共同研究・競争的資金等の研究 - 王 英正
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ヒト心筋幹細胞移植療法の前臨床的確立と細胞組織工学によるハイブリッド療法の開発
研究課題/領域番号:18390233 2006年 - 2007年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(B) 基盤研究(B)
王 英正, 上山 知己, 原田 光一郎, 小形 岳寛
配分額:17050000円 ( 直接経費:15700000円 、 間接経費:1350000円 )
ヒト心臓内幹細胞と幹細胞増幅因子を統合した心筋再生医療法の前臨床的確立に向けて、以下の2つの課題を明らかにした。1)幹細胞増幅因子の同定-activinII型受容体拮抗薬であるfollistatinは骨格筋組織幹細胞において、幹細胞コロニーの自己増殖能を増加させる作用があることを確認した。activinII型受容体を介するTGF-beta familyのリガンドを特定するため、myostatin欠損マウスの骨格筋組織より精製した心筋幹細胞の増幅動態を培養細胞系で検討。骨格筋組織幹細胞は骨格筋芽細胞と異なり、myostatinの情報伝達を介さず、むしろ、GDF11やactivin Aによる幹細胞の増幅調節を受けていることが明らかとなった。一方、心臓内幹細胞の自己増幅因子は幹細胞の認識抗原であるSca-1のノックダウンマウスを用いた検討で、bFGF/Aktを中心とする情報伝達が幹細胞の増幅過程を制御していることが確認された。2)ヒト心臓内幹細胞移植と幹細胞増幅因子の併用療法の安全性と有効性の検証一大型動物を用いてのランダム割り振り前臨床治験を行った。慢性心筋梗塞モデルを作成し、研究目的1)で確認したbFGFを生体吸収材料であるゲラチンハイドロゲル用いて、心筋組織内に徐放し、免疫抑制下でヒト心臓内幹細胞を移植した。心エコー検査や心臓MRIによる心機能評価では、bFGFによる心筋微小血流の改善に伴い、細胞周囲環境が調節され、ヒト心臓内幹細胞移植の生着性が、通常の幹細胞単独移植に比べ2倍以上、さらにin vivoでの心筋細胞再生能が8倍以上と有意に向上した。本研究により、心臓内幹細胞とbFGFのハイブリッド療法は最も有効な心機能改善と実質的な心筋細胞再生をもたらす画期的な再生医療法として確立した。
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胚性幹細胞との細胞融合及び遺伝子工学的手法で再プログラムされた心筋幹細胞株の樹立
研究課題/領域番号:18659224 2006年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 萌芽研究 萌芽研究
王 英正, 上山 知己, 原田 光一郎, 小形 岳寛
配分額:3300000円 ( 直接経費:3300000円 )
増幅能が限られている体性幹細はテロメア関連伝子導入によって不死化する試みがされているが、遺伝子をベースにした方法では常に悪性腫瘍化する危険性が付きまとう。そこで、申請者らはES細胞との細胞融合によって、ES細胞が持つ極めて高い増殖性の性質を申請者らが単離に成功した心筋幹細胞に形質伝承する目的で、Cre-loxPシステムを利用したレトロウイルスベクターを作成した。ES細胞と融合によって形質変換した細胞の精製によって、心筋幹細胞クローンにCre-IRES-RFPレトロウイルスを感染させ、ウイルス感染が良好であることを確認した。
(1)puro/hygroの抗生剤選択で純化したハイブリッド細胞が4倍体であることをFACSで確認した。融合した心筋細胞は免疫組織染色にて、心筋幹細胞には発現していないES細胞特異的な転写因子の提示を認め、細胞融合の効率がその後の解析に有効な頻度(約50%)で生じていることを検証した。
(2)RNAを回収しマイクロアレイによる網羅的検索によって、未分化ES細胞特異的転写因子や細胞周期調節因子について網羅的検索を行ったところ、約6割の心筋幹細胞特異的遺伝子の発現減少とそれに伴うES細胞固有因子の増加を融合した新規細胞の遺伝子プロファイルにて確認した。このことは、細胞融合によって心筋幹細胞が完全に形質変換したことを直接証明するものではなく、細胞融合前の約6割の心筋幹細胞がES細胞との再プログラムによる修飾の影響を受けたことを強く示唆した。
(3)neo耐性遺伝子を持つalpha-MHC-EGFPを導入したES細胞の形質を継承した再プログラムされた心筋幹細胞は、in vitroにて通常のES細胞に比べ、心筋細胞に分化する効率が約3倍向上したことをEGFPの発現頻度にて確認された。逆に融合した心筋幹細胞は正常のES細胞と比し、細胞増殖能が約半分に低下した。このことは、ES細胞の持つ多能性分化能を再プログラムする手法を用いて、遺伝子工学的に幹細胞の運命を制御したことを証明し、今後の虚血心への融合細胞移植実験にて、生体内での心筋細胞再生医療への有用性について研究を発展させていく予定である。 -
ヒト心筋・骨格筋からの心筋幹細胞株の樹立と末期的心不全への幹細胞移植医療実現化へ向けての研究基盤形成
2005年04月 - 2008年03月
厚生労働科学研究費補助金 医療技術実用化総合研究事業 基礎研究成果の臨床応用推進事業
担当区分:研究分担者
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ヒト心筋・骨格筋からの心筋幹細胞株の樹立と末期的心不全への幹細胞移植医療の実現化-ES細胞からの心筋前駆細胞クローン単離と不死化・増幅-
研究課題/領域番号:17209028 2005年 - 2007年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(A) 基盤研究(A)
松原 弘明, 高橋 知三郎, 王 英正, 辰巳 哲也
配分額:49530000円 ( 直接経費:38100000円 、 間接経費:11430000円 )
申請者らは、細胞移植療法の実現化に向けて、効率よく短期間内で心筋幹細胞の大量増幅を行う目的で、遺伝子工学的手法を用い、幹細胞特異的増幅因子の同定及び機能解析を行った。心筋幹細胞を認識する表面抗原Sca-1に注目し、Sca-1ノックダウンマウスを作成し解析した結果、心筋幹細胞はbFGF依存性にAktの活性化を介して、生体内における幹細胞の増殖及び細胞移植後の生着促進に重要であることを突き止めた。同様の培養技術を用いて、ヒト心臓生検組織からの心筋幹細胞の単離・増幅技術を確立し、また、この心筋幹細胞の特異的増殖・維持因子がbFGFであることを初めて明らかにした。現在、世界初の実質的な心筋細胞分化を伴う細胞移植再生医療の実現化に向けて、ヒト心筋幹細胞移植とその増幅因子を組み合わせたハイブリッド療法(bFGF徐放生体吸収シート)の前臨床治験を進めている。本研究は幹細胞単独移植でなく、bFGF徐放生体吸収シートを組み合わせたハイブリッド療法であることが大きな特徴であり、臨床治験に向けたブタ陳旧性心筋梗塞モデルを用いたランダム割り振り前臨床治験を6カ月前から実施している。左冠動脈をバルーンで閉塞後解放して作成した雌ブタ心筋梗塞部に1月後に免疫抑制薬の投与とともに、男性ヒト心筋幹細胞移植とbFGF徐放生体吸収シート貼りを併用する。MRIでさらに1月後の心臓機能を解析すると、bFGF徐放生体吸収シートだけでは3-4%の改善であったが、心筋幹細胞移植との併用では12%もの改善が見られている。移植部位では細胞融合を伴う、移植細胞による心筋分化が豊富に見られていた。また、移植細胞はbFGF徐放生体吸収シートの存在により1月後には移植部位において、30%の生着が観察された(シートなしでは5%生着)。本研究は幹細胞単独移植でなく、bFGF徐放生体吸収シートを組み合わせたハイブリッド療法であることが大きな特徴であり、臨床治験に向けたブタ陳旧性心筋梗塞モデルを用いたランダム割り振り前臨床治験は世界でも行われておらず、非常に心機能改善効果の高い心筋再生治療と期待される。
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心筋幹細胞移植医療の実現化に向けたヒト心筋幹細胞特異的増幅因子のクローニング
研究課題/領域番号:17659233 2005年 - 2006年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 萌芽研究 萌芽研究
王 英正
配分額:3400000円 ( 直接経費:3400000円 )
平成17年7月1日より、心筋幹細胞移植医療の実現化に向けたヒト心筋幹細胞特異的増殖因子のクローニングに関する研究課題に関し、特にsignal sequence trap法を使ったadult由来心筋幹細胞の増殖因子の同定に関する研究を開始した。
採取したadult由来マウス心筋幹細胞からのcDNA library作製し、レトロウイルスパッケージング細胞であるPlatE細胞にRoche社のFuGENE6を使用して導入し、レトロウイルスとして回収した。回収したレトロウイルスを感染効率が20%弱になるように調整してBa/F3細胞に感染させ、96well plateに10000個/wellで撒き、IL-3非存在下で2週間程培養した。培養により、シグナル配列を持たないpMX-SSTが感染したBa/F3細胞は死滅し、シグナル配列を持ったcDNA断片を融合したpMX-SSTが感染したBa/F3細胞のみ増殖が認められ、最終的に200近くの細胞クローンが認められた。これらの細胞クローンから染色体DNAを抽出した後、vector primerを用いてPCRを行い、挿入cDNA断片を回収した。
回収したcDNA断片のすべてに対してシーケンサーによる解読を行い、NCBI BLASTホームページ上のnucleotide-nucleotide blastを使って相同性検索を行ったところ、adult由来マウス心筋幹細胞に特異的に発現している分泌タンパク質が2つ認められた。この2つは、RT-PCRでもmRNA発現が亢進していることを確認し、そのうちの1つは免疫染色でsphereを形成している細胞上に強くタンパク発現していることも確認した。
現在、これらの同定されたタンパク質についてrecombinantによる薬物的刺激実験とノックアウトマウスを使った抑制実験の2つの方向から、同定されたタンパク質のマウス心筋幹細胞への増殖に対する効果を解析すべく準備を進めている。今後、同定されたタンパク質が増殖に関わることが明らかになれば、ヒト心筋幹細胞への応用が可能かどうか検討していく予定である。 -
新たに同定した心臓由来心筋前駆細胞のクローン化増殖、機能解析による心筋再生医療
研究課題/領域番号:16689017 2004年 - 2006年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 若手研究(A) 若手研究(A)
王 英正
配分額:28470000円 ( 直接経費:21900000円 、 間接経費:6570000円 )
心臓由来の心筋前駆細胞の細胞機能解析として、平成16年度に引き続き、平成17年度一年間で以下の2つの課題を明らかにしてきました。
1)心臓由来のSca-1陽性細胞のクローン化とその多能性を明らかにすること。
平成16年度の報告のように、申請者らは心筋前駆細胞である心臓由来のSca-1陽性細胞を単一細胞より大量増幅させ、そのクローン化に成功した。各クローンはそれぞれ心筋細胞に分化できるポテンシャルが異なり、心筋細胞以外では血管平滑筋、内皮、グリア、脂肪、上皮細胞への多能性分化能についても確認しえた。
2)マウス生体内でのSca-1遺伝子の役割をSca-1欠損マウスへ心筋梗塞作成することで明らかにする。
平成16年度内にSca-1ノックダウンマウスの作成に成功した。ある一定の数まで動物を繁殖させた後、マウスの表現型の解析を開始した。Sca-1ノックダウンマウスは生後異常なく成長し、心臓にも異常が認められなかった。しかしながら、Sca-1ノックダウンマウスより精製純化した心筋幹細胞コロニーは増幅能を著しく傷害され、野生型の心筋幹細胞と比べ、長期培養は不可能であった。また、Sca-1ノックダウンマウス由来の心筋幹細胞は高い増幅能を持った細胞に特徴的なテロメラーゼ活性も著しく低下し、細胞周期調節因子であるp53の発現上昇を認めた。興味深いことに、Sca-1ノックダウンした心筋幹細胞をドナーとして用い、虚血心に細胞した場合、野生型の細胞移植と比べ、心筋細胞の再生能及び心機能改善効果は著しく障害を受けた。また、Sca-1ノックダウンマウスに心筋梗塞を作成すると、梗塞巣が繊維化領域の拡大により、野生型と比べ増加し、1ヶ月目までの虚血心マウスの生存は有意に低下した。これらのことより、Sca-1は心筋幹細胞を認識するだけでなく、心臓内心筋幹細胞の自己増幅能を制御する重要な因子であることが示唆された。