共同研究・競争的資金等の研究 - 小林 達生
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重い電子系の超伝導に関する極限条件下の物性測定
研究課題/領域番号:08223221 1996年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 重点領域研究
天谷 喜一, 石塚 守, 小林 達生
配分額:1800000円 ( 直接経費:1800000円 )
我々のグループでは、ダイヤモンドアンビルセルを用いた超高圧(20GPa)・極低温(50mK)下での電気抵抗・磁気測定の強相関電子系への適応を検討してきた。現状では予測される圧力の一軸性、分布のためにゼロ抵抗の観測には至っていないが、常伝導状態の電気抵抗およびTcの磁場変化の実験に成功した。今までに得られた結果は以下の通りである。
CeCu_2Si_2でみられる高圧下でのTcの上昇とCeCu_2Ge_2のTcの圧力変化)
1.CeCu_2Ge_2においてもP>16.5GPaの高圧下でTcの増大を観測した。
2.Hc-Tc相図はCeCu_2Si_2,CeCu_2Ge_2それぞれの2つの超伝導相で類似している。すなわち重い電子系の超伝導の特徴を示している。
3.超伝導相図のH=0近傍の立ち上がり(-dH_<C2>/dT)は、常伝導状態の電気抵抗から見積もられる有効質量の変化とTcの変化で説明できる。
CeRu_2Ge_2における圧力誘起超伝導の探索)
1.P=10GPa近傍を境界にして、低圧側では長距離秩序状態、高圧側ではフェルミ液体状態を反映した電気抵抗が観測された。
2.P<15GPa、T>50mKの温度・圧力領域で超伝導は観測されなかった。
3.5GPa<P<10GPaの圧力領域(長距離秩序状態)で比較的低磁場(H<4T)で減少する電気抵抗の磁場変化が観測された。これは秩序状態が強い強磁性相関をもっていることを反映しており、このために超伝導が出現しないと考えている。
4.P=9GPa近傍でCeRu_2Si_2に類似した電気抵抗の温度変化が観測されたが、磁場変化ではメタマグによる異常は観測されなかった。 -
一次元細孔に吸着した酸素分子の磁性の^<17>O-NMRによる研究
研究課題/領域番号:08740281 1996年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 奨励研究(A)
小林 達生
配分額:1100000円 ( 直接経費:1100000円 )
今年度スペクトロメーターの整備が遅れたためにNMR測定は行えなかった。予備実験として、今年度までに一次元細孔を有する次の二つの物質に物理吸着した酸素分子の磁気測定、比熱測定を行った。
1.Cu trans-1,4-cyclohexanedicarboxylic acid
低吸着量で帯磁率は30K近傍にショットキー型のピークを示す。磁化過程はH=35Tを臨界磁場とする一段のメタマグ的転移後2μ_B/O_2に飽和する。これらの結果はS=1/2反強磁性ダイマーモデルで説明でき、一重項酸素の出現を示唆すると考えている。双方から求められるg-は値はそれぞれg=2.4、g=2.0と大きく食い違っているが、吸着状態が温度変化し高温では通常の三重項状態が支配的になると考えている。吸着量を大きくするとダイマーモデルからのズレがみられるが、ダイマー間の相互作用か吸着状態のランダムネスによるものと考えている。比熱測定では異常に大きな磁気比熱が観測された。一重項酸素の出現に関連しているのかもしれない。
この異常な吸着状態を明らかにするために、NMRを行い微視的に酸素の磁性状態を研究することはたいへん興味深く今後精力的に行う予定である。
2.ゼオライト(ZSM-23)
磁化過程の測定では一次元反強磁性体に特徴的な直線的変化が得られているが、S=1の系で期待されるHaldaneギャップは観測されていない。帯磁率の温度変化では30K近傍にわずかな折れ曲がりが観測されるが低温領域での常磁性的な増大が大きく、その温度依存性を議論するには至っていない。比熱は期待される短距離秩序を示すブロードなピークが観測された。
それらの結果は1.の系と大きく異なり通常の三重項酸素状態で説明できるものである。この系ではゼオライトの陽イオンがランダムに存在しているため酸素が一様な鎖を形成せず、相互作用がランダムに分布していると考えている。 -
超高圧下の固体水素
研究課題/領域番号:07404018 1995年 - 1998年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(A)
天谷 喜一, 宮城 宏, 石塚 守, 小林 達生, 遠藤 将一
配分額:29600000円 ( 直接経費:29600000円 )
Mbar(メガバール,百万気圧)を超える超高圧下では低圧下で絶縁体である固体水素も電気伝導性を示すと期待される。我々はこの金属化を従来の間接的な光学的測定ではなく、より直接的な電気抵抗測定により験証することを目的に研究を行ってきた。まずMbar域超高圧発生とその下での電気的磁気的測定技術の開発を行った。具体的には超高圧発生用DAC(ダイヤモンドアンビル)の開発及び直径30μmのダイヤモンド圧力発生面上で電気抵抗測定用5μm幅の極微細電極を作成、1辺約10μm立方の固体水素試料の抵抗測定の準備が整った。圧力値も最高値2.25Mbarを達成、その圧力下での電気抵抗測定としては世界最高記録を打ち立てた。
次いで、上記技術的成果を背景に、アルカリ土類金属CaをはじめとしてVIb族元素であるイオウ(S)や酸素(O_2)、更にはイオン結晶(CsI)、有機分子結晶(C_6I_4O_2)等、次々と圧力誘起による金属化に次ぐ低温下超伝導性の発見を行って来た。これらの研究遂行上の過程で、水素の金属化圧も当初の予想の1.5Mbarから2.5Mbarと修正され、現在では3.4Mbarの超高圧下でも尚、光学的に透明であり、電気的にも絶縁的であると報告されるに至っている。又、我々の理論グループ(宮城ら)の研究においても水素の分子解離が量子効果を取り込んだ結果でも4Mbarを超えると評価されるに至って我々の研究計画も大幅に修正を受け、今後さらなる超高圧発生が必須となった。しかし、現在、金属水素は、現在の我々の到達可能な圧力域である2Mbarから3Mbarの間でも1000℃〜1500℃の高温下では実現可能であると期待している。その目的に向けて現在水素の圧力封じを開始し、加圧を始めた。結果は封じ込めそのものには成功しているが、試料周辺の金属への拡散等により、試料穴の水素を安定に封じ込めることには未だ成功してはいない。上述のように金属水素験証には幾つかの困難があるものの、実験的技術は日々、進歩しつつあり近い将来において解決されると期待され、その期待がまさに本成果から得られたと信じている。 -
重い電子系の超伝導に関する極限条件下の物性測定
研究課題/領域番号:07233215 1995年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 重点領域研究
天谷 喜一, 石塚 守, 小林 達生
配分額:2300000円 ( 直接経費:2300000円 )
1.多重極限下の熱測定
純良単結晶UPt_3の熱測定から超伝導状態の温度-磁場-圧力相図を作成するために、今年度は常圧下での磁場-温度相図の作成、高圧セルの検討を行った。常圧下での比熱測定(温度変化)、磁気熱良効果の測定(磁場変化)から得られた磁場-温度相図は特徴的な三つの超伝導相からなり、すでに報告されている結果と良い一致が得られた。高圧下での測定では測定精度を上げる必要があるため、UPt_3単結晶用に小型の高圧セルを作成し現在圧力発生を行っている段階である。
2.超高圧下における物性測定
ダイヤモンドアンビルセルを用いた電気抵抗測定、磁気測定を行いCePd_2Si_2等のCe122系の超伝導の探索を行った。今年度は、常圧下では磁気秩序を示すCePd_2Si_2およびCeRH_2Si_2の圧力誘起超伝導(Pd:Tc=0.2K,P=3.5GPa,Rh: Tc=0.4K,P=1.3GPa)を観測することに成功した。またCeCu_2Ge_2では高圧下で誘起される超伝導(Tc=0.7K)のTcがさらに高圧下で上昇する傾向(Tc=1.4K,P>17GPa)が観測され、CeCu_2Si_2の高圧下でのTcの上昇と同様の振る舞いであると考えている。現在、静水圧性の良い圧力下でのマイスナー効果の測定を行い確認を急いでいる。またこれらの超伝導状態の臨界磁場の測定を行うべく超伝導磁石(14T)用の稀釈冷凍機、DACの製作を行っている。 -
一次元酸素分子の磁性
研究課題/領域番号:07740296 1995年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 奨励研究(A)
小林 達生
配分額:800000円 ( 直接経費:800000円 )
一次元細孔を有する次の二つの物質に物理吸着させた酸素分子の磁気測定を行った。
1.Cu trans-1,4-cyclohexanedicarboxylic acid
帯磁率の温度変化では30K近傍のSchottky型のピークとそれ以下の低温域におけるCurie則的増大が観測された。後者を孤立酸素分子の寄与として差し引いた残りはS=1/2反強磁性ダイマーモデルにフィットさせることが出来た。パルス強磁場を用いた磁化過程の測定(T=1.3K)では、H=35Tを臨界磁場とする一段のメタマグ的転移後2μ_B/O_2を飽和値とする磁化が観測された。この結果は上記S=1/2ダイマーモデルを支持する結果である。以上は低吸着量においてみられ、吸着量を大きくするとダイマーモデルからのズレがみられるがS=1一次元反強磁性体やS=1ダイマーとは明らかに異なる結果である。これらの結果について物理的解釈には至っていないが、吸着した酸素分子のS=1状態の不安定性を示唆していると考えられる。
2.ゼオライト(ZSM-23)
45Tまでの磁化過程の測定では一次元反強磁性体に特徴的な直線的変化が得られているが、10T以下の低磁場領域で大きな常磁性的振る舞いが観測されており、S=1の系で期待されるHaldaneギャップは観測されていない。帯磁率の温度変化では30K近傍にわずかな折れ曲がりが観測されるが低温領域での常磁性的な増大が大きく、その温度依存性を議論するには至っていない。一次元系の短距離秩序を反映した比熱を観測するために現在比熱測定を準備中である。 -
ハルデンギャップ反強磁性体の^<15>N-NMRによる研究
研究課題/領域番号:06740291 1994年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 奨励研究(A)
小林 達生
配分額:900000円 ( 直接経費:900000円 )
1.ハルデンギャップ反強磁性体(CH_3)_4NNi(NO_2)_3(TMNIN)において、Ni^<2+>(S=1)チェーンのNO_2-ボンドのN核を100%^<15>N核で置換した粉末試料の作成を行った。
2.同時に、TMNIN試料の単結晶化を行った。1×0.1×0.1mm^3程度の大きさの単結晶作成には成功したが、現時点ではNMR測定は不可能である。より大型の単結晶試料作成を、継続して試みている。
3.H〜10Tの磁場中、測定温度T〜1.3K,4.2Kで、^<15>N核(I=1/2,γ=0.43143kHz/G)のNMRシグナルは観測できなかった。このとき、チェーン間に存在するテトラメチルアンモニウムイオン中の^<14>N核(I=1,γ=0.30752kHz/G)のNMRシグナルは良い感度で観測されており、チェーンサイトの^<15>N核はスピン-格子緩和時間T_1が短いため観測されないと考えている。TMNINの場合、臨界磁場H_c〜3T以上の磁場中ではギャップレス状態であるといわれている。そこではNiスピンのゆらぎが大きく、大きな超微細相互作用をもつと思われるNO_2ボンドの^<15>N核のT_1は非常に短くなっていると考えられる。この場合、H_c以下ではギャップ状態であるため観測される可能性があり、現在実験を進行中である。 -
有機分子の磁気的相転移の研究
研究課題/領域番号:06218215 1994年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 重点領域研究
天谷 喜一, 長谷田 泰一郎, 蒲池 幹治, 石塚 守, 小林 達生
配分額:1700000円 ( 直接経費:1700000円 )
1.ラジカルを有する有機分子磁性体
本研究では、ニトロキシルラジカルを有するメタクリル酸エステル(MOTMP)及びアクリル酸エステル(AOTMP及びMATMP)及びフェルダジルラジカルを有するp-CDTV、更にはVO^<2+>上の電子が磁性を担う高分子TPPPの磁気相転移を磁気的、熱的測定により調べた。
2.p-CDTVその他
NOラジカル以外のラジカルが磁性を担う、かつ強磁性的であるという点で注目されたp-CDTVについて、0.6K近傍で強磁性特有の磁化ヒステレシスを観測した。しかし、交流法磁化率による磁化過程では反強磁性的なスピンフロッピングがあらわれ、現在、結果を解析中である。
又、TPPPにおいては強磁性的キュリーワイス温度が45Kという高温で、その機構に興味があるが、30mkの極低温に至るまで磁気的長距離秩序は見出されず、今後の課題となった。 -
分子性結晶の圧力誘起相転移の研究
研究課題/領域番号:05452057 1993年 - 1994年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 一般研究(B)
天谷 喜一, 遠藤 将一, 石塚 守, 小林 達生
配分額:6800000円 ( 直接経費:6800000円 )
平成6年度研究計画に沿って、以下の研究実績を得た。
1.100万気圧級の圧力発生用セルの開発
ダイヤモンドアンビルセルの圧力発生面に傾斜角(ベベル角)をもたせる事で100万気圧を0.1K以下の超低温で発生する事に成功した。
2.固体ヨウ素の最高圧相における超伝導転移
最高圧における立方晶固体ヨウ素の超伝導転移は圧力増加と共に転移温度は上昇する事が確認された。圧力効果は転移温度の減少とする理論と矛盾する結果となった。
3.固体臭素の圧力誘起超伝導の観測
圧力下固体臭素も80万気圧を超えると分子解離を起し、単原子金属となり、超伝導性が期待される。実験では、90万気圧で超伝導のオンセットが0.2近傍でみられ、100万気圧下で1Kより抵抗減少が見られた.
4.固体酸素
圧力下固体酸素の顕微鏡による直接観測を行い、固化、結晶下、圧力下不透明化等の観測を行なった。現在分光分析の実験を進めつゝある。70万気圧下までは金属反射は見られない。 -
有機分子の磁気的相転移の研究
研究課題/領域番号:05226219 1993年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 重点領域研究
天谷 喜一, 蒲池 幹治, 長谷田 泰一郎, 石塚 守, 小林 達生
配分額:1700000円 ( 直接経費:1700000円 )
本研究の目的は、単純な構造をもつ有機分子結晶を対象に磁気測定を行い磁性の詳細、とりわけ磁気相転移、異方性、秩序状態、スピン構造等を解明する事である。
研究成果
MOTMP及びMATMPは、NOラジカルが磁性を担う有機分子結晶で天々正のワイス温度をもつ磁性体である。50mKの極低温に至る磁化率磁化の測定を行った結果は、一次元強磁性体としての高温域のふるまいがT_N=0.15Kにおいて反強磁的な3次元的長距離秩序状態に転移する事がわかった。T_N以下の温度で、良質の自作単結晶を用いた磁化過程の観測結果から容易軸型反強磁性体の特徴であるスピンフリップ転移が発見された。磁気的異方性の起源を双極子相互作用に求めた理論的解析が実験をよく説明することから、スピン構造のモデルを提出するに至っている。唯MOTMPとMATMPは鎖間相互作用に違いがあり、その事と関連してMATMPではMOTMPにみられない弱い強磁性効果が見られたが現在解明中である。
現在、3次元強磁性体を示す物質を探索中であるが、最近P-CDTVにおいて0.6K及び0.7Kにおいて強磁性的遂次相転移を見出している。未だスピン構造決定には至っていないが、強磁性を示す新しいラジカルとして注目に値すると考えている。以上の様に新試料の開発・単結晶作成に成果を挙げる一方で、転移の圧力効果をねらった特製の圧力容器とクライオスタットも製作中である。 -
ハルデンギャップ反強磁性体NENPの^<14>N-NMRによる研究
研究課題/領域番号:05740229 1993年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 奨励研究(A)
小林 達生
配分額:1000000円 ( 直接経費:1000000円 )
今年度、NENPにおける^<14>N-NMRのスペクトルについて3〜12Tの磁場、1.3〜40Kの温度領域における実験を行った。その結果を以下に示す。
1.測定したすべての磁場/温度領域において四重極分裂(I=1)した3組のシグナルが観測された。当初、エチレンジアミン分子中とNO_2イオン内のN核について2サイトからのシグナルが観測されることを予測したが、結晶の低対称性を反映してエチレンジアミン中のN核についてもシグナルが2つに分離して観測されることが分かった。
2.それらのシグナルの磁場変化、温度変化は一様帯確率だけでは説明されず、スタッガードモーメントの出現を支持している。
3.^<14>N-NMRのスペクトルのシフトはNi^<2+>サイトに局在モーメントとN核との磁気双極子相互作用だけでは説明できず、NサイトにトランスファーしたNi^<2+>モーメントとN核の磁気双極子相互作用が支配的であると考えられる。
4.現時点では、有機物質特有の結晶の低対称性(1)や異方的相互作用(2)からくる解析の難しさのために、スペクトルの総合的理解には成功していない。今後、NENPより結晶の対称性の良いNINOにおける^<14>N-NMRを行いNENPと比較検討する予定である。
さらにTMNINの粉末試料を用いた^1H-NMRを行った。スタッガードモメントの出現を示す低温強磁場中でのラインの広がりは観測されなかった。またこの試料において^<14>N-NMRを試みたが四重極分裂(I=1)のためシグナルは観測されなかった。今後、^<14>N核を^<15>N核(I=1/2)で置き換えた試料における^<15>N-NMRを試みる予定である。