共同研究・競争的資金等の研究 - 杉生 憲志
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虚血脳に対する神経幹細胞移植に関する研究
研究課題/領域番号:15591524 2003年 - 2006年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(C) 基盤研究(C)
徳永 浩司, 伊達 勲, 杉生 憲志, 三好 康之, 小野田 惠介, 松井 利浩, 新郷 哲郎, 西尾 晋作
配分額:3300000円 ( 直接経費:3300000円 )
脳虚血に対して、神経幹細胞を用いた脳内移植療法を実現するためには、自家の神経幹細胞を用いることが最も安全で有用な治療法の一つと考え、成体由来神経幹細胞を用いた研究を行った。まず、齧歯類や霊長類の成体脳から神経幹細胞の培養を行うことができ、移植に必要な細胞数まで増殖させ、ニューロンへ分化させることが可能であることを示した。
この成体由来神経幹細胞を用いて急性期脳虚血モデル動物に対して脳内移植を行ったところ、神経保護効果を持つことを画像的(臨床機である1.5TMRIを使用)、行動学的および組織学的に示した。このメカニズムとして、移植した神経幹細胞より産生される神経栄養因子やサイトカインの組み合わせによる効果が考えられる。
次に、成体由来神経幹細胞に強い神経保護効果を有するGDNF遺伝子を導入して、GDNF産生神経幹細胞を作製し、この細胞を脳虚血モデルラットに脳内移植を行ったところ、強い神経保護効果を持つことを画像的(MRIを使用)、行動学的および組織学的に示した。GDNF産生神経幹細胞は、より多くのニューロンへ分化する傾向を示し、さらに移植した中心よりより遠方まで遊走する傾向を示した。
最後に、成体由来神経幹細胞を慢性期脳虚血モデル動物に脳内移植することにより、神経症状の改善および梗塞巣の修復作用を示した。この機序として、移植した神経幹細胞がニューロンへ分化し宿主ニューロンとシナプスを形成するだけではなく、移植による宿主内の微小環境の変化や分化したグリアかち産生される神経栄養因子の関与が示唆された。
このように成体由来神経幹細胞の脳内移植は脳虚血に対して有用であることが判明した。 -
ウイルスベクターを用いた悪性脳腫瘍の研究
研究課題/領域番号:14571312 2002年 - 2003年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(C) 基盤研究(C)
小野 恭裕, 小野 成紀, 徳永 浩司, 杉生 憲志, 富田 享, 田宮 隆
配分額:3400000円 ( 直接経費:3400000円 )
我々は遺伝子導入効率の高いアデノウィルスをベクターとしてHSV-tkやcytosine deaminase遺伝子などの薬剤変換酵素遺伝子を用いた悪性脳腫瘍遺伝子治療の基礎研究を行ってきた。これらの治療法の有効性や副作用については、動物脳腫瘍モデルを用いて研究を行い、その成果を学会および雑誌で発表してきた。本研究では、治療後の再発の原因となる浸潤脳腫瘍細胞をより選択的かつ効率的に殺傷することを目標として、神経幹細胞を用いた新しい遺伝子治療の可能性について検討した。まず実験に用いる幹細胞として、神経幹細胞と骨髄幹細胞を用いて培養実験を行った。神経幹細胞に比べ骨髄幹細胞は採取・培養が容易であり、骨髄幹細胞も神経、グリアに分化する能力を持っていた。動物脳腫瘍モデルにおいては、神経幹細胞または骨髄幹細胞を、腫瘍内あるいは腫瘍外に移植すると、腫瘍内に拡散し、腫瘍の辺縁へ向かって腫瘍細胞を追尾することを確認した。幹細胞への遺伝子導入にはアデノウィルスを利用したが、遺伝子の導入効率を挙げるために、その他のウィルスベクターについても検討中である。ウィルスベクターによりHSV-tkやcytosine deaminase遺伝子などの薬剤変換酵素遺伝子を導入した幹細胞の治療効果をみるために、遺伝子導入幹細胞を腫瘍細胞と混合して培養細胞にprodrugを投与したところ、強いbystander effectによる抗腫瘍効果を認めた。そして遺伝子導入幹細胞を動物腫瘍モデルに注入する実験では、遺伝子導入幹細胞が、腫瘍細胞を追尾することは確認されたが、十分な治療効果を得るには相当数の幹細胞の移植が必用と考えられた。この点については、幹細胞の増殖速度を増すようp21の発現をribozymeにより抑制した幹細胞を作成し、その治療効果について検討中である。
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HSV/EBVハイブリッドアンプリコンを用いた悪性脳腫瘍の遺伝子治療の研究
研究課題/領域番号:14370433 2002年 - 2003年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(B) 基盤研究(B)
田宮 隆, 小野 恭裕, 松本 義人, 河井 信行, 杉生 憲志, 徳永 浩司, 富田 享
配分額:10500000円 ( 直接経費:10500000円 )
我々は以前より、種々のウィルスベクターの開発と悪性脳腫瘍に対する遺伝子治療の研究を行ってきた。より臨床応用に近づく遺伝子治療法の開発を行うことを目的として、今回HSV/EBVハイブリッドアンプリコンによる遺伝子導入法の開発、導入遺伝子発現のMRIによる画像化システムの開発、そして最も効果的な治療遺伝子の選択等について検討している。
まず、以前からのアデノウイルスベクターを用いた悪性脳腫瘍の遺伝子治療の研究の続きとして、薬剤感受性遺伝子治療と放射線療法の併用療法の効果を検討し、培養細胞のみならずラットの脳腫瘍モデルにおいても、明らかとした(Cancer Gene Therapy 9:840-845, 2002)。また、Cytosine deaminase遺伝子と5-Fluorocytosineを用いた薬剤感受性遺伝子治療の抗腫瘍効果の機序が、主にアポトーシスを介してであることを、分子レベルで明らかとした(J of Neuro-Oncology 66:117-127, 2004)。
現在、新たなヘルペスウィルスI型を基礎とするアンプリコンベクターにEBウィルス遺伝子を組み込み、HSV/EBVハイブリッドベクターとすることにより、標的細胞内での遺伝子発現が上昇、延長するベクターを開発中である。また、生体での遺伝子の発現とその分布を非侵襲的にモニターするために、MRIを用いた画像化システムを開発中である。さらに、HSV/EBVハイブリッドアンプリコンベクターを用いて、薬剤感受性遺伝子治療や免疫遺伝子治療を組み合わせることにより、悪性脳腫瘍に対する遺伝子治療の効果的な方法を確立する。 -
カプセル化神経伝達物質・神経栄養因子産生細胞脳内移植によるパーキンソン病の治療
研究課題/領域番号:13671436 2001年 - 2004年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(C) 基盤研究(C)
伊達 勲, 杉生 憲志, 徳永 浩司, 三好 康之, 小野 成紀, 松井 利浩, 西尾 晋作, 富田 享, 大本 堯史
配分額:3700000円 ( 直接経費:3700000円 )
パーキンソン病の治療を目指して再生医学の立場から種々の療法が検討されている。脳内に神経伝達物質や神経栄養因子産生細胞株を移植する方法もその一つの方法であり、分子生物学的手法の発達により注目を集めている方法である。ドパミンを産生する細胞株やglial cell line-derived neurotrophic factor (GDNF)を産生する細胞株などが用いられるが、これらの細胞株を脳内移植する際、免疫学的拒絶反応や腫瘍化を制御することが重要である。我々は、高分子半透膜製の中空糸にこれらの細胞株を封入して移植するカプセル化細胞の脳内移植を開発し、本研究ではこの手法を用いて、パーキンソン病の治療を目指した種々の検討を行った。パーキンソン病モデルとしては、1側の黒質線条体ドパミン神経系を6-hydroxydopamine(6-OHDA)で破壊した片側パーキンソン病モデルを用い、分析は、組織学的にはtyrosine hydroxylase (TH)に対する抗体を用いた免疫組織化学で黒質のドパミン細胞数、線条体のドパミン線維の密度を検討、生化学的には高速液体クロマトグラフィーで線条体のドパミン濃度を測定、行動学的には、アポモルフィンおよびアンフェタミン注入による薬物誘発回転運動を検討した。
本研究期間に以下の点が明らかとなった。
1.ドパミン産生細胞株であるPC12細胞、GDNF産生細胞株であるBHK-GDNF細胞ともカプセル内で12カ月の長期にわたって生存し、ドパミンGDNFを持続的に産生した。
2.パーキンソン病モデルラットの改善効果が、組織学的、生化学的、機能的に認められた。
3.PC12細胞にGDNF遺伝子を導入したPC12-GDNF細胞は、ドパミンとGDNFの両者を長期にわたって産生した。
4.GDNF産生細胞株とBDNF産生細胞株を同時に移植するとより効果的であった。
これらの結果からカプセル化した神経伝達物質、神経栄養因子産生細胞株の脳内移植は、パーキンソン病の治療法として有用であることが期待される。 -
パーキンソン病に対する神経伝達物質及び神経栄養因子の遺伝子導入に関する研究
研究課題/領域番号:13470294 2001年 - 2004年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(B) 基盤研究(B)
小野 成紀, 大本 尭史, 伊達 勲, 杉生 憲志, 徳永 浩司, 三好 康之, 松井 利浩, 西尾 晋作, 富田 享, 小野 成紀
配分額:10700000円 ( 直接経費:10700000円 )
パーキンソン病は黒質線条体ドパミン神経系の進行性変性疾患であり、線条体に欠落したドパミンを供給したり、線条体にglial cell line-derived neurotrophic factor (GDNF)等を供給し、ドパミン神経系への保護修復効果を期待する方法がある。これらの因子の供給に遺伝子導入法は有用であると考えられる。遺伝子導入法として我々はプラスミドベクターとリポソームの複合体を1週間持続注入する方法で線条体の主にグリアに遺伝子を導入する手法を開発し、本研究ではこの方法を応用して、パーキンソン病の治療をめざした種々の検討を行った。パーキンソン病モデルとしては、1側の黒質線条体ドパミン神経系を6-hydroxydopamine(6-OHDA)で破壊した片側パーキンソン病モデルを用い、分析は、組織学的にはtyrosine hydroxylase (TH)に対する抗体を用いた免疫組織化学で黒質のドパミン細胞数、線条体のドパミン線維の密度を検討、生化学的には高速液体クロマトグラフィーで線条体のドパミン濃度を測定、行動学的には、アポモルフィンおよびアンフェタミン注入による薬物誘発回転運動を検討した。
本研究期間に以下の点が明らかとなった。
1.GDNF遺伝子、TH遺伝子など導入遺伝子は本法により効率よく主に線条体のグリアに導入された。
2.6-OHDA注入後遺伝子導入を行う時期は、早いほうがより機能的改善が得られた。
3.GDNF遺伝子とTH遺伝子の両者を導入する方がより効果的であった。
4.神経栄養因子に関しても、GDNF遺伝子とBDNF遺伝子の両者を導入する方が相乗効果があった。
5.遺伝子発現は6カ月後にはかなり減少しており、今後長期発現の維持が重要であると考えられた。
神経伝達物質、神経栄養因子の遺伝子を線条体に導入する方法は、パーキンソン病の治療法として有用と考えられた。 -
酢酸セルロースポリマーによる脳動脈瘤閉塞に関する実験的研究
研究課題/領域番号:07457318 1995年 - 1997年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(B) 基盤研究(B)
中嶋 裕之, 徳永 浩司, 杉生 憲志
配分額:6400000円 ( 直接経費:6400000円 )
我々の施設で開発した酢酸セルロースポリマー(CAP)を用いて、実験的動脈瘤に対して種々の基礎的実験を行った。まずイヌの頸動脈に静脈片を吻合しlateral aneurysm modelを作成し、CAPにて塞栓術を行い、放射線学的・組織学的観察を行った。その結果、塞栓術後わずか2週間で動脈瘤の開口部に新生内膜の形成をみとめた。また長期の観察で良好な塞栓状態が永く保持されることが示された。さらに血管内視鏡を用いて動脈瘤が塞栓される経過を観察した。
次に、イヌの頸部にbifurcation aneurysm modelを作成し、意図的に部分塞栓術を行った。その結果、動脈瘤とCAPの間に三日月状の間隙を残さないように塞栓することによって塞栓直後の状態が持続し、一方三日月状の間隙を残した場合には動脈瘤の増大・破裂を招くことが示された。
さらに最近は特に塞栓の難しい頸部の面積の広い動脈瘤モデルに対してCAPと離脱式コイルを併用して塞栓術を行った。両者の併用により、離脱式コイルがCAPの親血管への迷入を防ぐ効果を持ち、また長期的な観察によりコイル単独ではみられやすいコイルの圧縮現象が併用例ではみられなかった。この実験により治療困難な動脈瘤に対しても安全かつ効果的に塞栓できる可能性が示唆された。
以上の実験により動脈瘤に対するCAP塞栓術の有用性が示されたが、いずれの実験も対象としてイヌの動脈壁に静脈片を縫着したモデルを使用しており、実際の脳動脈瘤とは組織学的・血行力学的に異なる。現在我々は動脈壁自身から発生する動脈瘤モデルの作成を試みており、可能となればそのモデルを用いて塞栓実験を行う所存である。