共同研究・競争的資金等の研究 - 坂本 亘
-
オオムギ染色体DNAライブラリーの構築とゲノム解析への利用
研究課題/領域番号:12202036 2000年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 特定領域研究(C) 特定領域研究(C)
村田 稔, 小倉 豊, 坂本 亘
オオムギは、ゲノムサイズが極めて大きいため、まだ充分な数のDNAマーカーがマップされておらず、ゲノム全体をカバーできるBAC、YACライブラリーもまだ完全には得られていない。また、ゲノム中に多量に存在する反復配列も、詳細な遺伝地図の作製を困難にしている。本研究ではそれ故、マイクロダイセクション法により、オオムギなどの特定染色体、腕、部位を切り取り、その領域特異的なDNAライブラリーを構築することを目的としている。現在まで、マイクロダイセクションにより切り取った単一の染色体から、そのDNAを増幅することに成功している。しかし、オオムギではその形態から染色体を同定することが困難なため、マイクロサテライトマーカなどによる判別を試みている。増幅したDNAの特異性を検定するために、FISH(蛍光in situハイブリダイゼイション)を行ったが、散在型反復配列が含まれているため、染色体の同定は困難であった。現在、原因となる反復配列の特定と、これら反復配列を増幅したDNAから除去する試みを行っている。
コムギなどを用いたこれまでの解析から、増幅したDNA断片には、ESTや既知遺伝子のコーディング領域とホモロジーを示す配列がかなりの割合(〜40%)で含まれていることがわかった。そこで、これら遺伝子に相当するcDNAの直接選抜を試みた。プローブには、マイクロダイセクトした染色体からDOP-PCRで増幅したDNAを用い、これをビオチン化した。cDNAは、幼穂からポリA^+mRNAを抽出した後、SMART(クロンテック)により合成した。cDNAには、マイクロサテライトを含むものがあるため、ゲノミックDNAから調整したCot1 DNAをプレハイブリダイゼイションの段階で加えた。2回の直接選抜を行い、PCRを行ったところ、スメアの中に数本のバンドが観察された。 -
レーザマイクロダイセクションによる染色体特異的DNAライブラリーの構築-コムギ第1同祖群染色体の分子的解析
研究課題/領域番号:11660005 1999年 - 2000年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(C) 基盤研究(C)
村田 稔, 小倉 豊, 坂本 亘
配分額:3700000円 ( 直接経費:3700000円 )
コムギ第1同祖群染色体に由来するDNAライブラリーを構築するため、六倍性コムギ(栽培種Chinese Spring)の異数体ダイテロソーミックス-1AL、-1AS-1BL、-1BS、-1DLとモノテロダイソーミックス-1DSから染色体標本を作製し、レーザマイクロダイセクションを行った。これまでは、テロ染色体以外の染色体をレーザにより消去し、残ったテロ染色体を鋭利なガラスニードルで削り取る操作を行ってきた。しかし、レーザを照射する際に染色体断片が飛び散り、ターゲットとする染色体上に残ることが考えられたため、レーザ照射を極力省き、直接ガラスニードルで削り取ることにした。その結果、4,5本のテロ染色体からでも十分なDNA増幅が行えた。増幅したDNAをプローブとしてFISH(蛍光in situハイブリダイゼイション)を行ったところ、特異的なシグナルは得られず、すべてのコムギ染色体の全体にシグナルが観察された。これは、増幅DNAに含まれている散在型反復配列(レトロトランスポゾン様配列など)によるものと考えられた。また、特異的に増幅するミニサテライトなども検出された。
これまでの解析から、増幅したDNA断片には、ESTや既知遺伝子のコーディング領域とホモロジーを示す配列がかなりの割合(〜40%)で含まれていることがわかった。そこで、これら遺伝子に相当するcDNAの直接選抜を試みた。プローブには、マイクロダイセクトした染色体からDOP-PCRで増幅したDNAを用い、これをビオチン化した。cDNAは、幼穂からポリA^+mRNAを抽出した後、SMART(クロンテック)により合成した。cDNAには、マイクロサテライトを含むものがあるため、ゲノミックDNAから調整したCot1 DNAをプレハイブリダイゼイションの段階で加えた。2回の直接選抜を行い、PCRを行ったところ、スメアの中に数本のバンドが観察された。現在、増幅したcDNAの解析を進めている。 -
キメラ性葉緑素突然変異の解析と原因遺伝子に関する研究
研究課題/領域番号:11760007 1999年 - 2000年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 奨励研究(A) 奨励研究(A)
坂本 亘
配分額:2200000円 ( 直接経費:2200000円 )
本研究では、植物における「斑入り」や「縞」などのキメラ性葉緑素突然変異体における形質発現について調べ、、その原因遺伝子を分子遺伝学的に明らかにすることを主な目的としている。
新たな斑入りに関わる遺伝子を単離する目的で、シロイヌナズナをアグロバクテリウムとvacuum infiltration法によって形質転換したT-DNA挿入突然変異系統を多数作出し、これらのスクリーニングを行った(平成11年度)。その結果、T-DNAの挿入と遺伝子の欠損によって斑入りが起きたと考えられる系統、すなわち選択マーカーであるカナマイシン耐性と斑入り形質が完全に連鎖する系統F204が得られた。この変異体の詳細な解析を行ったところ、以下の結果が明らかとなった。まず、得られた変異体はこれまでに知られているvar2突然変異体と同じアリルであって、変異はT-DNAの挿入によることがわかった。さらに、T-DNAの插入された遺伝子はFtsHと呼ばれる大腸菌のタンパク質と高い相同性を示すタンパク質をコードしていた。FtsHはAAAファミリーと呼ばれる一連のタンパク質の一つで、真核細胞及び原核細胞に広く存在するウォーカー型(Walker-type)ATPアーゼ(ATPase)の1ファミリーで、相同なATPアーゼドメインを持つにもかかわらず、膜融合、オルガネラの形成、タンパク質分解など様々な細胞機能に関与することが知られている。VAR2タンパク質は膜結合型でチラコイドに存在すると考えられたので、チラコイド膜に存在する光合成タンパク質複合体の分解および形成と、膜の融合に関わっていることが示唆された。これらの結果とvar2の斑入りが光量に依存して増加することと考えあわせると、FtsHが光合成複合体の光傷害などに深く関わっていることが示唆された。 -
イネ・トマトにおける易変性葉緑素突然変異を利用したトランスポゾンの捕捉
研究課題/領域番号:10556002 1998年 - 2001年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(B) 基盤研究(B)
前川 雅彦, 坂本 亘, 桝田 正治, 小倉 豊, 奥本 裕, 長谷川 博, 本吉 總男
配分額:12400000円 ( 直接経費:12400000円 )
イネのアジ化ナトリウム処理による易変性変異体を探索するために、固定系統が得られない例が複数知られているアミノ酸アナログ抵抗性について、ヒドロキシプロリン(プロリンのアナログ)抵抗性突然変異体の選抜を試みたが、易変性変異体を得られるに至らなかった(長谷川).
キンギョソウのトランスポゾンTam3に関して、HAM5ゲノム内にあるTam3コピー間の転移頻度を調査した。同一構造からなる8コピーを調べた結果、それぞれのコピーで転移頻度は異なり、それは染色体の位置効果によって生じるメチル化と関連することを明らかにした(貴島).
トマトのトランスポゾン様因子Lyt1と同じファミリーに属する新しい因子を探すためLyt1のTIRに特異的なプライマーでPCRを行い、全長1.3kbのLyt1に2.7kbの挿入を持つと予想される新しい因子Lyt2の一部を増幅した.解析の結果、Lyt2-2は自律性因子か、進化的に自律的因子に近い因子であることが示唆された(小倉、桝田).
イネ品種銀坊主より易変性を示す劣性の細粒突然変異遺伝子slgには、MITEsファミリーに分類される未報告のトランスポゾン(Sairyuと命名)が挿入されていた.slgはRurmlへのSairyu挿入により不活性化された遺伝子であり、復帰突然変異はSairyuの切り出しによりslgが活性を取り戻すために生じると考えられた(奥本).
シロイヌナズナの斑入り突然変異var2をT-DNAタギングにより同定した.VAR2は大腸菌のftsH遺伝子と相同性を示し、VAR2タンパク質は葉緑体移行型であり,チラコイド膜に局在し,FtsHと同様Walker型モチーフを持ったATPaseであった(坂本).
イネの易変性変異体から生じた安定的変異体について、イオンビーム処理による易変性の差異誘導を試みた.その結果、カーボンイオン照射により、1個体易変性変異体が得られ、後代に遺伝することが確かめられ、活性のあるトランスポゾンが誘発された可能性が高い(前川、田中). -
植物染色体のセントロメアの分子構造と機能に関する研究
研究課題/領域番号:10874114 1998年 - 1999年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 萌芽的研究 萌芽的研究
本吉 総男, 小倉 豊, 坂本 亘, 村田 稔
配分額:2300000円 ( 直接経費:2300000円 )
本研究では、シロイヌナズナLandsberg erecta株の一系統(Tr4S)に存在する過剰染色体について、そのセントロメアの構造を明らかにすることを目的としている。現在まで、この小型染色体は、第4染色体の短腕より由来し、約5Mbのサイズであると推定されている。また、FISH法により、この染色体中に18S-5.8S-25SリボソームRNA遺伝子及び5SリボソームRNA遺伝子の両クラスターが近接して存在していることも明らかとなった。この染色体のセントロメア領域には、他の正常染色体セントロメアと同様に、180-bpファミリーと呼ばれる反復配列がクラスターを成して存在していた。このクラスターのサイズをパルスフィールド電気泳動法で調べたところ、約50kbほどであると推定された。これは、起源した第4染色体に存在する180-bpクラスターに比べて、非常に短い。このことは、この小型染色体が、180-bpクラスターの途中で切断され、生じたこと、また、セントロメアに存在する180-bpクラスターが短くても、その機能を維持できることを示している。現在まで、この切断点におけるテロメア配列は確認されていないが、DNAファイバー法による詳細な解析を行っている。
180-bpファミリーのDNA配列は、非常に保存されており、その中にヒトのCENP-Bボックスと類似した配列が見出されている。今回我々は、このCENP-Bタンパク質に類似したアミノ酸配列をコードする遺伝子を同定した。現在、このタンパク質のセントロメアへの局在性を調べている。 -
器官分化におけるミトコンドリアの動態と制御系に関する研究
研究課題/領域番号:10182220 1998年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 特定領域研究(A) 特定領域研究(A)
坂本 亘, 小倉 豊, 本吉 總男
配分額:3000000円 ( 直接経費:3000000円 )
ミトコンドリア機能を統御する遺伝子の単離と解析
これまでに、シロイヌナズナの突然変異体の解析や酵母の相補系などを用いて、ミトコンドリアゲノムの維持や、タンパク質複合体の形成に重要な役割を果たしていると考えられる遺伝子を単離・解析してきた。今年度は、シロイヌナズナでミトコンドリアtRNA^<met>のアミノアシル-tRNAシンセターゼ(Met-RS)をコードする遺伝子を解析した。ESTクローンの解析では、Met-RSと思われる原核型のcDNAは1種類のみで、シロイヌナズナの核ゲノムには1コピーしか存在していないと考えられた。GFPなどの解析から、このMet-RSは葉緑体とミトコンドリアの両方にソートされ、両オルガネラで機能していると考えられた。シロイヌナズナのミトコンドリアゲノムには、葉緑体由来のtRNA^<met>が使われており、葉緑体型のMet-RSがミトコンドリア内で機能している点との関連性が示唆された。
器官形成におけるミトコンドリアの動態
ミトコンドリアをin vivoで観察するために、GFPよって可視化し、器官形成におけるその動態を観察することを試みている。これまでに、シロイヌナズナのミトコンドリアF1-ATPaseのサブユニット遺伝子(ATPδ及びATPδ')のpresequenceとGFP遺伝子を融合したキメラ遺伝子を構築し、GFPタンパク質がミトコンドリアへ局在することをトランジェントな系で確認した。今年度は、これらの融合遺伝子を導入したトランスジェニック植物をシロイヌナズナ及びイネを用いて作成し、これらの個体におけるミトコンドリアの動態を観察した。 -
細胞質遺伝を制御する核遺伝子の同定と機能の解析
研究課題/領域番号:09760005 1997年 - 1998年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 奨励研究(A) 奨励研究(A)
坂本 亘
配分額:2100000円 ( 直接経費:2100000円 )
本研究では、細胞質遺伝、特にミトコンドリアの機能を制御する新たな遺伝子を同定し、これらの解析をすすめると同時に、分子育種に応用するための基礎的知見を得ることを目的とし、今年度は以下の研究を行った。
● オオムギ葉緑素突然変異系統wst-3の解析
オオムギで葉や穂に縞模様の形質を引き起こす突然変異系統wst-3における形質発現とオルガネラの変化について調べた。wst-3では、「縞」形質の他に一定の比率でアルビノ個体を分離する。wst-3系統と野生型品種「赤神力」との正逆交雑における交雑後代Fl種子でのアルビノの出現を調べた結果、アルビノはwst-3を母親とした時のみ分離する、すなわち、アルビノの出現は母性遺伝することが明らかとなった。野生型、wst-3、アルビノの3種類の個体について、往性遺伝を司るオルガネラである葉緑体・及びミトコンドリアを電子顕微鏡によって観察したところ、白色化した組織における葉緑体の形態異常は見られたが、ミトコンドリアについては特に異常を示す形態は観察されなかった。
● ミトコンドリア制御遺伝子の解析
今年度は、ミトコンドリア機能を制御する新たな植物の遺伝子を単離する目的で、ABC1遺伝子の変異により呼吸欠損を示す酵母の突然変異体用いた相補系で、シロイヌナズナで同様の機能を示す遺伝子AtABClを単離した。単離した遺伝子は1コピーであったが、EST及びデータベースの解析から、ABClと一部相同性を示す遺伝子がシロイヌナズナに存在することが示唆された。 -
植物の器官形成におけるミトコンドリアの役割と遺伝子発現
研究課題/領域番号:09251212 1997年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 重点領域研究 重点領域研究
坂本 亘, 小倉 豊, 村田 稔, 本吉 總男
配分額:2000000円 ( 直接経費:2000000円 )
本研究では、ミトコンドリア機能と植物器官形成との関係を調べ、これらを制御する遺伝子の同定するために、シロイヌナズナを用いて分子遺伝学的解析を行なった。今年度は、特に、ミトコンドリア機能に関わる核遺伝子を酵母の相補系によって単離し得られたAtOXA1について解析した。1.AtOXA1の構造解析酵母のOXA1遺伝子は、呼吸鎖のチトクロームオキシダーゼの活性に必要とされる(おそらくassemblyに関与する)タンパク質をコードし、oxa1変異体は完全な呼吸欠損形質を示す。oxa1をシロイヌナズナcDNAライブラリーによって相補して得られたcDNA(AtOXA1)は、全長約1.4kbで、422アミノ酸残基からなるタンパク質をコードしていた。アミノ酸配列では、酵母OXA1遺伝子とは約30%の相同性があり、特に、膜貫通ドメインと予想される疎水性領域が比較的保存されていた。酵母内での発現では、AtOXA1はチトクロームオキシダーゼの活性を回復するが、副次的に抑制されるATPaseの活性は完全に回復されなかった。シロイヌナズナゲノム中には1コピー存在し、ゲノミック配列の解析からは、9つのエクソン部分からなる全長2.7kbの遺伝子構造をしていることが明らかとなった。2.発現の解析RNAブロットによる解析からは、AtOXA1は、どの組織でも発現しており、花において若干高い発現が見られた。また、タンパク質レベルでの発現を調べるため、OXA1を大腸菌内で発現させた融合タンパク質から抗OXA1抗体を作製した。この抗体を用いた免疫ブロットによる解析からは、OXA1はミトコンドリアに局在することが示唆された。
-
植物の器官形成におけるミトコンドリアの役割とその遺伝子発現
研究課題/領域番号:07270217 1995年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 重点領域研究 重点領域研究
坂本 亘, 小倉 豊, 本吉 總男
配分額:1800000円 ( 直接経費:1800000円 )
アラビドプシスで知られている、茎葉に斑入りを示す突然変異体chloroplast mutator (chm)を用いて、ミトコンドリアゲノムに遺伝的な変異を導入することを試みた。本年度は、chm変異体を母親として野生型に戻し交雑した個体を育成し、これらに斑入り以外にどのような形質が現れるかを観察した。交雑後代F1世代では、chmの親系統と同様の斑入りを示す個体も観察されたが、これとは別に、生長の遅い、葉の形がいびつでしわがより、明らかに野生型とは異なる個体が現れた。これらの個体は、戻し交雑BC1世代においても観察されることから、明らかに母性遺伝をする形質であった。この母性遺伝する形質をMDL (matemally-inherited distorted leaf)と名付け、これらのF1及びBC1世代において現れたMID個体を用いてミトコンドリアゲノムの解析を行った。その結果、野生型のミトコンドリアゲノム内では、atp9は1.7kbのBamHIフラグメントに存在するが、MID変異体では、このバンドは殆ど観察されず、代わりに野生型には検出されない5.6kbのバンドが相同性を示した。このバンドを詳しく解析するために、MID変異体からゲノミックライブラリーを作成し、この5.6kbのフラグメントをクローニングし、塩基配列を決定した。その結果、野生型のゲノム内では他の部位に存在している遺伝子が、おそらく組換えによりatp9の下流に導入された結果多型を示したことが明らかとなった。さらに、組換えによってatp9の下流に挿入された遺伝子(rps3)にはコーディング領域に欠失が起きており、この遺伝子が機能しなくなっていることが示唆された。
-
ミトコンドリア形質転換のための遺伝的選択マーカーの開発
研究課題/領域番号:07760003 1995年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 奨励研究(A) 奨励研究(A)
坂本 亘
配分額:1000000円 ( 直接経費:1000000円 )
本年度は、形質転換の受容体となるようなミトコンドリア突然変異を持つ植物体を作成することを試みた。植物においてミトコンドリアの突然変異体を作出することは、そのコピー数の多さや変異の致死性から従来の方法では困難であると考えられてきた。そこで、本研究ではオルガネラのmutator遺伝子として知られている、アラビドプシスの核の劣性突然変異chloroplast mutator(chm)を用いてミトコンドリアゲノムへ突然変異を導入することを試みた。chmにより母性遺伝した形質の中で、成長が遅く、葉の形がいびつでしわがより、明らかに野生型とは異なる個体に注目し、この個体のミトコンドリアゲノムについて解析を行った。この葉の形に異常を示した個体(MDL;materanal distorted leaf)では、生育が異常に遅いのみならず、殆どの個体が不稔で著しい弱勢を示した。これらの個体からDNAを抽出しハイブリダイゼーションを行った結果から、MDLのミトコンドリアゲノムは野生型とは異なっており、ゲノムの再構成が起きていることが明らかとなった。変異があると思われる部位の詳細な解析から、MDLのミトコンドリアゲノム内では組換えによってrps3遺伝子(S3リボソームタンパク質をコードする)に欠失が導入されたことが示唆された。この欠失をパーティクルガンを用いた形質転換などで相補し、形質転換が可能であるかどうかについて現在検討している。
また本研究では、生体内でその遺伝子の発現が直接観察できるGreen florescent protein(GFP)遺伝子が、ミトコンドリアの形質転換及び外来遺伝子発現の解析に利用可能であるかどうか調べるために、GFP融合遺伝子を作成し形質転換に使うことを検討した。 -
ターミナルフラワー等花器分化に関する遺伝子の構造と機能及び普遍性に関する研究
研究課題/領域番号:07281211 1995年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 重点領域研究 重点領域研究
本吉 總男, 小倉 豊, 坂本 亘, 村田 稔
配分額:2200000円 ( 直接経費:2200000円 )
シロイヌナズナの茎頂の生長点の機能の維持に関与しているとされる遺伝子TFL1の内部または近傍にアグロバクテリウムに由来するT-DNAが挿入されることによって生じたと考えられるターミナルフラワー突然変異体ともとの野生型植物を素材にして研究を行った。
T-DNAおよび5SrDNAをプローブとする染色体の蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)では、T-DNAは第5染色体の先端にT-DNAのシグナルが観察され、連鎖地図上のTFL1の位置と矛盾しない結果が得られた。
次に、回収されたT-DNAに近接するDNA領域の断片をプローブとして野生型植物のゲノムDNAライブラリーから選択された15kbのDNAクローン内部のTFL1を含むと推定される8kbの塩基配列を決定し、ORFおよびプロモーターの検索を行った。その結果、この領域には、5′側にTFL1以外の遺伝子のORFと推定されるもののほか、TFL1を構成する4個のORFが推定された。その最も5′側の推定ORFはATGで始まり、またその上流にTATAボックスと思われる配列が存在したので、第1エクソンと考えられた。また、この推定第1エクソンの5′端から、上流に存在する上記の別の遺伝子までの距離は約2.5kbであり、この中に推定TFL1遺伝子のプロモーターが存在すると考えられる。この推定TFL1遺伝子の全長を知るため、cDNAライブラリーおよびポリ(A)RNAを鋳型とし、ゲノムDNAの一部の配列またはベクターの配列に基くプライマーとポリTプライマーを用いてPCRを行った結果、転写される領域は約700bpと推定された。データベースによるホモロジー検索では、この遺伝子と似た配列をもつ遺伝子は見当たらなかった。 -
ミトコンドリアの遺伝子発現により引き起こされる雄性不稔現象の解明
研究課題/領域番号:06760007 1994年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 奨励研究(A) 奨励研究(A)
坂本 亘
配分額:1000000円 ( 直接経費:1000000円 )
本研究は、高等植物において、ミトコンドリアの機能異常によって引き起こされる雄性不稔機構の解明を最終目的として行われた。本年度は、高等植物ミトコンドリアにおける特異的な遺伝子発現機構であるRNAエディティングと雄性不稔性との関係について着目し、「ミトコンドリアにおけるRNAエディティングに異常をきたした場合にどのような変化が現れるか」を調べるために以下の実験を試みた。
1.シロイヌナズナのミトコンドリア膜に存在するATPaseのサブユニット9をコードするatp9遺伝子について、特異的プライマーと抽出したRNAとを用いてRT-PCR法によってcDNAを作成した。これらのcDNAとゲノム配列との比較より、シロイヌナズナのatp9遺伝子はコーディングリージョン内に4ヶ所のエディティング部位を持つことが明らかとなった。これらのエディティング部位は全てアミノ酸コドンの第2番目の塩基配列をCからUに変化するものであり、ゲノム配列から予想されるアミノ酸配列をセリンあるいはフェニルアラニンからロイシンに変化させることが明らかとなった。
2.上で調べたatp9遺伝子のエディティングがもし細胞内で不全となった場合に、エディティングされていない不活化されたタンパク質が合成されることが考えられる。そこで、もしこのような不活化されたタンパク質を植物で人為的に合成した場合に植物が異常な形質を示すかどうかを調べる為に、まずatp9のゲノム配列(エディティングされていない)またはcDNA配列(エディティングされている)を用い、ミトコンドリアのpresequenceを持ったキメラ遺伝子を構築した。次に、これらのキメラ遺伝子をアグロバクテリウムを用いた形質転換によってシロイヌナズナ個体へ導入した。現在、これらのトランスジェニック植物のT3種子を採取しており、これらの個体において異常形質がみられるかどうかについて解析をすすめている。