内細菌の同定システムを構築した。
全身疾患と根尖病巣との関連をいくつかの易感染性宿主群について調べた。すなわち、非ホジキン病、C型肝炎、難治性皮膚疾患および70歳以上の老人病院入院患者を対象とし実態調査した。非ホジキン病およびC型肝炎患者では、根管治療に伴うCRP値の変動を調べたが、有意な関連は見出せていない。感染根管治療により皮膚の難治性痒疹湿疹が軽快することから、アトピー性皮膚炎および掌蹠膿疱症患者がどの程度歯周病関連細菌およびう蝕原性細菌に感作されているか免疫学的に検討し、アトピー性皮膚炎の末梢血T細胞は口腔レンサ球菌S.intermediusに強く感作されていること、また、アトピー性皮膚炎患者における歯根嚢胞の病態形成にはIL-8およびIL-6が関与していることを示唆した。さらに、掌蹠膿胞症患者は健常者に比較して有意に血中IL-8量が増加していることを明らかにした。高齢者は、根尖病巣に加えて歯周病に罹患した被験者が多く、根尖病巣単独の影響を評価できる被験者を増やす必要がある。残存歯(20本余)すべてが感染根管であり,副腎皮質ホルモンの使用のために易感染となっている患者に対して,感染根管治療を行った。その結果,内科的治療では低下しなかったCRPが正常値のレベルに低下した。 -
修復象牙質を生物学的に形成促進するための分子クローニングとその導入法に関する研究
研究課題/領域番号:12470418 2000年 - 2001年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(B)
窪木 拓男, 滝川 正春, 高柴 正悟, 園山 亘, 完山 学, 中西 徹
配分額:13800000円 ( 直接経費:13800000円 )
1.遺伝子導入法と導入率の検討
マーカー遺伝子を組み込んだアデノウイルスベクターを作製し,培養細胞に対しての導入効率を検討した.その結果ほぼすべての細胞で導入したマーカーの活性が認められ,培養細胞に対して高い効率で意図した遺伝子を導入できることが確認された.
2.動物モデルにおける既存の因子の局在の確認
既存の因子の中で修復象牙質形成に関与していると思われるβ型形質転換増殖因子(TGF-β)と結合組織成長因子(CTGF)の局在を免疫染色法により確認した.その結果,修復象牙質様硬組織が確認されるようになる2週後になると,TGF-β,CTGFともに同組織周囲で発現が強くなることが確認された.このことから細胞外基質の分泌ならびに石灰化にTGF-βならびにCTGFが強く関与している可能性が示唆された.
3.起炎性因子の刺激による両因子の発現の変動
象牙芽細胞様細胞を起炎性因子で刺激した際のTGF-β1とCTGFの遺伝子発現レベルの変動をRT-PCR法を用いて検討した.その結果TGF-β1とCTGFはともに象牙芽細胞様細胞株で恒常的に発現していることが初めて確認された.また,刺激から24時間後にはTGF-β1の発現は減少し,逆にCTGFの発現は増えることが確認された.これまでの結果をあわせて考えると,細胞外基質の分泌ならびに石灰化にTGF-βならびにCTGFが強く関与している可能性が示唆された.
4.TGF-β1とCTGFの作用の検討
象牙芽細胞様細胞が対数増殖期にある時に両因子を作用させ,増殖に与える影響を検討した.その結果TGF-β1は細胞増殖を抑制する傾向にあったが,CTGFはその増殖を妨げなかった.また,CTGFの石灰化に対する効果を検討するため,この細胞にCTGFを添加した際のアルカリフォスフォターゼ活性を測定した.その結果CTGFの明らかな効果は認められなかった. -
歯根吸収誘導因子の研究
研究課題/領域番号:12671851 2000年 - 2001年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(C)
明貝 文夫, 西村 英紀, 高柴 正悟, 村山 洋二, 河野 隆幸
配分額:3500000円 ( 直接経費:3500000円 )
歯根吸収を誘導する因子を得るために,機械的刺激を与えた歯根膜線維芽細胞においてmRNA量の増加する遺伝子をサブトラクティプハイブリダイゼーション法でスクリーニングした。そして,候補遺伝子を多数クローニングすることに成功し,これらの特徴について以下の結果を得た。
1.候補遺伝子の歯根膜線維芽細胞におけるmRNA発現をリバースノーザン法で調べたところ,機械的刺激によってRNA量が顕著に増加する遺伝子断片1-15を得た。
2.上記遺伝子断片をプローブしてヒトcDNAライブラリをスクリーニングしたところ,2.3kbのクロンを得ることに成功した.この遺伝子の塩基配列を決定したところ,これはMRGX cDNAであることが判明した。MRGXは最近報告されたタイプの転写因子であった。
3.歯根膜線維芽細胞は械的刺激によってMRGX mRNA発現が誘導された。さらに,この条件においてTGF-β mRNA発現も誘導されていた。TGF-βのプロモーター領域には,shear-stress-responsive elementが存在する。
4.MRGXのantisense RNAを歯根膜線維芽細胞に強制発現させた場合には,TGF-βのmRNA発現量は増加した。このことは,MRGXが直接的にかあるいは間接的に制御する可能性を示すものである。また,機械的刺激を加えない条件下でも,歯根膜線維芽細胞はMRGXを発現していることがノーザンハイブリダイゼーション法で確認できた。従って,歯根膜線維芽細胞は械的刺激を受けると,MRGXを介してTGF-βのmRNA発現が調節されることが考えられた。
TGF-βは破骨細胞を活性化する作用がある。外傷力を受けた歯の歯根膜細胞は,MRGXの制御が外れるとTGF-βを旺盛に産生する可能性がある。破歯細胞は破骨細胞に似るとされており,MRGXは歯根吸収に関わる候補因子として位置付けることができる。 -
歯周病治療のための口腔細菌モニタリングシステム
研究課題/領域番号:12557192 2000年 - 2001年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(B)
村山 洋二, 西村 英紀, 新井 英雄, 高柴 正悟, 原田 慶宏, 苔口 進
配分額:12300000円 ( 直接経費:12300000円 )
歯周病の診断における細菌学的検査の必要性は高まっている。これまでの検査は細菌の培養操作を必要とし,膨大な時間と労力を要するものであった。このため,実際の臨床の場に応用することが困難であった。近年,分子生物学の発展により,PCR法を応用した遺伝子レベルの細菌検出法が開発され,急速に臨床応用されつつある。PCR法は感度や迅速性・簡便性には優れているが,定量的な判断は難しい。本研究はこの問題点を解決するためにリアルタイムPCR法を用いた口腔細菌モニタリングシステムの開発を目的とした。
PCRは16S rRNA遺伝子を標的とし,細菌共通のプライマー,歯周病細菌特異的プライマー(Porphyromonas gingivalis, Actinobacillus actinomycetemcomitans, prevotella intermedia用),そして抗生剤(テトラサイクリン)耐性遺伝子tetQ用のプライマーを複数設計して,特異性と定量性の面で優れたプライマーの選択と反応条件の検討を行った。結果として,歯周ポケット内の総細菌と特異細菌の検出・定量が10-10^7cellの範囲で可能となった。PCR産物の検出にはSYBR GreenとTaqMan systemの両方法を用いたが,2方法の間に感度,定量性と特異性においての差はなかった。コスト面ではSYBR Greenの検出法が安価であるために臨床サンプルを用いた実験にはSYBR Greenを用いることとした。
確立したリアルタイムPCR法と従来のPCR法の結果を臨床サンプルで比較したところ,両者の結果は概ね一致した。また薬剤耐性遺伝子tetQの定量も可能となり,薬剤耐性菌のモニタリングを組み込んだ歯周病細菌検査システムを確立することができた。 -
歯周病の発症と進行に関わる交叉免疫応答を誘導する抗原蛋白
研究課題/領域番号:12877343 2000年 - 2001年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 萌芽的研究
村山 洋二, 大山 秀樹, 西村 英紀, 高柴 正悟, 河野 隆幸
配分額:2000000円 ( 直接経費:2000000円 )
Prophyromonas gingivalis由来の分子量53kDaの外膜蛋白(Ag53)は,多くの歯周炎患者由来のIgG抗体およびヘルパーT細胞株によって共通して認識される領域(Ag53p141-161)を有する。本研究において我々は、歯周病細菌抗原由来蛋白を認識するT細胞が他の抗原蛋白と交叉応答し得ることを明らかにすることを目的とした。昨年度我々は、早期発症型歯周炎患者の末梢血単核球からAg53p141-161をHLA-DRB1^*1501拘束的に認識するTh細胞クローン(HT8.3)を樹立した。さらに,Ag53p141-161のアミノ酸配列と相同性を示す領域を有する蛋白5種類をデータベースから探り当てた。しかし,相同性を示す領域の合成ペプチドを作成したが,これらペプチドに対してHT8.3は応答性を示さなかった。このことは,Ag53p141-161の領域において,どの部位がT細胞の抗原認識に関わるかについての詳細を明らかにすることが必須であることを示唆するものである。
以上のことから本年度は,1)HT8.3の抗原認識に関わる詳細な部分を知ること,さらには2)Ag53p141-161において抗原認識に関わる詳細な部分のアミノ酸置換ペプチドに対するTh細胞の応答性を調べることを行なった。その結果,1)Ag53p141-161において,T細胞の抗原認識に関わる領域はAg53p144-155であること,2)Ag53p144-155においてp147(V)を1leにp151(A)をGlyにそれぞれ1残基置換したペプチドは,野性型ペプチドよりも低濃度でHT8-3の増殖応答を誘導することを突き止めた。
これらのペプチドの発見によって,歯周病細菌抗原由来蛋白を認識するT細胞が他の抗原蛋白と交叉応答し得ることの可能性,さらにはアナログペプチドを用いた免疫療法の進展への可能性が示唆された。 -
単球系細胞が産生するTNF-αの新規転写因子を制御することによる歯周炎治療
研究課題/領域番号:12470471 2000年 - 2001年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(B)
高柴 正悟, 前田 博史, 明貝 文夫, 西村 英紀
配分額:13100000円 ( 直接経費:13100000円 )
グラム陰性菌の内毒素であるLPSの刺激を受けた単球系細胞が腫瘍壊死因子アルファ(TNF-α)を産生して,炎症の進行とそれに伴う組織の破壊が生ずる。これは,歯周病に罹患した歯周組織でも同様である。そこで,TNF-αの産生を制御する試みとしてTNF-α遺伝子の転写に関わるが,細胞の他の活性にも強く関わるNF-κBではなく,我々が新規に得たLPS誘導性の転写因子であるLITAF(LPS-induced TNF-α factor)を用いて,TNF-α遺伝子の転写を制御しようとした。LITAFの産生をLITAF遺伝子のアンチセンス・オリゴヌクレオチドを用いて抑制するとTNF-αの遺伝子転写が抑制されることはわかっている。
LITAF遺伝子の転写に関わるプロモーター領域の塩基配列を解析して,LITAFの遺伝子転写に関わるLPS誘導性の転写因子の候補を推定するとともに,レポーター遺伝子を用いてLPSが強く関わるLITAF遺伝子の転写に必要なプロモーター領域を明らかにできた。一方で,LPS刺激をうけた単球内では,細胞質内に広く存在していたLITAFが核内に集積してくることを,免疫染色と免疫ブロツト法で明らかにした。また,この因子を実際に導入する系を確立するためにβ-galactosidaseを組み込んだvectorをラットに遺伝子導入し,その発現を確認した。
さらに,NF-κBの抑制因子の一つであるIκB-αの変異体遺伝子を単球に導入して,NF-κBが関与しない条件下でのLITAFのTNF-α産生への影響度を検討するとともに,LITAFの抑制効果を検討する実験系を樹立した。現段階では系の樹立にとどまっているが,本研究期間の終了後にあっても,この系を用いてTNF-α産生に対するLITAFの作用の度合いとその抑制効果を検討する予定である。 -
早期発症型歯周炎の病態解析と診断基準確立に向けた共同研究の企画調査
研究課題/領域番号:12897021 2000年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(C)
山崎 和久, 高柴 正悟, 栗原 英見, 吉江 弘正, 相田 宜利, 村上 伸也
配分額:3100000円 ( 直接経費:3100000円 )
早期発症型歯周炎(Early-Onset Periodontitis;EOP)は乳歯あるいは永久歯列を有する者において、いわゆる成人性歯周炎の発症時期よりも明らかに早期に発症し、その後、急速な進行経過をたどって歯の脱落にいたる疾患である。本邦における発症頻度は欧米におけるそれと比較してかなり低いといわれているが(岡本ら0.18%)、全国規模での疫学調査報告はなく、詳細については明らかになっていない。その発症には細菌学的、免疫学的要因の関与が示唆されているが、成人性歯周炎におけるそれらと同様、単一病原細菌による特異的な疾患ではなく、複数の細菌種が関与しているという報告がほとんどであるが、欧米においては主要な原因菌としてActinobacillus actinomycetemcomitans(Aa)がもっとも注目されており、その病原因子や、病態との関連について多くの報告がある。また、宿主防御機構の異常が示唆されることから免疫機能に関係している因子についても多くの研究があり、免疫担当細胞の機能異常との関連が示唆されている。しかし、日本人早期発症型歯周炎とAa菌の関連は低いとする報告や、宿主防御機能の低下についても統一された見解は得られていない。この理由は診断に統一された基準が無く、いずれもAAPの基準を参考に独自の基準を加えて行っていることによると思われる。そこで、本企画調査では日本人における早期発症型歯周炎の病態を明らかにし、診断の一助とするために患者集団の選択、細菌検査・免疫学的検査の項目・方法を統一するための基準作りをすることが決められた。
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象牙質特異遺伝子を局所に導入することによって歯質保全を図る研究
研究課題/領域番号:11557143 1999年 - 2001年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(B)
高柴 正悟, 明貝 文夫, 新井 英雄, 村山 洋二
配分額:8700000円 ( 直接経費:8700000円 )
象牙質の再生に関与すると思われる遺伝子を,象牙質窩洞を形成したラット臼歯の歯髄からsubtractive hybridizationによって得た。その総数は,250bp以上の断片長のものに絞ると,歯髄傷害時に発現量が増加したものが16種,減少したものが7種であった。増加したものには,チトクロムc,カテプシンB,機能が不明な3種のEST(expressed sequence tags)遺伝子,さらに1種類の未知の遺伝子を含んでいた。減少したものには,リボゾームタンパク,ラミニンγ2鎖遺伝子,I型コラーゲンα2鎖遺伝子,さらに2種の未知の遺伝子を含んでいた。これらの遺伝子の歯髄内における発現状態(発現している細胞とその位置)をin situ hybridizationにて調べようとした。しかし,明瞭な結果を得ることに至っていない。一方,Northern hybridizationによって,1種類のEST遺伝子の発現の差が最も大きいと判断できた。そこで,この遺伝子の全長を得て,この遺伝子は約3.8kbであること,そしてヒトFIP-2(Adenovirus 14.7kDa-interacting protein)に一部分で83%の相同性があることが判明した。さらに,この遺伝子は,FIP-2遺伝子よりも翻訳部分が長く,ジンクフィンガードメインとロイシンジッパーを含むコイルドコイルドドメインの構造を持っていた。
一方,既知の遺伝子を歯髄組織に導入する試みは昨年までの進展状況から変化していない。ベクター系をプラスミド系とウィルス系の2種を用いて,導入効率を検討する段階にある。β-ガラクトシダーゼ遺伝子を組み込んだAdenovirus系の発現ベクターを用いて展開した。導入効率はプラスミドベクター系よりも高いようであったが,導入されている部分は歯髄組織の最表層であり,両ベクター間での違いはほとんどなかった。深部への浸透を必要とするのか,あるいは表層でよいのかを考察する必要がある。
特定の遺伝子を選択することと遺伝子導入の効率を考慮することが,本研究の根本的な問題である。遺伝子導入の効率向上と反復使用を可能にするベクター系の開発が必要である。さらに,特定遺伝子の同定が進んできているので遺伝子の選択という問題は解決されるであろうが,発現誘導を歯髄のどの部分で行えばよいかが今後の問題となるであろう。 -
上皮由来抗菌ペプチドの利用による歯周病原性細菌の感染予防にむけて
研究課題/領域番号:11877366 1999年 - 2000年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 萌芽的研究
高柴 正悟, 苔口 進, 前田 博史, 明貝 文夫
配分額:2000000円 ( 直接経費:2000000円 )
ヒト上皮細胞の産生するヒト型ベータデフェンシン-2(HBD-2)には,サイトカインや細菌内毒素の刺激によってその産生が誘導される特徴があるので,感染頻度の高い口腔内において,HBD-2の感染予防治療への応用が期待される。本研究では,HBD-2の発現様態と転写制御因子を解明することを目的とした。
歯周病罹患歯肉中にHBD-2のmRNA発現を検出し,そのcDNAをクローニングした。また,同歯肉を用いた組織免疫染色によって歯肉上皮顆粒層にHBD-2を検出した。この遺伝子をテトラサイクリンによって転写活性を制御することができる哺乳動物発現ベクターpTRE-Mycに挿入し,子宮頚部上皮癌細胞にin vitro遺伝子導入を行って,テトラサイクリンを添加することによってHBD-2遺伝子(hbd-2)の転写を制御した。そして,この細胞の溶解液中のHBD-2の産生をELISA法によって確認した。さらに,この細胞溶解液は大腸菌に対して抗菌活性を示すことがわかった。今後は,ラット等を用いたin vivoにおける遺伝子導入において,テトラサイクリンによる制御を試みる必要がある。一方,導入と発現の効率を向上させるために,海外の研究者の協力の下,ウイルス由来の新規発現ベクターにhbd-2を挿入している途中である。
また,hbd-2プロモーターをクローニングし,β-ガラクトシダーゼをレポーター遺伝子として有しているpSEAPベクターに挿入した。これを子宮頚部上皮癌細胞に導入し,細菌内毒素刺激下での同細胞の産生するβ-ガラクトシダーゼ活性を測定することによって,hbd-2プロモーター領域中の転写制御領域を特定することを試みた。その結果,転写開始点から352bp上流領域に制御部位が存在することがわかった。今後は,この部に結合する転写制御因子を特定する必要がある。 -
骨芽細胞分化マーカーCbfa1遺伝子産物を応用した骨再生誘導に関する研究
研究課題/領域番号:10671967 1998年 - 1999年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(C)
明貝 文夫, 高柴 正悟, 村山 洋二
配分額:3200000円 ( 直接経費:3200000円 )
歯槽骨の再生過程においてCbfa1を含む骨再生関連候補遺伝子について発現様態を調べ,そして外来遺伝子導入の基礎実験を行い以下の成果を得た。
骨再生過程の組織は,ラットの臼歯部歯槽骨に骨欠損を人工的に作成し,治癒過程にあるに肉芽とその周囲の骨組織とした。この組織は摘出し,組織標本を作成した。歯槽骨に欠損を形成した後の1週目では,欠損内は幼若な肉芽組織で占められていた。2週目には,肉芽組織内に血管の増生を確認した。4週目では,歯槽骨の欠損面に染色性が異なるとともにその表層に骨芽細胞様細胞が配列する骨梁を確認した。歯槽骨の再生過程において骨再生関連候補遺伝子の発現をリバースノーザンハイブリダイゼーションで調べた。この組織においては,Cbfa1のみならずBGPおよびTGF-βとその受容体の遺伝子のmRNAを検出できた。そして,mRNA量が骨の再生過程において経時的に変化する遺伝子は,TGF-βとその受容体であるTGFβR-IIIであった。
Cbfa1遺伝子産物を骨再生に応用するためには,先ず外来遺伝子を細胞に発現させ,その遺伝子産物が活性を発揮させる系を確立することが必須条件である。そこで,ヒトIL-1βcDNA全長を発現ベクターに挿入し,これを培養COS-1に遺伝子導入することによって発現細胞株を得た。そして,この細胞株とヒト歯肉線維芽細胞を共培養した。In situハイブリダイゼーションでIL-8遺伝子発現細胞を調べたところ,COS-1に近接するヒト歯肉線維芽細胞にIL-8 mRNAを検出した。この結果は,外来性遺伝子を発現させた細胞を生体に移植すると,その周囲の細胞が新たなる遺伝子発現を発揚される可能性を示すものであった。 -
ダウン症患者における歯周炎発症に関する包括的研究
研究課題/領域番号:10671966 1998年 - 1999年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(C)
西村 英紀, 高柴 正悟, 苔口 進, 江草 正彦, 高橋 慶壮
配分額:3000000円 ( 直接経費:3000000円 )
(1)ダウン症患者の末梢血好中球機能:ダウン症患者の好中球走化能を走化因子としてFMLP,IL-8,C5aを用い評価した。その結果,ダウン症患者由来好中球は用いたいずれの走化因子に対しても濃度依存性に走化性を示した。また至適走化因子濃度における遊走細胞数は同年代の健常対照と同程度であり,機能低下はなかった。すなわち従来報告されているような好中球の走化能に機能低下はなかった。
(2)in vitroにおける組織修復機能:ダウン症患者の体細胞は,健常者に比べ,より急激な速度で老化(replicative senescence)することが知られている。これは,細胞の老化マーカーであるテロメアの短縮速度が正常細胞に比べ速いことに起因する。また,静止期に達した細胞では増殖因子による刺激に対して細胞増殖に必須の転写因子であるc-fosの発現が低下することが知られている.そこで,ダウン症患者の体細胞モデルとして老年者由来細胞を用い,塩基性線維芽細胞増殖因子に対する走化能を若年者由来細胞と比較した。細胞には歯周組織の再構築に最も重要であるとされる歯根膜線維芽細胞を用いた。生体の老化に伴って,歯根膜線維芽細胞の遊走能が低下した。また,走化したすべての細包がc-fosを発現しているのに対し,遊走しない細胞では。c-fosを発現した細胞とそうでない細胞が混在していたことから,c-fosが細胞の遊走に関与すること,また老化細胞における走化活性の低下にc-fosの発現低下が深く関与することが示唆された。以上の結果から,ダウン症患者に見られる重度歯周炎の成因には,従来報告のある好中球の機能低下よりも,生体の急激な老化現象がもたらす歯根膜組織の修復能力の低下が関与する可能件が示された。 -
歯周病関連遺伝子に関する総合研究
研究課題/領域番号:10357020 1998年 - 1999年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(A)
栗原 英見, 菅井 基行, 岡田 宏, 安孫子 宜光, 山崎 和久, 高柴 正悟, 安孫子 宜光, 片岡 正俊
配分額:25300000円 ( 直接経費:25300000円 )
歯周病に関連する遺伝子を,染色細菌,宿主防御,代謝,組織再生という視点から多角的に検討した.
感染細菌に関しては,Porphyromonas gingivalis由来のヘマグルチニンの遺伝子配列から機能ドメインを解明した.P.gingivalisヘマグルチニンの結合ドメインにはPVQNLTという特異的な配列があり,インフルエンザウィルスのそれと高い相合性を有していた.また,Actinobacillus actinomycetemcomitansから新規のcytolethal distending toxin遺伝子(Aa cdt)をクローニングに成功した.As cdtは3つのクラスターから構成され,それぞれCDT A,B,Cをコードしていた.E.coliを用いた欠失実験から毒素活性にはCDT A,B,Cの全てが必要であることを明らかにした.一方,宿主防御に関しては,歯周炎患者血清中に存在する自己抗体産生に関連する遺伝子をT細胞受容体(TCR)とヒト白血球型抗原(HLA)から解析した.TCRについては,リコンビナントhsp60およびP.gingivalisのGroELによって抹消血T細胞を刺激した後,TCRβ鎖のCDR3領域を解析し,増殖したT細胞のクローンと歯周組織に集積しているT細胞が同一のCDR3アミノ酸配列を有することを明らかにした.HLAについては,歯肉あるいは歯周靭帯由来の線維芽細胞に対する自己抗体を持つ患者はparvovirus B19に対しても高い抗体価を示し,これらの患者のHLA class II genotypeは,DQA1^*0101,DQA1^*0501,DQB1^*0503の発現頻度が健常者よりも高いことを明らかにした.また,欧米で報告のあるIL-1のgenotypeと成人性歯周炎との関連については,調べた限りにおいては,日本人ではIL-1のgenotypeと成人性歯周炎との間に相関はなかった.
歯周炎を伴うことが多い低フホスファターゼ症について,2名の発端者およびその家族から臓器非特異性アルカリホスファターゼ遺伝子に新たな点突然変異を見出した.
組織再生に関わる未知の遺伝子の検出は,創傷治癒過程の歯周組織と健康歯周組織から得た遺伝子をサブトラクション法で行った.その結果,治癒過程で発現が増加する未知の16個のcDNAと発現が減少する未知の9個のcDNAを分離することに成功した. -
歯髄細胞から象牙芽細胞への分化と歯髄の石灰化に対する研究
研究課題/領域番号:09307045 1997年 - 1999年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(A)
上野 和之, 高柴 正悟, 加藤 喜郎, 岩久 正明, 泉 利雄, 冨士谷 盛興, 八重柏 隆, 熊谷 敦史, 横瀬 敏志, 斉藤 隆史
配分額:30900000円 ( 直接経費:30900000円 )
象牙芽細胞の活性化による損傷象牙質の再構築は歯の長期保存には重要である。歯髄細胞から象牙芽細胞への分化,および歯髄の石灰化には、種々の成長因子が深く関与していると考えられているが、そのメカニズムの細胞については明らかにされていない。本実験は、これらのメカニズムを解明するために、人歯髄および動物歯髄各々の実験系を用いて検索を試みた。
人歯髄を用いた実験系では、歯髄の器官培養系の確立と分化の可能性、Dentin bridge形成過程におけるヒト歯髄神経終末の役割、重度辺縁性歯周炎と歯髄石灰化との関連,TGF-β、bFGFによるオステオカルシン等の発現の及ぼす活性化ビタミンD_3の影響等が示された。動物歯髄を用いた実験系では,歯髄刺激時に発現する遺伝子およびその導入,歯根部硬組織形成におけるbFGFの影響,YAG laserによる窩洞形成後の子髄反応、控訴し北色蛍光ラべリング法による被蓋硬組織の形成過程,石灰化促進機能を有する接着性レジン直接覆髄剤の開発,in vitroにおける象牙質コラーゲンの石灰化,ラット歯髄細胞の培養系の確立などに関して示された。
今回の一連の研究から,歯髄細胞から象牙芽細胞への分化に関与する作用因子の究明や象牙質形成に影響する非生物学的材料の影響についてはある程度まで解明され,その一部は臨床応用に結びつく可能性が示唆された。また、異栄養性の石灰化に影響を及ぼす作用因子の存在の可能性も強く示唆された。 -
種々なるGrowth factorを応用した歯周組織再建に関する総合的研究
研究課題/領域番号:09307041 1997年 - 1999年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(A)
加藤 熈, 川浪 雅光, 亀山 洋一郎, 前田 勝正, 小田 茂, 高田 隆, 高柴 正悟, 川瀬 俊夫, 大塚 吉兵衛
配分額:38600000円 ( 直接経費:38600000円 )
1.rhBMPを用いた歯周組織再建法の検討
牛骨より抽出したBMPとrhBMP-2とでは,歯周組織に対する反応が異なることが明らかとなった。そこで臨床応用を考え,免疫学的に問題が少なく骨形成能も高いrhBMP-2を中心に歯周組織細胞を用いた研究,および担体に免疫学的に副作用のないポリ乳酸グリコール酸ゼラチン複合体(PGS)を用い動物実験を行った。その結果,rhBMP-2は歯根膜細胞の石灰化能を高めること,PGSを担体として骨欠損を伴う歯周病の治療に用いた場合,歯槽骨のほかセメント質と歯根膜も再生可能であること,中高齢ラットでも骨再生能が著しく増加することが明らかとなった。
2.PDGF,IGF,TGF-β,b-FGFによる歯周組織再建法の検討
PDGF,IGF,TGF-β,b-FGFが歯周組織細胞へ与える影響検討した結果,PDGF-BBは歯根膜細胞の増殖を促進する作用があり,イヌを用いた実験では歯根再植時に用いると根と骨の癒着を防ぐことが示された。IGFとb-FGFは歯根膜細胞の増殖を促進すること,TGF-βは歯肉線維芽細胞を増殖させること,さらにこれらの因子の併用により細胞増殖が増加することが明らかとなった。
3.象牙質や歯周組織に含まれる新しいGrowth factorの検討
象牙質,セメント質,再生途中の組織に含まれるgrowth factorを検討した結果,象牙質中の非コラーゲン蛋白は骨原性細胞や骨芽細胞の増殖を抑制するが,TGF-βを含み骨芽細胞に作用すると考えられた。セメント質にはセメント質由来増殖因子(CGF)が存在し,歯槽骨細胞を増殖させることが明らかとなった。再生途中の歯周組織には骨やセメント質の再生能が認められた。
4.まとめと今後の研究課題
rhBMPは歯周組織再建法に臨床応用できる可能性が高いことが明らかとなり,他のgrowth factorも歯周組織への反応がかなり明らかにされた。今後は各factorの単独使用や併用法について更なる研究を行い再建効果や副作用を明確にする必要がある。 -
合成ペプチドを用いた歯周病の免疫療法確立のための基礎的研究
研究課題/領域番号:09470425 1997年 - 1998年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(B)
村山 洋二, 大山 秀樹, 西村 英紀, 高柴 正悟
配分額:12000000円 ( 直接経費:12000000円 )
歯周病に対して合成ペプチドを用いたP.gingivalis感染に対する免疫療法を導入する試みの第一歩として,Ag53に対するT細胞応答性(T細胞認識部位,HLA拘束性,リンフォカイン産生性および抗体産生への関与)を歯周病に対する疾患感受性の異なるグループ間で比較し,分子レベルでその違いを把握することを行った。その結果は以下の通りである。
1) Ag53を特異的に認識するT細胞株を早期発症型歯周病(EOP)患者6名および健常者16名の被験者から樹立し,それらT細胞株のAg53上の認識部位を調べた結果,EOP患者由来のT細胞株の多くは,Ag53の特定の領域Ag53p141-161をT細胞エピトープとして認識した。それら被験者は共通したHLAハプロタイプを有さなかった。
2) Ag53に対するT細胞応答は,多くの被験者でHLA-DRBl分子拘束性であった。
3) すべてのT細胞株は,Thlタイプのサイトカインであるインターフェロン-γ(IFN-γ)を産生した。Th2タイプのサイトカイン(IL-4,5,6,10)の産生様態は各株ごとに異なった。
4) T細胞が産生するサイトカインがIgG抗体産生にどのように影響するかを評価した結果,Th1に対するTh2タイプのサイトカイン産生量の比率(Th2/Th1)が高いT細胞株は,強いAg53特異的IgG抗体産生を誘導した。しかし,Th2/Th1が低いT細胞株は,抗体産生を誘導しなかった。
5) Ag53特異的IgG抗体産生が誘導された系の培養上清に含まれるIL-5量は,産生のなかった系に比較して多かった。以上の結果は,T細胞株が産生するIL-5が,Ag53特異的なIgG抗体産生に影響を与えることを示唆するものである。
以上の結果から,Ag53p141-161に対するT細胞応答性の違いはP.gingivalis感染に対する感受性を反映する可能性がある。