共同研究・競争的資金等の研究 - 岸本 昭
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酸化タングステン水和物の非晶質薄膜の構造と電気的特性
研究課題/領域番号:02650575 1990年 - 1991年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 一般研究(C)
工藤 徹一, 岸本 昭
配分額:2000000円 ( 直接経費:2000000円 )
代表的なエレクトロクロミズム発色材料である酸化タングステン水和物薄膜を過酸化ポリ酸からスピンコ-ティング法により作製し、そのEC特性を蒸着など通常用いられる方法により得られた膜と比較した。さらにその構造あるいは組成変化に伴う構造変化を動径分布関数や各種の分光法等で解析し、非晶質中のイオンの伝導メカニズムを検討した。その結果熱処理膜は蒸着膜と同様の六員還を有するクラスタ-構造をとることがわかった。イオンの輸送過程を調べるため行なった定電位法においては、従来報告されている拡散律速の式を当初用いたが、膜厚の増加とともに拡散定数が増加するという不合理な結果が得られた。このため電荷移動律速のモデルをたて解析を行なったところ、実験事実をうまく説明することができた。
全固体ECDを念頭におき、発色膜と組み合わせるべき固体電解質膜を同様の材料から、同じ回転塗布法より作製し、特性評価を行った。原料溶液としてタンタル、ニオブ過酸化ポリ酸を用いた。その結果、過酸化ポリタンタル酸から作製した試料は、同一熱処理条件でも導電率が最も大きく、また雰囲気依存性も最も小さいことから有望なプロトン伝導性膜であることがわかった。
酸化タンズステン系以外のEC発色材料として、同様の過酸化ポリ酸から得られる酸化モリブデン水和物について検討した。モリブデン単独を原料としたポリ酸から得られた膜は、着消色のコントラストが大きい反面、消色か不十分である、熱処理温度を上げると特性が劣化するなどの欠点を持っていた。タングステンとの複合化した膜はW単独から作製した膜と同様ほぼ完全に消色し、150℃まで安定でありながら、Mo系特有の高いコントラストは損なわれていないことが分かった。 -
極値物性の相関を用いたセラミックス材料の新しい信頼性評価法
研究課題/領域番号:02229204 1990年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 重点領域研究
柳田 博明, 岸本 昭, 宮山 勝, 河本 邦仁
配分額:2300000円 ( 直接経費:2300000円 )
本年度は、実際に構造材料として用いられてれいるAl_2O_3を使用し、熱衝撃を加えた場合の絶縁・機械両強度分布の相関を調べた。
試料として三菱鉱業セメント(株)製アルミナフィルム(厚さ30μm.純度97%)を使用し、このフィルムを10mm+3.5mmに切り出した後、熱衝撃を加えた(△T=0K〜300K)。昇温速度は400℃/hで一定とし、所定の温度まで昇温、それぞれの温度で20min保持した後水中(20℃)に投下急冷することにより熱衝撃を加えた。
熱衝撃を加えていない試料の絶縁強度のワイブルプロットは良い直線性を示し、最弱リンク理論に則ったワイブル統計によって評価できることがわかった。さらに、絶縁・機械両強度のワイブルプロットはよい一致を示しており、絶縁体である構造材料セラミックスに対しても本代替評価法が適用できる可能性が示された。
熱衝撃を加えた場合には、200Kまでの熱衝撃に対しては両破壊とも平均強度値の変化はあまり見られず、200K以上の熱衝撃で徐々に強度が低下したが、臨界温度差△Tcを境にした急激な強度低下という現象は、本実験においては見られなかった。熱衝撃を加えた場合の絶縁・機械両強度分布を同一紙面上で比較したところ、200K以下の熱衝撃では両分布はよい一致を示した。250Kの熱衝撃を加えた試料では、機械強度の分布においてはっきりとした折れ曲がりが見られたが、絶縁強度の分布には折れ曲がりが見られず、両分布は一致しなかった。機械強度はクラックが曲げ方向に対して垂直か平行であるかによって強度が変化することから、折れ曲がりはこのクラックの方向を反映したものと考えると、表面亀裂などの弱点分布に異方性が存在する場合には、絶縁破壊試験においてはその異方性を捕らえることが出来ないために、代替評価法として使用する際には注意が必要であることも同時に示された。 -
新規な過酸化ポリ酸の構造と感光機能に関する研究
研究課題/領域番号:02205026 1990年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 重点領域研究
工藤 徹一, 岸本 昭
配分額:3000000円 ( 直接経費:3000000円 )
機能性無機材料研究の一環として、報告者らが見いだした過酸化ポリタングステン酸を用いた無機レジスト材料の研究・開発を行なっている。この新規のポリ酸から得られる薄膜は様々な線源に感応してネガ型の特性を示し、高い感度と解像度を有することがわかっている。そこで、感光メカニズムを解明するとともに、感度・解像度をより一層高め、微細パタ-ンを工夫することにより、実用的な二層ナノメ-タ-リソグラフィの実現を目指している。
現在、電子線露光により孔径0.1μm程度の微細パタ-ンを描き、これをマスクとして有機樹脂を微細加工することで高機能分離膜/センサ-膜の製作を試みている。一方、本レジスト材料は有機非線形材料(MBANP)と反応する事なく塗布することができるため、遠紫外線露光により線幅10μm程度のパタ-ンを描き、これをマスクとして下層の有機非線形材料を加工することも試みている。
過酸化ポリタングステン酸は単身で機能性を有するが、これを前駆体として用い、カルカリ金属、アルカリ土類金属と反応、生成した非晶質塩からは一次元あるいは三次元トンネルを有する酸化タングステン基骨格化合物が低温焼成により容易に得られることがわかった。本年度、塩を形成するカチオン種と生成する骨格構造との関係を調べた結果、生成する三種の骨格構造はカチオンのイオン半径と価数に関連付けられることがわかった。更にアンモニウム塩からは、これまで水熱法でしか得られなかった六方晶WO_3を合成することができた。この物質にK^+、Li^+の電気化学的インタ-カレ-ションを試みたところ、前者ではトンネル内のKサイト数に相当するまでの注入では骨格構造は変化せず、格子定数変化も小さいことがわかった。
MoについてもWと同様の方法により過酸化ポリ酸を調製し、そこから得られる固体相の構造と機能について予備的な検討を行なってきた。
Moを用いたときも過酸化基の存在量に対応した固体相が生成するが、Wを用いたときと同様金属原子と0_2^<2ー>の比が1対1の結晶相、過酸化基を含まない一水和物結晶相が得られた。両系ともに金属原子に対する過酸化基の比が1未満の非晶質相が得られるが、Moを用いた場合にのみ0_2^<2ー>の割合がMoに対し0.5の結晶相が生成した。得られた非晶質相は水に対する溶解度が高く、回転塗布による膜形成が可能であることがわかったのでその、EC特性・感光性について検討している。 -
金属の過酸化ポリ酸を出発原料とする新複合酸化物の合成と物性評価
研究課題/領域番号:01645505 1989年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 重点領域研究
工藤 徹一, 岸本 昭
配分額:3000000円 ( 直接経費:3000000円 )
タングステンに過酸化水素水を作用させると、新しいタイプの過酸化ポリ酸が生成する。この酸は種々のカチオンと不溶性の非晶質塩を作るが、これを前駆体として用いる低温焼成法により、通常の方法では得られない複合酸化物を合成できる。本研究は、このような方法で多くの複合酸化物母体(ホスト)を合成し、それらから導かれる導電性酸化物の物性を検討しつつ、超伝導体の探索を行なうことを目的として研究を行なった。
過酸化ポリタングステン酸(IPA)は、既報と同様に合成した。この溶液に硝酸バリウム攪拌しながら加えると、白色のバリウム塩(Ba-IPA)が沈澱した。この塩は、520℃で結晶化し、650〜700℃で別の結晶相に転移したあと、800℃付近でWO_3とBaWO_4に不均化する。通常の固相反応では800℃以上の高温を必要とするため、ここで得られた二つの結晶相を得ることはできない。
520℃で生成した最初の結晶相:xBaO・WO_3(=Ba_xW_<1-x/3>O_3,x=0.3)は、ほぼ正八面体のWO_6が頂点共有してできたフレ-ムワ-クを基本構造としている。この構造(空間群P6_3/mmc)は、既に報告のある六方晶WO_3や六方晶タングステンブロンズ(P6_3/mmc)とは異なる全く新しいものである。
ここで得られた化合物は完全酸化状態にあり導電性を示さない。導伝性を付与するためには何らかのド-ピングが必要である。Ba_xW_<1-x/3>O_3を例にとれば、Baを一旦プロトンにイオン交換し、これにLa^<3+>を注入するような方法が最も有望と考えられる。このためBa_xW_<1-x/3>O_3を1NHNO_3中で80℃加熱したところ、40%のBaが比較的速やかに交換し、母体の構造はそのまま保存されることがわかった。現在La^<3+>を注入する方法について検討している。xCs_2O・WO_3、xK_2O・WO_3も同様なド-ピングを行なう予定である。