共同研究・競争的資金等の研究 - 大内田 守
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2009年
産学が連携した研究開発成果の展開 研究成果展開事業 地域事業 地域イノベーション創出総合支援事業 シーズ発掘試験
大内田 守
担当区分:研究代表者
末期癌や糖尿病、交通事故や手術後の後遺症でみられる慢性的な耐え難い痛みは末梢神経および中枢神経系の圧迫、変性、損傷に起因している。これは創傷などによる初期の痛みとは異なり、創傷が治癒した後に新たに発生する痛みで、急性痛で有効な非ステロイド系消炎鎮痛剤や麻薬系鎮痛薬等の薬剤が効きにくく決定的な治療法がない。本課題は難治性疼痛治療薬の実用化に向けた技術開発であり、当該治療薬の持続期間の延長・向上を目指した研究である。
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研究課題/領域番号:20591756 2008年 - 2010年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(C) 基盤研究(C)
大内田 守
配分額:4550000円 ( 直接経費:3500000円 、 間接経費:1050000円 )
滑膜肉腫発症機序を解明するために、滑膜肉腫特異的な染色体転座により生じたSYT-SSX蛋白複合体が直接作用し発現抑制している遺伝子プロモーターの回収を行い、335個の標的候補を同定した。滑膜肉腫の原因遺伝子SYT-SSXの蛋白複合体の細胞内局在パターンの変動をマーカーとして、SYT-SSXの腫瘍発症機序を阻害する薬剤を検討し、滑膜肉腫の有効な分子標的治療剤となり得るものをスクリーニングしたが、現在までのところ効果的な治療剤は見つかっていない。
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2008年
産学が連携した研究開発成果の展開 研究成果展開事業 地域事業 地域イノベーション創出総合支援事業 シーズ発掘試験
大内田 守
担当区分:研究代表者
急性脳炎・脳症の中でもインフルエンザ脳症は主に6歳以下の子供が罹り、日本で毎年300人前後の患者が発生している。脳症発症後1?2日で死に至ることもあり、死亡率は30%、後遺症も25%の患者に認められる重篤な疾患である。できる限り早く治療を始めたほうが軽く済むが、インフルエンザに感染した際に誰が急性脳症に進行するか不明である。本課題は急性脳炎・脳症の罹患危険度検査法の実用化に向けての改良と検出効率の向上を目指す研究である。
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研究課題/領域番号:19590349 2007年 - 2008年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(C) 基盤研究(C)
岡 剛史, 吉野 正, 大内田 守
配分額:4420000円 ( 直接経費:3400000円 、 間接経費:1020000円 )
悪性腫瘍の発症機構に関する研究は、これまで癌遺伝子、癌抑制遺伝子の構造異常などを伴うゼネテイックな変化に注目して研究が進められてきた。それに対し近年遺伝子の構造異常を伴わないエピジェネテイックな機構による発癌が注目されてきている。我々は造血器腫瘍の発症機構をとくにエピジェネテイックな機構に注目し解析を行い、HTLV-I, H.pyloriの感染によって異常なDNAメチル化が誘導・蓄積することが造血器腫瘍発症に重要であることを見いだした。これらの知見を元に造血器腫瘍を高感度に早期発見・早期診断することが可能になると期待される。
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2007年
産学が連携した研究開発成果の展開 研究成果展開事業 地域事業 地域イノベーション創出総合支援事業 シーズ発掘試験
大内田 守
担当区分:研究代表者
1歳未満の小児の約8%には熱性痙攣がみられる。一般に、熱性痙攣は6歳までに治癒し積極的な治療を必要としないことが多いが、その良性経過を示す患者の中にはDravet症候群という難治てんかん患者が混在している。Dravet症候群患者は何度も痙攣を繰り返し、てんかん重積など危険な状態をもたらすため、早期に専門医の治療を必要とする。本課題は1歳未満の病初期に良性の熱性痙攣の中から難治てんかん患者を早期に選別する方法の実用化に向けての改良と検出効率の向上を目指す研究である。
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てんかん発症に関連する変異型ナトリウムチャネルの機能喪失機序の解明
研究課題/領域番号:18591154 2006年 - 2008年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(C) 基盤研究(C)
大守 伊織, 松井 秀樹, 大内田 守
配分額:3850000円 ( 直接経費:3400000円 、 間接経費:450000円 )
難治てんかんの一種である乳児重症ミオクロニーてんかんに認められる電位依存性ナトリウムチャネル・1サブユニット(Na_v1.1)をコードするSCN1A遺伝子変異をもとに、その機能喪失メカニズムを解明した。変異の種類により、蛋白は合成されているが細胞膜へ移行できない障害とチャネル蛋白は膜に移行してきているがナトリウムイオンを透過することができない障害があることが推測された。蛋白が細胞膜へ移行できないある種の変異については、抗てんかん薬によって膜への移行が促進されることが分かった。これらの知見は、てんかん患者の遺伝子情報から、効果の高い治療薬を選択するテーラーメイド治療の開発に資することができると思われる。
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がん発症前高リスクに関わるがん体質遺伝素因の実体解明と試行的コホート解析
研究課題/領域番号:18014017 2006年 - 2007年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 特定領域研究 特定領域研究
清水 憲二, 大内田 守, 松原 長秀, 小出 典男, 堺 明子, 伊藤 佐智夫
配分額:11100000円 ( 直接経費:11100000円 )
本研究は、日本人の肺癌、頭頸部癌、大腸癌、食道癌、胃癌、膵臓癌、乳癌、前立腺癌における「発がんのリスク関わる遺伝子多型」を広汎に検索したものである。これまでに計225遺伝子、約270 SNPを解析した結果、有意差をもって上記の癌の発癌リスクに関わるミスセンスSNPを42遺伝子で計47種発見した(高リスク:34種、保護的SNP:13種)。42遺伝子にはDNA修復遺伝子、癌抑制遺伝子、物質代謝遺伝子、染色体分配遺伝子、細胞接着遺伝子等が含まれる。これらのms-SNPの多くは複数種の癌に関係し、多いものでは約8割の癌種に影響していた。上記のうち38 SNPの発癌リスクとの相関は、本研究で初めて示されたものである。
特筆すべきことは、本研究では対照健常人(約450検体)、癌患者(約1,300検体)共にほぼ全てのSNPを解析し、それらの重複のデータを得たことである。上記のうち、99%信頼区間も有意であった20遺伝子の24 SNPについて、癌種毎に関係する4〜7 SNPの個人別重複を数値化したところ、高リズクSNP数から保護的SNP数を差し引いた数値が上位20%に属する個人の割合は健常人で約4〜20%、癌患者で20〜60%を占めた。統計学的には、肺癌、大腸癌、食道癌についてはいずれもP値が10^<-10>〜10^<-16>、その他の癌では10^<-5>〜10^<-6>を示し、高い信頼性を示した。これらのグループの集団内発癌寄与率(PAR)は平均50%を占め、遺伝的リスクの過半を説明できることが判明した。さらに、我々は日本人の癌の約7割を占める肺癌、頭頸部癌、大腸癌、食道癌、胃癌、膵臓癌、乳癌、前立腺癌の各々について、約75%の低リスク群、25%の高リスク群、0.5-1.5%の超高リスク群を分別できる系を構築した。今後この系を前向きコホート研究で実証できれば、癌の予防と早期発見に革新的進展が実現できると期待される。 -
滑膜肉腫における転座型融合蛋白SYT-SSXに結合する複合体のプロテオーム解析
研究課題/領域番号:18591632 2006年 - 2007年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(C) 基盤研究(C)
大内田 守
配分額:3730000円 ( 直接経費:3400000円 、 間接経費:330000円 )
本研究では、SYT-SSX蛋白による滑膜肉腫発症機構を明らかにするためにSYT-SSXを介したプロテオーム解を行い、SYT-SSXと相互作用する蛋白群を検討することを目的とした。
(1)SYT蛋白、SSX蛋白、SYT-SSX蛋白と結合する蛋白群の検出
抗体認識用FLAG-TagおよびPull-down用GST蛋白の融合蛋白として発現するSYT,SSX,SYT-SSX cDNAのプラスミドベクターを構築した。ヒト正常腎細胞株HEK293に遺伝子導入し、その細胞質抽出液のFLAG融合蛋白をFLAG抗体ビーズでPull-down後、抗SYT抗体、抗FLAG抗体でウエスタンブロットを行った。SYT蛋白は十分量pull-downされている事を確認したが、SYT-SSX蛋白は収量が微量であった。そこでGST融合蛋白型で行ったところやはりSYT-SSX蛋白は収量が微量であった。これは、蛋白の局剤に依存する結果と考えられた。そこで、核分画を高塩濃度処理することにより核蛋白を抽出後、塩濃度を希釈し細胞質抽出液と混合した。この全細胞抽出液をFLAGビーズでpull-downさせTag融合型SYT-SSX蛋白を精製し、SYO-1滑膜肉腫細胞株の全細胞抽出液と混合し複合体形成をさせた。そのSYT-SSX蛋白複合体をTagビーズで回収し、SYT-SSX複合体蛋白群をSDS-ゲルで分離した。その未知蛋白のバンドは量が少なく質量分析計の解析には十分ではなかった。
(2)各種阻害剤等によるSYT-SSX細胞内局在変化の検討
SYT、SSX、SYT-SSX蛋白の局在を明らかにするために、SYT,SSX,SYT-SSX cDNAを蛍光蛋白標識用の発現ベクターに導入しReverse transfection法により8-wellチャンバーのSYO-1滑膜肉腫細胞にTransfectionを行った。蛍光蛋白GFPの融合型蛋白として発現させた場合、SYT-SSX蛋白は核内にspeckle状に点在することを確認した。GFP融合型蛋白発現系を用いて、ある種の酵素阻害剤の存在下で蛋白局在の変化を検討した。
(3)蛍光蛋白GFPをマーカーとした発現誘導可能なSYT-SSX導入細胞を樹立した。誘導時、非誘導時において、SYT-SSX蛋白により影響を受ける発現変化する遺伝子を解析した。SYT-SSX遺伝子発現誘導により約1.06%の遺伝子が発現減少を示し、約0.56%の遺伝子が増加することが判明した。 -
造血器腫瘍の早期発見・早期診断・モニタリング技術の開発
研究課題/領域番号:17590302 2005年 - 2006年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(C) 基盤研究(C)
岡 剛史, 吉野 正, 大内田 守, 品川 克至
配分額:3700000円 ( 直接経費:3700000円 )
悪性リンパ腫・白血病細胞のなかには難治性で極めて予後の悪いものから比較的予後のよいものまで様々であるが、いずれにしても化学療法・放射線療法・免疫療法等々様々な治療の結果ほぼ腫瘍細胞は退縮したとしてもわずかに腫瘍細胞が生存していればやがて再発は免れない。そのため高感度でなおかつ特異性の高い腫瘍細胞検出技術の開発は悪性リンパ腫・白血病細胞の治療・再発予防にとって急務である。我々は造血器腫瘍特異的に高頻度に生じるDNAメチル化による特定遺伝子の発現抑制を発見した。
とりわけ幾つかの悪性リンパ腫・白血病において複数の遺伝子群のメチル化プロファイルを解析し、病態の進展に伴い次々と遺伝子群がメチル化により発現抑制されるCIMP (CpG island methylator phenotype)が観られるようになるこることを明らかにし、これをマーカーとして病態をモニターすることが可能であることを明らかにした。またそれぞれの病期特異的にメチル化される遺伝子を同定し、それらをマーカーとして用いメチル化プロファイルを解析することにより高感度・高精度に病態の進展をモニターすることが可能であることを明らかにした。
また低悪性度リンパ腫の病態の変化を患者検体を用いることによって解析し、感染が特定の遺伝子のメチル化を誘導し、低悪性度リンパ腫の発症・進展に関与していることを明らかにした。またこれらの遺伝子群を解析することで病態を早期発見・早期診断することが可能であることが明らかとなった。 -
がん発症前高リスクに関わるがん体質遺伝素因の実体解明と試行的コホート解析
研究課題/領域番号:17015030 2005年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 特定領域研究 特定領域研究
清水 憲二, 大内田 守, 松原 長秀, 小出 典男, 堺 明子, 伊藤 佐智夫
配分額:6900000円 ( 直接経費:6900000円 )
本研究では「がん体質遺伝」の実体に迫るために、がん関連候補遺伝子のミスセンス1塩基多型(ms-SNP)を広汎に検索してきた。これまでに計135遺伝子で205箇所のms-SNP候補を見出し、担がん患者(計344名)及び対照健常人集団におけるアレル分布を解析した。本年度は対照健常人検体数を約2倍に増やして(計202名)再検討した結果、昨年度までの19種と新規に8種のms-SNPが統計学的に有意なリスクを示した。この27種の内訳は、肺、頭頸部、大腸、食道、乳腺などのがんで高リスクSNPが21種(オッズ比;1.62〜14.2)と保護的SNPが6種(オッズ比;0.12〜0.61)を占め、DNAの修復/複製(7)、がん抑制(5)、染色体分配(5)、細胞周期制御(3)及びその他の機能(3)に関与する23遺伝子群であった。また27種のうち20種は複数種のがんに影響し、うち22種は本研究による新発見である。検体毎にms-SNPの重複(累積オッズ比:COR)を検討した結果、肺腺がんのリスクに関わる13種のms-SNP遺伝子型が重複し、CORが30以上を示す人は、健常人では5%で、肺腺がん患者では30%に達した(P=6.7x10^<-8>,OR=8.33)。同じく肺扁平上皮がんのリスク因子11種でCORが20以上の人は、健常人7.9%、肺扁平上皮がん患者59%であった(P=6.9x10^<-1>1,OR=16.6)。同様の傾向は頭頸部、大腸、食道などのがんでも認められ、健常人と患者群の平均CORは3〜15倍の差があった。このように、本研究で明らかになったms-SNP27種は、実際に発がんリスクの遺伝的背景となっていることが強く示唆された。以上の結果を協力病院の通院非がん患者246名について適用したところ、計34名で各種のがん発症リスクが特に高いことが判明したため、主治医による継続的フォローを開始した。
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チロシンフォスファターゼSHP1遺伝子発現異常と悪性リンパ腫白血病発症機構の解析
研究課題/領域番号:15590302 2003年 - 2004年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(C) 基盤研究(C)
岡 剛史, 吉野 正, 林 一彦, 大内田 守
配分額:3700000円 ( 直接経費:3700000円 )
cDNA expression array法及び病理組織micro-array法を用いてGenomeの発現様式を総括的、かつシステマチックに行い、悪性リンパ腫発症に関与する遺伝子群の分子病理学的解析をすることにより腫瘍発生機構を解明することを目的に本研究を始めた。その結果SHP1 (SH-PTP1)のmRNAの強い発現抑制が検出された。SHP1タンパク質の強い発現抑制は、病理組織microarrayによる解析より100%のNK/T lymphomaの検体で認められるほか、その他様々な悪性リンパ腫においても高い頻度で発現抑制が認められ、広範な種類の悪性リンパ腫・白血病の腫瘍化との強い関連が疑われた。血球系培養細胞を用いた解析からも、細胞株においてSHP1蛋白の発現低下あるいは消失が認められ、特に高悪性度の悪性リンパ腫・白血病において強くその傾向が認められた。
さらにSHP1蛋白発現抑制の機構を明らかにする目的でDNA methylationの解析を行った。様々な細胞株、及び患者検体において、メチル化特異的PCR、bisulfite sequencingなどによりSHP1遺伝子のプロモーター領域のメチル化が高頻度に検出され、SHP1遺伝子発現抑制のデータと良く相関した。メチル化の頻度は、high grade MALTリンパ腫症例の方がlow grade MALTリンパ腫症例より有意に高く、メチル化によるSHP1遺伝子の発現抑制がリンパ腫の進展にも関与していることが示唆された。また細胞株に脱メチル化剤を処理すると、SHP1蛋白の発現が回復した。さらにSHP1遺伝子を発現していない白血病細胞に正常なSHP1遺伝子を導入すると白血病細胞の増殖が抑制された。以上のデータはSHP1遺伝子が癌抑制遺伝子である可能性を支持し、SHP1遺伝子の発現抑制がリンパ腫や白血病の発症に重要であると同時に、診断および予後のマーカー、遺伝子治療の標的としても重要であると考えられた。 -
乳児重症ミオクロニーてんかんにて検出される変異型イオンチャネル遺伝子の機能解析
研究課題/領域番号:15591110 2003年 - 2004年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(C) 基盤研究(C)
大内田 守, 大守 伊織
配分額:3500000円 ( 直接経費:3500000円 )
乳児重症ミオクロニーてんかん(severe myoclonic epilepsy in infancy ; SMEI)は生後4-6ヶ月から熱性けいれんや種々のてんかん発作が出現する難治てんかん症候群のひとつである。我々はこの疾患の原因遺伝子の検索を目的とした遺伝子解析を行った結果、ナトリウムイオンチャネル遺伝子SCN1Aのアミノ酸変異を伴う遺伝子変異を検出した。このSCN1A遺伝子変異はSMEI患者において非常に高い相関が見られることより、これらのSCN1A遺伝子変異がSMEIの発症に重要な役割を担っていると考えられた。
そこで、変異型イオンチャネル蛋白の解析を行うことによりこれらの遺伝子変異がイオンチャネルの機能にどのような影響をもたらしているのかを明らかにする目的の為に、変異型および正常型遺伝子のSCN1A cDNAをクローニングし発現ベクターの構築を計画した。容易に蛋白局在が検出でき、蛋白機能に影響を与えず、かつ、膜への移行をさまたげないようなTagとしてLumio Tagを選び、その融合蛋白発現系を作成することにした。これは6アミノ酸からなり、特殊な蛍光物質と結合し強い蛍光を発するようになる領域である。まずこれらを正常型、変異型のC末に取り付けた発現ベクターを作成し、SCN1A遺伝子を発現していないヒト細胞株HEK293に導入した。生きたままの細胞に蛍光試薬を添加し蛍光顕微鏡で観察したところ、バックグラウンドの蛍光が非常に強く、局在を同定するのは困難であった。そこで、細胞固定後、界面活性剤処理を施した後に蛍光試薬を添加したところ、バックグラウンドの改善がみられ、ある種の変異型蛋白は細胞膜に局在することが判明した。この結果は抗SCN1A抗体を用いた免疫染色によっても確認された。このことは、正常蛋白と変異型が共発現している状態でも、変異型がDominant Negative効果により、細胞膜上で正常型の機能を阻害している可能性を示唆している。
また、cDNAを回収する過程で、ヒトの脳組織ではSCN1A遺伝子のIsoformが複数存在することを発見した。そこで、そのIsoformの解析を行ったところ、これらはエキソン11に、11アミノ酸および28アミノ酸の欠失を持つタイプであることを明らかにした。この領域はゲートを構成するドメインIとIIの間にある細胞内ループ領域であり、そこは高頻度で変異が見つかっている領域であることより、これらのIsoformもイオンチャネルの機能に影響を及ぼすのではないかと考えられた。 -
遺伝的発がん高リスクグループの遺伝的素因に関する研究
研究課題/領域番号:12213084 2000年 - 2004年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 特定領域研究 特定領域研究
清水 憲二, 大内田 守, 松原 長秀, 堺 明子, 伊藤 佐智夫, 藤原 田鶴子
配分額:54500000円 ( 直接経費:54500000円 )
本研究では「がん体質遺伝」の実体に迫るために、がん関連候補遺伝子のミスセンス1塩基多型(ms-SNP)を広汎に検索した。平成12年度からこれまでに計135遺伝子で205箇所のms-SNP候補を特定し、担がん患者335名及び対照健常人110名の集団におけるアレル分布を解析した。これまでに以上のうち103箇所のms-SNP解析が終了し、計22種のms-SNPが発がんに対して統計学的に有意なリスクを示した。既知のADH1B,ALDH2及びp53遺伝子の3種を含めたこれら22種は、肺がん、頭頸部がん、大腸がん、食道がんで高リスクSNPが16種(オッズ比;1.87〜18)と保護的SNPが6種(オッズ比;0.18〜0.54)で、DNAの修復/複製(6種)、がん抑制(5種)、染色体分配(5種)及びその他の機能(4種)に関与する遺伝子群であった。これらのうち8種は複数のがん種に関係していた。以上のうち19SNPの発がんとの関連は本研究で初めて明らかになったものである。本研究は同じ検体で多数のSNP解析を行なうことを特徴とし、個々の検体毎にこれらのms-SNPの重複(累積オッズ比)を検討した結果、肺腺がんのリスクに関わる10種のms-SNP遺伝子型が2種以上重複し、累積オッズ比が4.0以上を示す人は、健常人では4.5%であったが、肺腺がん患者では39%に達した(P=5.0x10^<-9>, 0R=13.4)。同じく肺扁平上皮がんのリスク因子7種での累積オッズ比が4.0以上は、健常人で13%、肺扁平上皮がん患者で66%であった(P=8.5x10^<-8>, OR=12.0)。
このように、本研究で明らかになった発がんの有意リスクms-SNPは、確かに実際の発がんリスクの遺伝的背景となっていることが強く示唆され、特に、有意リスクSNPの累積オッズ比による発がんの個人リスクの予測がある程度可能であることが示された。 -
骨・軟部腫瘍における融合型遺伝子変化の解析および新たな遺伝子治療開発に関する研究
研究課題/領域番号:12671417 2000年 - 2002年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(C) 基盤研究(C)
川井 章, 大内田 守, 清水 憲二
配分額:3300000円 ( 直接経費:3300000円 )
悪性骨軟部腫瘍における特異的融合遺伝子の発現を解析し、新たな診断・予後因子としての意義、その分子生物学的メカニズムを明らかにすると共に、これら腫瘍特異的遺伝子異常をターゲットとした遺伝子治療の基礎的研究を行うことを目的とする。本年度は、(1)融合遺伝子発現と組織学的診断との整合性、(2)融合遺伝子のvariationと臨床病理学的態度の関連、(3)融合遺伝子の補助診断、腫瘍モニタリング法としての有用性、(4)悪性軟部腫瘍におけるアポトーシスの頻度とその調節蛋白質の発現について検討した。
悪性骨軟部腫瘍は組織型が多彩であり、その組織学的診断は屡々困難を伴う。特に、稀な部位に発生した悪性骨軟部腫瘍の診断には難渋することが多い。我々は、頭蓋底発生のEwing/PNET、膝関節内発生のsynovial sarcomaの診断が特異的融合遺伝子(EWS/FLI1,SYT-SSX)の解析により可能であることを報告した(J Neuro Oncol 2001,Clin Orthop 2001)。更に多施設共同研究によって、滑膜肉腫におけるSYT-SSX融合遺伝子のvariationが腫瘍の臨床経過に有意な影響を与えることを明らかにした(Cancer Res 2002)。アポトーシス関連因子は悪性腫瘍に対する新たな治療ターゲットとなりうるが、悪性軟部腫瘍におけるアポトシースについてはこれまで殆ど明らかにされていない。我々は、悪性軟部腫瘍では組織型に依存してアポトーシスが生じていること、その頻度はBcl-2蛋白の発現と逆送関していることを明らかにした(Cancer Lett 2002)。 -
肺癌に関わる染色体3p21に位置する癌抑制遺伝子候補HD-PTPの機能解析
研究課題/領域番号:12670138 2000年 - 2002年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(C) 基盤研究(C)
大内田 守, 堺 明子, 清水 憲二
配分額:3300000円 ( 直接経費:3300000円 )
【緒言】
HD-PTP遺伝子産物はBROドメイン(アポトーシス制御に関わるAIP1やRho結合蛋白Rhophilin、酵母のProtein kinase-C/MAP kinase系に関わるBRO1に高い相同性を持つドメイン)と、SH3結合モチーフを含むHistidine-richドメインを持つ新しいタイプのチロシンホスファターゼである。
【方法】
酵母Two-Hybridアッセイを用いて、BROドメイン、Hisドメイン、チロシンホスファターゼドメインに結合する蛋白のスクリーニングを行い、Sequencingによる遺伝子の決定を行った。
【結果】
BROドメインに結合する蛋白としてはGTPase蛋白Rab5のEffectorであるRabaptin5遺伝子産物やProteosome alpha subunitであるHC8遺伝子産物が検出された。Rabaptin5は、飲食作用の制御に関わる低分子GTPase蛋白Rab5のGTP結合型と特異的に結合することによりシグナル伝達を制御している蛋白である。また、結節性硬化症の癌抑制遺伝子のひとつTSC2遺伝子産物tuberinがRabaptin5と結合することも報告されていることより、本遺伝子産物HD-HPTPがRabaptin5/Rab5複合体を介して癌化に関わっている可能性が示唆された。HC8は、ポリユビキチン化した蛋白をエネルギー依存的に分解する高分子プロテアーゼであるProteosomeのalpha subunitをコードしており、細胞増殖に関係した蛋白の短寿命を制御していると考えられていることより、HD-PTPが細胞周期制御蛋白を介して細胞癌化に関与している可能性があげられる。同様にHD-PTPのHisドメインに結合する蛋白として修復関連遺伝子であるヒトSOH1が検出された。SOH1遺伝子は、tandem direct repeatの欠失を1000倍増加させる分裂酵母の変異を抑制することができる遺伝子であり、その遺伝子産物はRNAポリメラーゼと一部相同性があり、DNA修復蛋白や転写因子群と結合することができる。このことは、HD-PTPがSOH1蛋白と結合することにより、転写を介したDNA修復に関わっている可能性を示唆している。以上より、HD-PTPはそれぞれのドメインを介して、重要なシグナル伝達を担っている蛋白であると考えられた。 -
精巣に高発現する新規タンパク質WDC146の発現様式解析と機能の解明
研究課題/領域番号:12671602 2000年 - 2001年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(C) 基盤研究(C)
堺 明子, 野村 貴子, 佐々木 順造, 大内田 守
配分額:3400000円 ( 直接経費:3400000円 )
1)WDC146は、精巣特異的に高発現している146kDaのヒト新規タンパク質である。構造的には3つのドメインから成っており、N端側にWD40リピート、中央にコラーゲン様モチーフ、C端側にグリシン、プロリン、アルギニンの豊富なリピートドメインがある。
2)WDC146の精巣高発現はヒト及びマウスで確認され、両者のアミノ酸配列は、高い相同性(96%)を示した。特に、N端側のWD40リピートを含む領域は100%一致した。また、配列の一部はショウジョウバエ、酵母のレベルでも保存が確認された。
3)精巣における発現時期は、精子細胞のパキテン期において顕著であり、細胞内における発現場所は、核および核周辺であった。
4)精巣組織のきれいな固定にはブアン固定が最適であったが、hybridization液の浸透がやや不均一な傾向がみられた。逆にIn situ hybridizationに適した他の固定法では、細胞の変形や精細管内部の精子細胞の脱落が避けられなかった。3)の結果を踏まえた上でのより詳細な発現解析のためには、精妙な精巣固定条件の確立が必須と考えられる。
5)WD40リピートは、しばしばタンパク質複合体形成におけるプラットフォームとして機能していると考えられている。我々は酵母two-hybrid法を用いてWDC146と相互作用するタンパク質を探索した。数種類の候補タンパク質が得られたが、確実な同定には至らなかった。
6)精巣特異的な発現は、がん関連遺伝子にもその例が見られることがあるため、がんの細胞株およびがん組織においてWDC146の発現を調べた。調べたすべてのがん細胞株において中程度の発現が見られたが、がん組織においては、特に発現上昇はみられなかった。このことから、WDC146は癌-精巣遺伝子に分類される可能性がある。
7)WDC146遺伝子は染色体2q14-21領域に位置し、22のエクソンから成る。完全長約4kbのmRNAの他に、ミススプライスによる約1kbの短いmRNAが同時発現している。
8)プロモーター領域は、エクソン1の上流0.5kb以内にあることが、ルシフェラーゼアッセイによって同定された。 -
ヒト癌におけるミスマッチ修復遺伝子欠損の分子病態
研究課題/領域番号:11146214 1999年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 特定領域研究(A) 特定領域研究(A)
清水 憲二, 堺 明子, 藤原 田鶴子, 大内田 守
配分額:1800000円 ( 直接経費:1800000円 )
【緒言】本研究では、独自に開発した遺伝子全領域同時SSCP法などの解析法を用いて、大腸癌や胃癌などのうち遺伝的不安定性を示すものを中心としてミスマッチ修復機構の欠損とその標的遺伝子変異への効果、修復欠損を起こす原因となった初発遺伝子異常はどのようなものかなどを明らかにすることを目的とした。
【方法】1,研究検体の確保のため今までに約1,000例の腫瘍/正常組織を含む腫瘍バンクを設立した。
2,微小な遺伝子異常検出法として遺伝子全領域同時SSCP法と蛍光標識マイクロサテライト(MS)解析法を開発し、癌に関係する遺伝子の異常解析を行った。
【結果】これまでの本研究により、マイクロサテライトの不安定性(MI+)を示す胃癌と大腸癌の約37%に転写活性化因子で癌遺伝子ともなりうるE2F4のエキソン内マイクロサテライト変異を見い出した。またE2F4変異を持つ癌の80%以上が修復遺伝子であるhMSH3のエクソン内に1塩基フレームシフト変異を持つことを明らかにし、これらの癌ではE2F4遺伝子がhMSH3遺伝子の関与するミスマッチ修復機構の欠損の標的であることを初めて報告した。昨年度の研究で、変異型E2F4遺伝子をNIH3T3細胞で発現させると著明な増殖促進が見られることを明らかにしていたが、この効果は変異型E2F4による転写の活性化が上昇したことによることを本年度確認した。これらhMSH3,E2F4両遺伝子の変異を遺伝性非腺腫性大腸癌(HNPCC)と散発性大腸癌とで比較したところ、HNPCCではこれらの変異が有意に低く、また変異の形式がリピート数の減少を主にしており、散発性癌と大きく異なっていた。散発性のMI+癌における修復遺伝子欠損変異の成因を解明するために、DNAの修復と複製に関わるDNAポリメラーゼδ,εとPCNAなどの遺伝子の癌特異的変異を検索したが、有意な結果は得られなかった。しかし共同研究によって、DNAのミスマッチ修復に関わると思われるDNAポリメラーゼβ遺伝子の癌特異的変異を6例の胃癌において発見し、その変異は除去修復能を失活させることを報告した。また、食道癌などの検体で見られた染色体17番長腕の微小な欠失領域中にDNAの組み換え修復に関与する遺伝子が局在することをごく最近見い出した。この知見はDNAの組み換え修復に重要な役割を果たす遺伝子の半数化または異常が癌化の前提条件としてのゲノム不安定性に関与する可能性を示唆するものと考えられ、重要な発見であるため、本課題研究期間終了後も引き続き解析する予定である。 -
ヒト癌の総合的遺伝子診断と早期発見法の開発
研究課題/領域番号:10470040 1998年 - 2000年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(B) 基盤研究(B)
清水 憲二, 藤原 田鶴子, 小田 慈, 大内田 守, 郭 春鋼, 堺 明子
配分額:5700000円 ( 直接経費:5700000円 )
【目的】本研究では、新規に創案した遺伝子解析法及び従来のマイクロサテライト解析法を用いて、ヒト癌における遺伝子異常を広範に検索し、新規遺伝子診断法や癌早期発見法を開発することを目的とした。
【方法】1,平成7年度設立の岡山大学腫瘍バンクに現在まで約1,200例の腫瘍-正常組織対を収集した。2,新たにAlu-PCRゲノムスキャン法と遺伝子全領域マルチSSCP法を開発し、欠失や点突然変異などを検索した。3,従来のマイクロサテライト(MS)解析法により癌における染色体欠失領域を広汎に検索した。4,末梢血中遊離DNAを用いた定量的及び定性的遺伝子診断法を確立するための基盤的研究を行なった。
【結果】新しい方法によって我々が以前MSI+の大腸癌などで発見した転写因子E2F4遺伝子内(CAG)13リピート数の癌特異的な変異は、その後多くの続報で確認された。又、その成因がミスマッチ修復遺伝子hMSH3の変異によることを発見したことが本研究の初期の大きな貢献であった。E2F4が作用するRB関連のp107遺伝子の初めて異常(部分欠失)をB-リンパ腫細胞で以前見い出していたが、この成因が約15kbp離れているAlu-配列間の疑似相同組み換えによることを発見した。更に新開発のゲノムスキャン法により、約30%の腎癌において染色体14q24-31にLOH領域を発見し、その領域に2種の癌抑制遺伝子候補を特定した。また多くの癌においてヘテロ接合性の消失(LOH)が見られる染色体3p21.3領域に発見した癌抑制遺伝子候補HD-PTPは、新しい群のチロシンホスファターゼであり、様々な信号伝達やアポトーシスの制御蛋白と相互作用する可能性が見い出され、国際特許化した。更に、頭頸部癌で染色体13q33-34のLOHが高頻度で起こることを示し、その部位に位置するING1遺伝子の全構造を解明すると共に、頭頸部癌検体3例において蛋白質の機能を失活させるような癌部特異的ミスセンス突然変異を初めて検出した。これはING1遺伝子が癌抑制遺伝子である初めての証拠となった。その他計7種の癌において計10種の癌抑制遺伝子候補を特定した。また3q26-27領域では癌遺伝子Bcl-6と類縁のPOZドメインを持つZn-Finger蛋白質を指令する新規癌遺伝子候補を見い出した。診断法としては、骨軟部腫瘍の融合遺伝子特異的分子診断法を確立したほか、末梢血中遊離DNAを従来の約1万倍の感度で定量する方法を確立すると共に、その中の癌特異的遺伝子異常(ras,p53遺伝子変異及び癌抑制遺伝子プロモーターのメチル化など)を高感度で検出する方法を開発した。これらは担癌患者の早期発見に有用な診断法となると期待される。 -
ヒト癌におけるミスマッチ修復遺伝子欠損の分子病態
研究課題/領域番号:10165218 1998年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 特定領域研究(A) 特定領域研究(A)
清水 憲二, 堺 明子, 藤原 田鶴子, 大内田 守
配分額:1900000円 ( 直接経費:1900000円 )
【緒言】本研究では、新規に創案した遺伝子全領域同時SSCP法などの解析法を用いて、大腸癌や胃癌などのうち遺伝的不安定性を示すものを中心としてミスマッチ修復機構の欠損とその標的遺伝子変異への効果、修復欠損を起こす原因となった初発遺伝子の異常はどのようなものがなどを明らかにすることを目的とした。
【方法】1,研究検体の確保のため、今までに約1,000例の腫瘍/正常組織を含む岡山大学腫瘍バンクを設立した。2,微小な遺伝子異常検出法として遺伝子全領域同時SSCP法を開発し、癌に関係する遺伝子の異常解析を行った。
【結果】これまでの本研究により、マイクロサテライトの不安定性(MI+)を示す胃癌と大腸癌の約37%に転写活性化因子で癌遺伝子ともなりうるE2F4のエキソン内マイクロサテライト変異を見い出した。またE2F4変異を持つ癌の80%以上が修復遺伝子であるhMSH3のエクソン内に1塩基フレームシフト変異を持つことを明らかにし、これらの癌ではE2F4遺伝子がkMSH3遺伝子の関与するミスマッチ修復機構の欠損の標的であることを初めて解明した。
本年度の研究で、変異型E2F4遺伝子をNIH3T3細胞で発現させると著明な増殖促進が見られることを確認した。これらhMSH3,E2F4両遺伝子の変異を遺伝性非腺腫性大腸癌(HNPCC)と散発性大腸癌とで比較したところ、HNPCCではこれらの変異が有意に低く、また変異の形式が大きく異なっていた。敗発性のMI+癌における修復遺伝子欠損変異の成因を解明するために、DNAの修復と複製に関わるDNAポリメラーゼεと増殖細胞核抗原(PCNA)の両遺伝子の癌特異的変異を検索した。DNAポリメラーゼεに関しては、その校正機能を担う3′-エキソヌクレアーゼドメインを構成する7個のエキソンとイントロン構造をまず明らかにし、変異検索を行ったところ、このドメイン内にアミノ酸置換を伴う遺伝的多型を検出した。この多型は癌では約50%の頻度で検出されるが、他常人では20%以下であったことから、癌化に対する高リスク因子となりうることが示唆された。またPCNA逍伝子に関しては、RT-PCR産物を全領域同時SSCP法で解析し、数例の原発肺癌において共通な癌特異的変異を示唆する結果を得た。PCNAでは遺伝子レベルにおける確認がなされていないため未確定であるが、これらの知見はDNAの複製・修復に重要な役割を果たすDNAポリメラーゼεやPCNAの微小な遺伝子異常が癌化の前提条件としてのゲノム不安定性に関与する可能性を示すものとして、興味ある結果であると考えられる。 -
遺伝子全領域同時SSCP法を用いたヒト癌における変異遺伝子の総合的検索
研究課題/領域番号:08457049 1996年 - 1997年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(B) 基盤研究(B)
清水 憲二, 松原 長秀, 大内田 守, 小倉 肇
配分額:7600000円 ( 直接経費:7600000円 )
【緒言】本研究では、新規に創案した全領域マルチSSCP法とゲノムスキャン法とを用いて、個々の癌における遺伝子異常を広範に検索し、併せてその原因を追及することを目的とした。
【方法】1,研究検体を確保するために、岡山大学腫瘍バンクを設立し、これまでに約800例の腫瘍-正常組織対を収集した。2,マクロな遺伝子異常検出法としてInter-Alu Long-PCR法によるゲノムスキャンを開発した。3,ミクロな遺伝子異常検出法として蛍光標識を用いた長鎖(RT)-PCRによる遺伝子全領域マルチSSCP法を開発し、点突然変異などの微小な異常を検索した。
【結果】2の方法により複数の腎癌において共通にLOHが見られた領域はRadiation Hybrid法によってヒト染色体14長腕にマップされ、腎癌における新しいLOH領域の発見となった。3の方法によっては、結腸癌の1例でK-ras第22コドンにGln→Lysの新しい癌特異的点突然変異を見い出した。同じ方法によって、大腸癌でマイクロサテライトの不安定性(MI+)と転写因子E2F4遺伝子の変異を検索し、MI+の癌にのみ特異的なE2F4エクソン内の(CAG)13反復配列のコピー数変化を発見した。この変異はE2F4蛋白質の転写活性化領域内のポリセリンの数を減少させ活性化させる。これまでに200例以上の癌を検索し、MI+の胃癌と大腸癌の約37%にE2F4の変異を見い出した。更に我々はE2F4の変異は高頻度のMI+表現型を示す大腸癌では60%以上の頻度で見られ、また興味深いことにE2F4変異を持つ癌の80%以上が修復遺伝子であるhMSH3のエクソン内に1塩基フレームシフト変異を持つことを明らかにした。以上のように、これらの癌ではE2F4遺伝子がhMSH3遺伝子の関与するミスマッチ修復機構の欠損の標的であることを初めて解明した。
上記のほか、E2F4タンパク質と相互作用するp107遺伝子の初めての異常を2例のリンパ球系腫瘍細胞株と1例のリンパ性白血病患者から発見し、そのうち1例は遺伝子内のエキソン5個を含む15kbpの領域の欠失であることを発見した。また、頭頸部癌における遺伝子増幅を伴わないCyclin D1遺伝子の発現増強を競合的RT-PCR法によって証明した。また極めて最近、ヒト染色体3p21領域に局在する新たな癌抑制遺伝子候補を発見し、遺伝子全体構造を解明すると共に、肺小細胞癌細胞株における1遺伝子座位の欠失と残っている遺伝子上の点突然変異を発見した。