共同研究・競争的資金等の研究 - 小林 達生
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精密物性測定によるアシンメトリ量子物質の新機能開拓
研究課題/領域番号:23H04868 2023年04月 - 2028年03月
日本学術振興会 科学研究費助成事業 学術変革領域研究(A)
柳澤 達也, 小林 達生, 井澤 公一, 木俣 基, 橘高 俊一郎
配分額:187200000円 ( 直接経費:144000000円 、 間接経費:43200000円 )
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アシンメトリが彩る量子物質の可視化・設計・創出の研究総括
研究課題/領域番号:23H04866 2023年04月 - 2028年03月
日本学術振興会 科学研究費助成事業 学術変革領域研究(A)
鬼丸 孝博, 大槻 純也, 田端 千紘, 柳澤 達也, 大原 繁男, 吉田 紘行, 網塚 浩, 井澤 公一, 小林 達生, 小林 夏野, 木俣 基
配分額:299520000円 ( 直接経費:230400000円 、 間接経費:69120000円 )
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α-Mnの高圧物性 異常ホール効果と量子臨界現象
研究課題/領域番号:21H01042 2021年04月 - 2024年03月
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(B)
小林 達生
配分額:13780000円 ( 直接経費:10600000円 、 間接経費:3180000円 )
本研究の最重要課題は、Mn単体の室温での安定相であるα-Mnの常圧および高圧下での磁気秩序状態を明らかにすることである。当研究グループでは、α-Mnにおいて二つの磁気秩序相からなる圧力-温度相図を示すことを発見し、常圧近傍は反強磁性(AFM)相であり、高圧相は弱い強磁性(WFM)相であることを明らかにしている。
2021年度は原子力機構との共同研究により、J-PARCで高圧下WFM相での中性子散乱実験に成功した。その結果、WFM相では核散乱以外に新たな散乱ピークは現れないことから、スピン構造は強磁性であることが明らかになった。この結果は、WFM相で現れる異常ホール効果がベリー曲率に起因することを強く支持する。現在、スピン秩序構造の詳細の解析を進めており、今後高圧下ゼロ磁場NMRの結果と合わせて、WFM状態の全貌を明らかにする。
一方、常圧のAFM状態については、1972年にゼロ磁場NMRで観測されたスペクトルの解釈ができていなかった。昨年度、試料の純良性の向上により、従来得られている結果とは質的に異なるスペクトルが得られ、その全貌が明らかになった。(島根大との共同研究)この結果は、1970年代に行われた中性子散乱実験で提案されているスピン秩序構造では説明できない。今後中性子散乱実験を行い、NMRの結果と合わせてスピン構造を明らかにする必要がある。(原子力機構との共同研究) -
α-Mnにおける高圧下での磁気ゆらぎ超伝導の探索
研究課題/領域番号:18K03517 2018年04月 - 2021年03月
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(C)
小林 達生
配分額:4420000円 ( 直接経費:3400000円 、 間接経費:1020000円 )
α-Mnの圧力-温度相図を決定した。高圧下で弱い強磁性(WFM)相を発見し,ここで巨大な異常ホール効果が観測された。秩序構造の変化により現れる異常ホール効果は初めての例であり,ベリー曲率に起因し,強磁性と同じ既約表現をもつ磁気秩序状態で現れているものと考えられる。WFM相が消失する臨界圧力では,電気抵抗は広い温度範囲で温度の5/3乗に従い,強磁性ゆらぎの存在を示唆する。17 GPaまでの圧力領域で超伝導探索を行ったが,50 mKまでの温度範囲で観測されなかった。反転対称性のない結晶構造で強磁性ゆらぎが存在すると,クーパー対の形成に必要なバンドの縮退がないことが原因と考えられる。
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Cd2Re2O7の高圧下における奇パリティ多極子秩序とパリティゆらぎ超伝導
研究課題/領域番号:18H04323 2018年04月 - 2020年03月
日本学術振興会 科学研究費助成事業 新学術領域研究(研究領域提案型)
小林 達生
配分額:8710000円 ( 直接経費:6700000円 、 間接経費:2010000円 )
Cd2Re2O7において、空間反転対称性が失われる構造相転移(Ts1転移)が消失する臨界圧力近傍でp波超伝導の兆候が観測され,これに注目した研究を行った。
(1) NQR:京大・石田グループとの共同研究でRe-NQR測定を行った。加圧によりスペクトルの幅が広がるが,3.1 GPa(IV相)までの測定に成功した。3.1 GPaでは緩和時間T1のコヒーレンスピークが消失する兆候が観測され,理論的に提案されている等方的p波の可能性が示唆された。より高圧までの詳細なデータをとるためには,スペクトル幅が広がる原因究明が必須である。
(2) 比熱:光交流法比熱測定により,6.5 GPaまでの超伝導転移の観測に成功した。転移温度や臨界磁場Bc2の圧力変化は電気抵抗測定から決定された以前の実験結果に一致しており,高圧下におけるBc2の増大がバルクの性質であることが明らかになった。超伝導状態では試料の熱伝導が悪くなるために,交流法での比熱の定量的評価は不可能であった。
(3) ホール効果:4.7 GPaまでの測定に成功し,圧力-温度相図に対応したホール係数の変化が観測された。低温相では電子に比べてホールの移動度が減少しており,圧力誘起相(IV, VII, VIII)ではその傾向が増大する。この振る舞いはホールバンドの分裂やそのゆらぎ効果による有効質量の増大で説明できる。
(4) 応力下でのシングルドメイン試料での物性測定:単結晶を用いた実験ではTs1転移以下でマルチドメインになるため,物性の異方性が明らかになっていない。東大物性研・廣井グループとの共同研究により,ピエゾ素子を用いて結晶軸をそろえ,電気抵抗の異方性を測定することに成功した。その結果,II相では Rc > Ra,III相では Rc < Ra であり,わずかな結晶構造の変化にもかかわらず異方性は最大25%に達する。 -
スピン操作分子立体配置制御と磁場誘起現象
研究課題/領域番号:16H04009 2016年04月 - 2019年03月
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(B)
松田 康弘, 小林 達生
配分額:12350000円 ( 直接経費:9500000円 、 間接経費:2850000円 )
固体酸素の磁場ー温度(B-T)相図を決定した。これまで未解明であった、αーβ、βーγ相境界は磁気熱量効果によって初めて決定できた。さらに、強磁場θ相と、γ相、β相の三重点も決定した。また、ファイバーブラッググレーティングを用いて磁歪測定手法を開発し、LaCoO3のスピン状態転移を磁場誘起構造相転移として初めて観測した。この手法はカゴメ格子の1つであるボルボサイトにも適用した。有機スピンラダー物質のBIP-BNO(S=1/2)とBIP-TENO(S=1)について強磁場磁化過程を明らかにし、強いスピンー格子結合とその動的特性によって、S=1では特異な磁化過程が現れることを見出した。
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電子強誘電体鉄酸化物は超伝導体となりうるか
研究課題/領域番号:25620071 2013年04月 - 2016年03月
日本学術振興会 科学研究費助成事業 挑戦的萌芽研究
吉井 賢資, 小林 達生, 米田 安宏, 齋藤 寛之, 福田 竜生, 松村 大樹, 池田 直
配分額:4030000円 ( 直接経費:3100000円 、 間接経費:930000円 )
申請者らが発見した電子強誘電体RFe2O4(R:Y, Ho-Lu)につき、超伝導相の可能性を探索した。鉄イオン間の電子間相互作用を増強するため、圧力下での電気抵抗測定を行ったところ、数GPaまでの圧力では、本系は半導体的性質を保つことが分かった。ただし、一部の系では圧力により活性化エネルギーが減少する傾向が見られ、本系の新規相を探索する目的で研究を継続する。同じく相互作用を変化させる目的で、Rサイト置換を行ったところ、大きい希土類Dy3+を導入すると、250K程度である磁気転移温度が5-10Kほど上昇することも分かった。本結果は、室温マルチフェロイック相の探索の点でも興味深い結果である。
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強相関f電子化合物の量子臨界点近傍での電子状態計算法の開発
研究課題/領域番号:22340099 2010年 - 2012年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(B)
播磨 尚朝, 小林 達生, 菅原 仁, 楠瀬 博明, 大槻 純也, 鈴木 通人
配分額:18720000円 ( 直接経費:14400000円 、 間接経費:4320000円 )
強相関電子系の特異な物性は、あるパラメータを介して複数の基底状態が拮抗した処で実現している場合が多く、対称性が低い状態においても大きなクーロン相互作用が主要な役割を演じている。その対称性を正確に考慮した電子状態の計算を実行するための計算コードの開発などを行った。圧力下で量子臨界現象を見せる UCoAl などについて研究を行なった。
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高圧下精密物性測定によるf電子系化合物の量子相転移と超伝導の研究
研究課題/領域番号:21102513 2009年 - 2010年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 新学術領域研究(研究領域提案型)
小林 達生
配分額:8710000円 ( 直接経費:6700000円 、 間接経費:2010000円 )
本研究ではインデンターセルを用いた各種精密測定の開発を通じて,重い電子系化合物の圧力誘起量子相転移の研究を行うことを目的としている.
1.高圧下ホール効果測定
CeCu2Si2における高圧下での超伝導転移温度Tc増大の機構解明のため,単結晶試料を用いたホール効果の測定を行った.3.5GPaまでの実験に成功し,Tcが上昇し始める3.OGPa以上で,「異常ホール効果」で説明できないホール効果の増大が低温で観測された.Tcが最大となるのは4.0GPaであり,より高圧までの実験が急がれるとともに,このホール効果増大の機構解明が必要である.
2.高圧下比熱・交流帯磁率測定
スクッテルダイト構造をもつSmOs4Sb12ではSmイオンの価数が温度変化を示すことが知られており,磁場に鈍感な重い電子状態との関連が注目されている.高圧下での秩序状態を解明するために,交流帯磁率測定および比熱測定を行った.その結果、両測定で強磁性転移温度の上昇が観測されたが,転移点での交流帯磁率のピークは著しく減少し,一方比熱異常は著しく増大することがわかった.この結果から,高圧下の秩序状態は単純な強磁性秩序ではなく,多重極秩序である可能性が示唆される.
3.高圧下ひずみ測定
強磁性体UIrでは3つの強磁性相FM1-3が存在し,FM3-非磁性転移圧力近傍で超伝導が出現する.これまでの研究で,圧力誘起構造相転移が存在する可能性が指摘されていたため,室温でのひずみと電気抵抗の圧力変化により検証した.その結果,3GPa以下で2つの一次相転移を発見し,3つの相I-IIIが存在することがわかった.III相はFM3と超伝導を示す構造相であるが,静水圧性の良い条件下では低温で不安定でII相に転移することがわかった.超伝導転移にともなうマイスナー効果がわずかしか観測されないことは,この事実に起因するものと考えている. -
高圧下における強磁性超伝導と価数ゆらぎ効果の研究
研究課題/領域番号:20340090 2008年 - 2010年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(B)
小林 達生
配分額:17940000円 ( 直接経費:13800000円 、 間接経費:4140000円 )
強磁性体UIrにおいて,高圧下で2つの構造相転移が存在することを発見し,高圧相IIIにおいて強磁性臨界点および超伝導が誘起されることを明らかにした.III相は低温で不安定で,超伝導によるマイスナー効果が小さい原因と考えられる.重い電子系超伝導体CeCu_2Si_2において,転移温度の増大にともなうホール効果の異常を発見した.Ceイオンの価数転移による電荷ゆらぎに起因する可能性があり,超伝導機構に関連していると考えられる
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PrFe4P12の圧力誘起金属-絶縁体転移の機構解明と新たな圧力誘起相の探索
研究課題/領域番号:18027008 2006年 - 2007年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 特定領域研究
小手川 恒, 小林 達生, 藤原 賢二, 赤澤 輝彦
配分額:8000000円 ( 直接経費:8000000円 )
PrFe_4P_<12>の圧力誘起金属-絶縁体転移の研究に引き続き,スクッテルダイト化合物の圧力誘起量子現象に関する研究を行った.SmOs_4Sb_<12>は磁場に鈍感な重い電子状態を持ち,その起源が従来の磁気的な近藤効果を通したものではなく,f電子の多極子モーメントの自由度やラットリングと呼ばれる格子の自由度が関連していると指摘されている.我々はこの物質の圧力効果に着目し,高圧下Sb-NQR測定を行った.その結果,近藤効果がコヒーレントになる特徴的な温度で核スピンースピン緩和率1/T_2に電荷揺らぎに起因した異常を発見した.この異常は0.8GPa程度で最も顕著になり,同じ圧力下で電気抵抗率に非フェルミ液体的振る舞いも観測されることが分かった.これらの結果は従来の磁気臨界点近傍の重い電子系物質では見られなかった振る舞いであり,SmOs_4Sb^<12>の重い電子状態に電気的な自由度が関与していることを強く示唆している.また.高圧下磁化測定,帯磁率測定も行った.SmOs_4Sb^<12>は常圧で約2.5Kのキュリー温度を持つ強磁性体と報告されているが.我々は高圧下で強磁性的な振る舞いは消え,自発磁化は約2 Gpaでほぼ消失することも明らかにした.このことは基底状態が単純な強磁性でないことを意味し、磁気モーメントとは別の秩序変数(多極子モーメント)の存在を示唆する.
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配位空間に凝集した酸素分子の異常磁性の解明
研究課題/領域番号:16074210 2004年 - 2007年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 特定領域研究
小林 達生, 小手川 恒, 金道 浩一, 美田 佳三
配分額:9600000円 ( 直接経費:9600000円 )
配位高分子のつくるナノ細孔(配位空間)では,その周期的な静電ポテンシャルを反映して,規則的に配列した吸着分子クラスターを形成することが可能である.特に酸素分子02については,分子間力に磁気的相互作用が大きく関与していることから,「磁場誘起再配列機構」による磁化過程の異常が予測される.これは従来研究されている低次元磁性体では見られない新しい量子効果であり,分子配列の違いによって多彩な磁気的振舞いが期待される.本特定領域研究では,いくつかの多孔性配位高分子において,その配位空間に吸着した02クラスターが,異常な磁気的性質を示すことを発見した.CPL-1の配位空間に吸着した02分子は02-02ダイマーを形成する.この磁化過程や帯磁率の温度変化は,S=1ハイゼンベルグ反強磁性モデルでは説明できず,異なった配列の励起状態を考慮したモデルによって説明される.第一原理計算によると,02-02ダイマーの基底状態はH-型配列をもつ非磁性状態であり,観測された02分子の配列はこれと一致する.CPL-1に吸着したN2-N2ダイマーの構造は傾いたS-型であり,分子配列に分子間相互作用が効いていることがわかる.一方,02-02ダイマーの励起5重項状態の最も安定な配列はS-型である.このため,通常の配列を固定したモデルに比べ励起状態が下がることが特徴である.同様の磁気的性質はCu-CHDでも観測されており,概ねCPL-1と同様のモデルで説明できる.CPL-plやCID-4でもメタ磁性が観測されるが,吸着量に依存することが特徴である.これらの結果から,02クラスターの磁性では配列の異なる励起状態を考慮する必要があることが明らかになった.より直接的な「磁場誘起再配列」の実験的検証が期待される.
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PrFe_4P_<12>の圧力誘起金属-絶縁体転移の機構解明と新たな圧力誘起相の探索
研究課題/領域番号:16037210 2004年 - 2005年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 特定領域研究
小林 達生, 小手川 恒, 赤澤 輝彦, 武田 圭生
配分額:8900000円 ( 直接経費:8900000円 )
本研究では高圧下でスクッテルダイト構造を反映した特徴的な物性を探索し,その発現機構を明らかにすることを目的としている.
1.PrFe_4P_<12>の圧力誘起金属-絶縁体(M-I)転移
PrFe_4P_<12>の圧力誘起M-I転移の発見に引き続き,その起源解明に向けて磁化、ホール効果、NMR測定を行った.発見当初は低温の電気抵抗上昇の原因として磁気散乱の急激な増加の可能性も考えられたが,高圧下ホール効果測定を行い,バンド絶縁体状態が実現していることを見出した.また,高圧下NMR測定を行い金属状態から絶縁体状態への変化がクロスオーバー的な現象ではなく相転移であることを明らかにした.NMRスペクトルと磁化測定の結果から絶縁体相は約2μ_B程度の磁気モーメントを持つ反強磁性秩序相であることが分かった.
2.その他のスクッテルダイト化合物における新たな圧力誘起相の探索
PrFe_4Sb_<12>,PrOs_4Sb_<12>,PrOs_4P_<12>,NdFe_4P_<12>,NdOs_4Sb_<12>,NdRu_4Sb_<12>,SmOs_4Sb_<12>,LaFe_4P_<12>,LaRu_4P_<12>,LaFe_4Sb_<12>における4GPaまでの圧力効果を調べた.この中で圧力効果の大きかったものとして重い電子系物質SmOs_4Sb_<12>があげられる.常圧のSb-NQR測定において2Kの強磁性転移が本質的であることを明らかにしたが,この2Kのキュリー温度は加圧と共に急激に上昇していくことが分かった.つまり,SmOs_4Sb_<12>は常圧で強磁性臨界点の近傍に位置していることを意味している.このような系は過去にCe系,Yb系では報告があるが,Sm系では初めてである.また,このことが重い準粒子形成に大きく寄与していると考えられる. -
未踏領域高圧下NMRの開発と圧力誘起量子ゆらぎ効果の研究
研究課題/領域番号:15340119 2003年 - 2005年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(B)
小林 達生, 小手川 恒, 藤原 賢二
配分額:15800000円 ( 直接経費:15800000円 )
本研究は,高圧下で誘起される超伝導をはじめとする量子ゆらぎ効果を,NMRによりミクロスコピックな視点で研究することを目的として行われた.主となるf電子系の量子ゆらぎ効果の研究では,希釈冷凍機を用いた極低温領域までの測定が必要であるが,従来のピストン-シリンダー型高圧セルを用いた極低温/高圧下NMR測定では,2-3GPaが限界である.本研究では,NMR測定が可能な体積を有するインデンター型高圧セルを独自に開発し,前人未踏の5GPa/0.1KにいたるNMR測定に成功した.これを用いて,NMRによる以下の圧力誘起現象の研究を行った.
(1)CeCu_2Si_2における高圧下でのT_C増大
常圧での超伝導は磁気ゆらぎによるものとされているが,高圧下ではT_Cが増大する一方で磁気ゆらぎが著しく抑制される.T_Cが極大値を示す圧力近傍でも,常圧と同様のギャップレス超伝導が起きている.
(2)PrFe_4P_<12>における圧力誘起金属-絶縁体転移
このM-I転移は本研究グループで発見された.P-NMR測定により,絶縁体相では反強磁性秩序がおきていること,M-I転移は一次転移であることが明らかになった.
(3)LiV_2O_4における圧力誘起M-I転移
Li-NMRの結果,絶縁体相出現にむかって磁気ゆらぎが増大し,T_1=const.に近づく.これは高圧下で誘起される磁気不安定点近傍でM-I転移が誘起されることを示唆する.
また,NMR測定には至っていないが,いくつかのf電子系化合物において,量子ゆらぎが関連していると思われる新奇な圧力誘起超伝導の発見に成功した.UIrは反転対称性のない結晶構造をもつ強磁性体ではじめての超伝導である.CeNiGe_3では反強磁性秩序が安定な圧力領域から超伝導が観測されており,磁気ゆらぎだけで説明できるのかが興味深い. -
超強磁場が誘起する磁性体の量子相転移の研究
研究課題/領域番号:13130203 2001年 - 2004年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 特定領域研究
金道 浩一, 鳴海 康雄, 竹内 徹也, 小林 達生, 萩原 政幸, 坂井 徹
配分額:115100000円 ( 直接経費:115100000円 )
本研究では、70テスラまでの磁化測定を日常的に行えるような装置開発を行い、これを用いて強磁場で誘起される様々な量子現象を観測した。例えば、スピン1の反強磁性梯子鎖と考えられている物質BIP-TENOで1/4プラトー全貌の観測に成功した。この物質の磁性はラジカルが担うため、スピンは1/2であるが、スピン間に大きな強磁性相互作用が存在する事により結果としてスピン1を形成している。結晶構造からこのスピン1が梯子鎖状に配置され、磁気測定からそのスピン間の相互作用が反強磁性的であると見なされている。また、これまでの強磁場磁化測定により、約44テスラから1/4プラトーが観測されていたが、このプラトーの発現は自明ではなかった。本研究により磁化測定を70テスラまで拡張することにより初めてこのプラトーが65テスラ付近で終わることが分かり、またこれがプラトーであることを確認できた。プラトーの全貌が観測できたことにより、その発現機構解明に役立つと考えられる。一方、70テスラの磁化測定で誘起された新現象の一部が観測されたケースもある。その代表例が吸着酸素の磁化測定である。酸素分子はそれ自体がスピン1を持つ磁性分子であり、低温における凝縮状態では反強磁性の磁気秩序(ネール状態)を示す。この酸素分子をある種の一次元的な細孔を持つ錯体に吸着させたところ、低温でネール状態とは異なる非磁性状態となった。また構造解析の結果、酸素分子が梯子鎖を形成していることが明らかとなった。磁化測定では50テスラ付近から非磁性状態が壊れ、磁気的な状態へと転移して、磁化が非線形な増加を始める様子が観測された。しかしながら、BIP-TENOとは異なり、プラトーは観測されていない。この現象を解明するためには非磁性基底状態の理解が必要である。また、異なる銅錯体に吸着された酸素では、低温においても非磁性を示さず、強磁場磁化過程においてまず飽和磁化の1/3プラトーが観測された。
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軽アルカリ金属の超高圧力下超伝導
研究課題/領域番号:13640364 2001年 - 2002年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(C)
清水 克哉, 浜谷 望, 小林 達生
配分額:3600000円 ( 直接経費:3600000円 )
リチウムは理論計算によって約100GPaでペアリングを起こすことにより、金属-絶縁体転移の可能性が示唆されている。また、超伝導転移もT_cが70〜80Kにもなるのではないかと予想されている。高圧実験ではX線構造解析がされており約7GPaでbcc構造からfcc構造に、約40GPaでcI16構造に転移することが知られている。初年度の研究により、リチウムの高い反応性は低温に保つことで抑えられることが明らかとなった。引き続き30GPa以上の加圧にはさらに流動性を抑えるための加工がダイヤモンド表面に必要であることも判明し、次年度よりはダイヤモンド表面にくぼみをつける加工を施した。これにより30GPa以上の加圧が可能となった。
以上の技術開発の結果、30GPa以上でリチウムの超伝導転移を観測した。超伝導転移温度は圧力とともに上昇し、約48GPaにおいては単体金属としては最高の20Kにまで上昇した。この結果はNature誌および各新聞に掲載され、海外の研究者にも多くの関心がもたれた。本研究を通して、圧力発生のみならず高反応性などの克服してきた多くの技術的難点への対処は、高圧物理の長年の夢である水素の金属化や超伝導の可能性に追求に、少なからず寄与すると考えられる。 -
NMR用超高圧DAC装置の開発と圧力誘起分子性金属状態の研究
研究課題/領域番号:12874039 2000年 - 2001年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 萌芽的研究
藤原 賢二, 小林 達生
配分額:2300000円 ( 直接経費:2300000円 )
DAC-NMRの予備実験として、極微小NMR用受信コイル(外径300μm、高さ250μm、線径25μm)を作製し、非金属ガスケヅトの圧力空間内にコイルをセットして、常圧下で信号観測を試みた。試料には、NMR信号強度の大きな遷移金属化合物LiV_2O_4、有機化合物NDMAPなどを用いた。現在までに、強磁場下でNDMAPの水素(H)の信号観測に成功している。また、10GPa以上の圧力発生のためにはコイルをさらに小さくする必要があり、線径15μmの極微細銅線作製を入手して種々のNMRコイルを作製して予備実験を重ねている。線径が細いため加圧時の断線が頻発しており、試料空間内のコイルからいかにリード線を取り出すかが課題となっている。水素以外の種々の核に応用可能かどうかについても検証する必要があり、より広範囲の周波数、種々の試料でのNMR実験を行いたいと考えている。
DAC-NMRの別のアプローチとして非金属ガスケット外にコイルを置く方式も検討中である。100GPa領域を念頭におく場合には、前段の方式では圧力発生に限界があるためである。問題は,試料充填率の著しい低下による、信号強度の著しい減少が予想される点にある。観測対象は限定されるが、この方式は将来のメガバール領域のNMR実験に道を開くものと考えている。 -
磁性金属の圧力下超伝導性の探索
研究課題/領域番号:11304022 1999年 - 2001年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(A)
天谷 喜一, 那須 三郎, 小林 達生, 清水 克哉, 鈴木 直
配分額:36910000円 ( 直接経費:36700000円 、 間接経費:210000円 )
本研究成果の概要を以下に列挙する。
1.30mKに至る低温と200GPaに至る高圧を組み合わせた複合極限条件を達成、かつ電気的・磁気的・光学的測定技術の開発に成功した。
2.圧力下非磁性状態における鉄の超伝導性の探索を以下の様に行った。
a.超高真空中加熱により試料鉄の純化を行った。
b.純良化鉄をNaCl媒体中でダイヤモンドアンビルセル(DAC)により加圧した。
c.電気抵抗及び磁化の測定を昇圧・降圧の過程で行った。
3.超伝導性発現は電気抵抗減少により発見、次いでマイスナー効果の検出により確認した。超伝導性は15GPaにおける強磁性bcc相より非磁性hcp相への転移の後に出現、30GPaで消失した。
転移点Tc及び臨界磁場値Hcの最大値はそれぞれ2K及び2000Oeであった。
4.メスバウア効果測定を低温強磁場下で行い、hcp相の鉄は伝導電子常磁性であり、鉄原子は磁気モーメントをもたないことを確認した。一方第一原理バンド計算を行った。転移点Tcを見積ったが100GPaの高圧下で最大0.5Kであった。超伝導探索鉄以外に反強磁性マンガンに対してもTn消去圧力が9GPaであることを見出し超伝導探索実験を行ったが未だ発見には至ってない。その他強磁性UGe_2について、強磁性相内の超伝導圧力温度相図の詳細を、電気抵抗及び熱容量測定により決定した。 -
多元環境下の強相関電子相
研究課題/領域番号:10CE2004 1998年 - 2002年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 特別推進研究(COE)
三宅 和正, 菅 滋正, 大貫 惇睦, 北岡 良雄, 清水 克哉, 伊藤 正, 小林 達生, 天谷 喜一, 冷水 佐壽
配分額:1126000000円 ( 直接経費:1075000000円 、 間接経費:51000000円 )
「電子相関』をキーワードとしつつ、1)強相関電子物性、2)閉じ込め電子相関相、3)超高圧電子相、の三つのテーマについて、以下のような成果を得た。
1)強相関電子物性グループ(三宅、北岡、大貫、菅)
臨界価数ゆらぎによる斥力起源の新しい超伝導機構の発見、UGe_2、UPd_2Al_3、PrOs_4Sb_<12>、(TMTSF)_2PF_G、CeCu_2Si_2やCeRhIn_5での反強磁性との共存相、などにおける新しいタイプの超伝導機構の提唱。(三宅) NMR/NQR実験手法により、固体電子系では最初の「スピン三重項超伝導』の発見、高温超伝導体における自己誘起量子化磁束状態での「d波超伝導と強磁性との共存』の確立。(北岡) 50種類をこえる希土類・ウラン化合物の純良単結晶を育成による磁性とフェルミ面の性質の解明。(大貫) 軟X線領域で高いエネルギーと角度分解能でバルク敏感な光電子分光に世界で初めて成功し、これまでの低いhνで表面敏感だった4f希土類系電子系や3dや4d遷移金属化合物の光電子分光結果を見直すきっかけを与えた。(菅)
2)閉じ込め電子相関相グループ(伊藤、張、冷水、小野、小川、野末)
強弱両閉込め極限で半導体ナノ構造の励起子エネルギーや寿命の励起子数依存性を調べ、閉込め電子系の相関現象と非線形光学現象との関係を解明、光子相関系の光子ド・ブロイ波長の概念を実証。(伊藤) 物質の光学応答に関する新しい理論の枠組みを「微視的・非局所理論」として高度に展開し、ナノ物質等におけるさまざまな線形・非線型過程に応用し、基礎的な光学応答理論としての微視的非局所理論の地位を確立。(張) (775)B GaAs基板上に0.85μm帯In_<0.1>Ga$_<0.9>As/(GaAs)_6(AIAs)_1自然形成型量子細線レーザ構造をMBE成長し、室温発振を達成、世界で最も均一性の高い(221)AIn_<0.22>Ga_<0.78>As/GaAs自然形成型量子細線(ホトルミネッセンスの半値幅5.8meV)の作製。(冷水) マンガン酸化物へのスピン注入による電気抵坑制御、トンネル接合を用いた超伝導体へのスピン注入効果、スピン偏極電流による強磁性細線中の単一磁壁の電流駆動等の観測。(小野)「光誘起相転移」の理論的研究を行い,電子(-正孔)系の光励起非平衡状態での相分離ダイナミクス,古典および量子秩序の形成過程,線形・非線型光学応答における量子多体効果を解明。(小川) 整数・分数量子ホール系でのエッジ状態による非局所性量子伝導の空間分布と閉込めポテンシャルの関係の解明、配列アルカリ金属クラスターの強磁性発現への相関s電子系の軌道縮退効果の重要性を解明。(野末)
3)超高圧電子相グループ(鈴木、那須、清水、小林)
固体酸素の圧力誘起絶縁体・金属転移がバンドオーバーラップで起こることを初めて示した。(鈴木) 高圧下メスバウアー分光測定により、金属鉄高圧相であるε-Feの磁性を解明。(那須)極低温・超高圧複合極限の生成と物性測定技術開発、酸素、鉄、リチウムの元素の他、有機分子結晶やイオン結晶など単純な典型物質についても圧力下の超伝導性の発見。(清水) 新たに開発した高圧セルを用い、種々のf電子系化合物について、圧力誘起磁性-非磁性転移,超伝導,電荷秩序に関する研究を展開、強磁性超伝導体UGe_2の超伝導転移での比熱異常の観測に初めて成功。(小林) -
静水圧性の良い20GPa級圧力セルを用いた圧力誘起超伝導体の探索
研究課題/領域番号:09740281 1997年 - 1998年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 奨励研究(A)
小林 達生
配分額:2200000円 ( 直接経費:2200000円 )
1. ダイヤモンドアンビルセル(DAC)で液体媒体を用いることにより、高静水圧下での電気抵抗測定を行うことに成功した。DACは数百万気圧に及ぶ超高圧発生が可能なデバイスで、この度液体媒体を用いた電気抵抗測定技術を確立したことにより、本研究のテーマである20万気圧を超える圧力までの高い静水圧下での圧力誘起超伝導の探索が行えるようになった。この技術では穴のあいた絶縁ガスケットの開発、マイクロマニピュレーターを用いた融着法による微小試料への電極付けの開発が行われた。
この技術を用いて、CeRh_2Si_2の圧力誘起超伝導の探索を行った。1.2GPaで超伝導と思われる電気抵抗の落ち(Tc〜0.6K)を観測したが零抵抗は観測されなかった。この超伝導が本質的であるかどうかは、今後の試料依存性の研究が必要である。重い電子系CeCu_6、CeB_6についても実験を行ったが、未だ超伝導は観測されていない。
2. 前年度開発した5GPa級インデンター型高圧セルを用いて、交流帯磁率測定によるPbのマイスナー効果の測定を行い、低温で5GPaの発生圧力を記録した。Pbは圧力決定物質として用いられる。またTiの超伝導転移(Tc〜0.39K)を確認し、極低温での使用が可能であることがわかった。これを用いて現在CeIn_3の圧力誘起超伝導の探索を行っている。
3. 3GPa級非磁性ピストン-シリンダー型高圧セルについては電極の試料空間への導入が困難であり、まだ実用化には至っていない。予備実験としてはこの高圧セルを用いたNMR測定を常圧下で行いスペクトルに大きな変化がないことを確認した。 -
重い電子系の超伝導に関する極限条件下の物性測定
研究課題/領域番号:08223221 1996年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 重点領域研究
天谷 喜一, 石塚 守, 小林 達生
配分額:1800000円 ( 直接経費:1800000円 )
我々のグループでは、ダイヤモンドアンビルセルを用いた超高圧(20GPa)・極低温(50mK)下での電気抵抗・磁気測定の強相関電子系への適応を検討してきた。現状では予測される圧力の一軸性、分布のためにゼロ抵抗の観測には至っていないが、常伝導状態の電気抵抗およびTcの磁場変化の実験に成功した。今までに得られた結果は以下の通りである。
CeCu_2Si_2でみられる高圧下でのTcの上昇とCeCu_2Ge_2のTcの圧力変化)
1.CeCu_2Ge_2においてもP>16.5GPaの高圧下でTcの増大を観測した。
2.Hc-Tc相図はCeCu_2Si_2,CeCu_2Ge_2それぞれの2つの超伝導相で類似している。すなわち重い電子系の超伝導の特徴を示している。
3.超伝導相図のH=0近傍の立ち上がり(-dH_<C2>/dT)は、常伝導状態の電気抵抗から見積もられる有効質量の変化とTcの変化で説明できる。
CeRu_2Ge_2における圧力誘起超伝導の探索)
1.P=10GPa近傍を境界にして、低圧側では長距離秩序状態、高圧側ではフェルミ液体状態を反映した電気抵抗が観測された。
2.P<15GPa、T>50mKの温度・圧力領域で超伝導は観測されなかった。
3.5GPa<P<10GPaの圧力領域(長距離秩序状態)で比較的低磁場(H<4T)で減少する電気抵抗の磁場変化が観測された。これは秩序状態が強い強磁性相関をもっていることを反映しており、このために超伝導が出現しないと考えている。
4.P=9GPa近傍でCeRu_2Si_2に類似した電気抵抗の温度変化が観測されたが、磁場変化ではメタマグによる異常は観測されなかった。 -
一次元細孔に吸着した酸素分子の磁性の^<17>O-NMRによる研究
研究課題/領域番号:08740281 1996年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 奨励研究(A)
小林 達生
配分額:1100000円 ( 直接経費:1100000円 )
今年度スペクトロメーターの整備が遅れたためにNMR測定は行えなかった。予備実験として、今年度までに一次元細孔を有する次の二つの物質に物理吸着した酸素分子の磁気測定、比熱測定を行った。
1.Cu trans-1,4-cyclohexanedicarboxylic acid
低吸着量で帯磁率は30K近傍にショットキー型のピークを示す。磁化過程はH=35Tを臨界磁場とする一段のメタマグ的転移後2μ_B/O_2に飽和する。これらの結果はS=1/2反強磁性ダイマーモデルで説明でき、一重項酸素の出現を示唆すると考えている。双方から求められるg-は値はそれぞれg=2.4、g=2.0と大きく食い違っているが、吸着状態が温度変化し高温では通常の三重項状態が支配的になると考えている。吸着量を大きくするとダイマーモデルからのズレがみられるが、ダイマー間の相互作用か吸着状態のランダムネスによるものと考えている。比熱測定では異常に大きな磁気比熱が観測された。一重項酸素の出現に関連しているのかもしれない。
この異常な吸着状態を明らかにするために、NMRを行い微視的に酸素の磁性状態を研究することはたいへん興味深く今後精力的に行う予定である。
2.ゼオライト(ZSM-23)
磁化過程の測定では一次元反強磁性体に特徴的な直線的変化が得られているが、S=1の系で期待されるHaldaneギャップは観測されていない。帯磁率の温度変化では30K近傍にわずかな折れ曲がりが観測されるが低温領域での常磁性的な増大が大きく、その温度依存性を議論するには至っていない。比熱は期待される短距離秩序を示すブロードなピークが観測された。
それらの結果は1.の系と大きく異なり通常の三重項酸素状態で説明できるものである。この系ではゼオライトの陽イオンがランダムに存在しているため酸素が一様な鎖を形成せず、相互作用がランダムに分布していると考えている。 -
超高圧下の固体水素
研究課題/領域番号:07404018 1995年 - 1998年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(A)
天谷 喜一, 宮城 宏, 石塚 守, 小林 達生, 遠藤 将一
配分額:29600000円 ( 直接経費:29600000円 )
Mbar(メガバール,百万気圧)を超える超高圧下では低圧下で絶縁体である固体水素も電気伝導性を示すと期待される。我々はこの金属化を従来の間接的な光学的測定ではなく、より直接的な電気抵抗測定により験証することを目的に研究を行ってきた。まずMbar域超高圧発生とその下での電気的磁気的測定技術の開発を行った。具体的には超高圧発生用DAC(ダイヤモンドアンビル)の開発及び直径30μmのダイヤモンド圧力発生面上で電気抵抗測定用5μm幅の極微細電極を作成、1辺約10μm立方の固体水素試料の抵抗測定の準備が整った。圧力値も最高値2.25Mbarを達成、その圧力下での電気抵抗測定としては世界最高記録を打ち立てた。
次いで、上記技術的成果を背景に、アルカリ土類金属CaをはじめとしてVIb族元素であるイオウ(S)や酸素(O_2)、更にはイオン結晶(CsI)、有機分子結晶(C_6I_4O_2)等、次々と圧力誘起による金属化に次ぐ低温下超伝導性の発見を行って来た。これらの研究遂行上の過程で、水素の金属化圧も当初の予想の1.5Mbarから2.5Mbarと修正され、現在では3.4Mbarの超高圧下でも尚、光学的に透明であり、電気的にも絶縁的であると報告されるに至っている。又、我々の理論グループ(宮城ら)の研究においても水素の分子解離が量子効果を取り込んだ結果でも4Mbarを超えると評価されるに至って我々の研究計画も大幅に修正を受け、今後さらなる超高圧発生が必須となった。しかし、現在、金属水素は、現在の我々の到達可能な圧力域である2Mbarから3Mbarの間でも1000℃〜1500℃の高温下では実現可能であると期待している。その目的に向けて現在水素の圧力封じを開始し、加圧を始めた。結果は封じ込めそのものには成功しているが、試料周辺の金属への拡散等により、試料穴の水素を安定に封じ込めることには未だ成功してはいない。上述のように金属水素験証には幾つかの困難があるものの、実験的技術は日々、進歩しつつあり近い将来において解決されると期待され、その期待がまさに本成果から得られたと信じている。 -
重い電子系の超伝導に関する極限条件下の物性測定
研究課題/領域番号:07233215 1995年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 重点領域研究
天谷 喜一, 石塚 守, 小林 達生
配分額:2300000円 ( 直接経費:2300000円 )
1.多重極限下の熱測定
純良単結晶UPt_3の熱測定から超伝導状態の温度-磁場-圧力相図を作成するために、今年度は常圧下での磁場-温度相図の作成、高圧セルの検討を行った。常圧下での比熱測定(温度変化)、磁気熱良効果の測定(磁場変化)から得られた磁場-温度相図は特徴的な三つの超伝導相からなり、すでに報告されている結果と良い一致が得られた。高圧下での測定では測定精度を上げる必要があるため、UPt_3単結晶用に小型の高圧セルを作成し現在圧力発生を行っている段階である。
2.超高圧下における物性測定
ダイヤモンドアンビルセルを用いた電気抵抗測定、磁気測定を行いCePd_2Si_2等のCe122系の超伝導の探索を行った。今年度は、常圧下では磁気秩序を示すCePd_2Si_2およびCeRH_2Si_2の圧力誘起超伝導(Pd:Tc=0.2K,P=3.5GPa,Rh: Tc=0.4K,P=1.3GPa)を観測することに成功した。またCeCu_2Ge_2では高圧下で誘起される超伝導(Tc=0.7K)のTcがさらに高圧下で上昇する傾向(Tc=1.4K,P>17GPa)が観測され、CeCu_2Si_2の高圧下でのTcの上昇と同様の振る舞いであると考えている。現在、静水圧性の良い圧力下でのマイスナー効果の測定を行い確認を急いでいる。またこれらの超伝導状態の臨界磁場の測定を行うべく超伝導磁石(14T)用の稀釈冷凍機、DACの製作を行っている。 -
一次元酸素分子の磁性
研究課題/領域番号:07740296 1995年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 奨励研究(A)
小林 達生
配分額:800000円 ( 直接経費:800000円 )
一次元細孔を有する次の二つの物質に物理吸着させた酸素分子の磁気測定を行った。
1.Cu trans-1,4-cyclohexanedicarboxylic acid
帯磁率の温度変化では30K近傍のSchottky型のピークとそれ以下の低温域におけるCurie則的増大が観測された。後者を孤立酸素分子の寄与として差し引いた残りはS=1/2反強磁性ダイマーモデルにフィットさせることが出来た。パルス強磁場を用いた磁化過程の測定(T=1.3K)では、H=35Tを臨界磁場とする一段のメタマグ的転移後2μ_B/O_2を飽和値とする磁化が観測された。この結果は上記S=1/2ダイマーモデルを支持する結果である。以上は低吸着量においてみられ、吸着量を大きくするとダイマーモデルからのズレがみられるがS=1一次元反強磁性体やS=1ダイマーとは明らかに異なる結果である。これらの結果について物理的解釈には至っていないが、吸着した酸素分子のS=1状態の不安定性を示唆していると考えられる。
2.ゼオライト(ZSM-23)
45Tまでの磁化過程の測定では一次元反強磁性体に特徴的な直線的変化が得られているが、10T以下の低磁場領域で大きな常磁性的振る舞いが観測されており、S=1の系で期待されるHaldaneギャップは観測されていない。帯磁率の温度変化では30K近傍にわずかな折れ曲がりが観測されるが低温領域での常磁性的な増大が大きく、その温度依存性を議論するには至っていない。一次元系の短距離秩序を反映した比熱を観測するために現在比熱測定を準備中である。 -
ハルデンギャップ反強磁性体の^<15>N-NMRによる研究
研究課題/領域番号:06740291 1994年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 奨励研究(A)
小林 達生
配分額:900000円 ( 直接経費:900000円 )
1.ハルデンギャップ反強磁性体(CH_3)_4NNi(NO_2)_3(TMNIN)において、Ni^<2+>(S=1)チェーンのNO_2-ボンドのN核を100%^<15>N核で置換した粉末試料の作成を行った。
2.同時に、TMNIN試料の単結晶化を行った。1×0.1×0.1mm^3程度の大きさの単結晶作成には成功したが、現時点ではNMR測定は不可能である。より大型の単結晶試料作成を、継続して試みている。
3.H〜10Tの磁場中、測定温度T〜1.3K,4.2Kで、^<15>N核(I=1/2,γ=0.43143kHz/G)のNMRシグナルは観測できなかった。このとき、チェーン間に存在するテトラメチルアンモニウムイオン中の^<14>N核(I=1,γ=0.30752kHz/G)のNMRシグナルは良い感度で観測されており、チェーンサイトの^<15>N核はスピン-格子緩和時間T_1が短いため観測されないと考えている。TMNINの場合、臨界磁場H_c〜3T以上の磁場中ではギャップレス状態であるといわれている。そこではNiスピンのゆらぎが大きく、大きな超微細相互作用をもつと思われるNO_2ボンドの^<15>N核のT_1は非常に短くなっていると考えられる。この場合、H_c以下ではギャップ状態であるため観測される可能性があり、現在実験を進行中である。 -
有機分子の磁気的相転移の研究
研究課題/領域番号:06218215 1994年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 重点領域研究
天谷 喜一, 長谷田 泰一郎, 蒲池 幹治, 石塚 守, 小林 達生
配分額:1700000円 ( 直接経費:1700000円 )
1.ラジカルを有する有機分子磁性体
本研究では、ニトロキシルラジカルを有するメタクリル酸エステル(MOTMP)及びアクリル酸エステル(AOTMP及びMATMP)及びフェルダジルラジカルを有するp-CDTV、更にはVO^<2+>上の電子が磁性を担う高分子TPPPの磁気相転移を磁気的、熱的測定により調べた。
2.p-CDTVその他
NOラジカル以外のラジカルが磁性を担う、かつ強磁性的であるという点で注目されたp-CDTVについて、0.6K近傍で強磁性特有の磁化ヒステレシスを観測した。しかし、交流法磁化率による磁化過程では反強磁性的なスピンフロッピングがあらわれ、現在、結果を解析中である。
又、TPPPにおいては強磁性的キュリーワイス温度が45Kという高温で、その機構に興味があるが、30mkの極低温に至るまで磁気的長距離秩序は見出されず、今後の課題となった。 -
分子性結晶の圧力誘起相転移の研究
研究課題/領域番号:05452057 1993年 - 1994年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 一般研究(B)
天谷 喜一, 遠藤 将一, 石塚 守, 小林 達生
配分額:6800000円 ( 直接経費:6800000円 )
平成6年度研究計画に沿って、以下の研究実績を得た。
1.100万気圧級の圧力発生用セルの開発
ダイヤモンドアンビルセルの圧力発生面に傾斜角(ベベル角)をもたせる事で100万気圧を0.1K以下の超低温で発生する事に成功した。
2.固体ヨウ素の最高圧相における超伝導転移
最高圧における立方晶固体ヨウ素の超伝導転移は圧力増加と共に転移温度は上昇する事が確認された。圧力効果は転移温度の減少とする理論と矛盾する結果となった。
3.固体臭素の圧力誘起超伝導の観測
圧力下固体臭素も80万気圧を超えると分子解離を起し、単原子金属となり、超伝導性が期待される。実験では、90万気圧で超伝導のオンセットが0.2近傍でみられ、100万気圧下で1Kより抵抗減少が見られた.
4.固体酸素
圧力下固体酸素の顕微鏡による直接観測を行い、固化、結晶下、圧力下不透明化等の観測を行なった。現在分光分析の実験を進めつゝある。70万気圧下までは金属反射は見られない。 -
有機分子の磁気的相転移の研究
研究課題/領域番号:05226219 1993年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 重点領域研究
天谷 喜一, 蒲池 幹治, 長谷田 泰一郎, 石塚 守, 小林 達生
配分額:1700000円 ( 直接経費:1700000円 )
本研究の目的は、単純な構造をもつ有機分子結晶を対象に磁気測定を行い磁性の詳細、とりわけ磁気相転移、異方性、秩序状態、スピン構造等を解明する事である。
研究成果
MOTMP及びMATMPは、NOラジカルが磁性を担う有機分子結晶で天々正のワイス温度をもつ磁性体である。50mKの極低温に至る磁化率磁化の測定を行った結果は、一次元強磁性体としての高温域のふるまいがT_N=0.15Kにおいて反強磁的な3次元的長距離秩序状態に転移する事がわかった。T_N以下の温度で、良質の自作単結晶を用いた磁化過程の観測結果から容易軸型反強磁性体の特徴であるスピンフリップ転移が発見された。磁気的異方性の起源を双極子相互作用に求めた理論的解析が実験をよく説明することから、スピン構造のモデルを提出するに至っている。唯MOTMPとMATMPは鎖間相互作用に違いがあり、その事と関連してMATMPではMOTMPにみられない弱い強磁性効果が見られたが現在解明中である。
現在、3次元強磁性体を示す物質を探索中であるが、最近P-CDTVにおいて0.6K及び0.7Kにおいて強磁性的遂次相転移を見出している。未だスピン構造決定には至っていないが、強磁性を示す新しいラジカルとして注目に値すると考えている。以上の様に新試料の開発・単結晶作成に成果を挙げる一方で、転移の圧力効果をねらった特製の圧力容器とクライオスタットも製作中である。 -
ハルデンギャップ反強磁性体NENPの^<14>N-NMRによる研究
研究課題/領域番号:05740229 1993年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 奨励研究(A)
小林 達生
配分額:1000000円 ( 直接経費:1000000円 )
今年度、NENPにおける^<14>N-NMRのスペクトルについて3〜12Tの磁場、1.3〜40Kの温度領域における実験を行った。その結果を以下に示す。
1.測定したすべての磁場/温度領域において四重極分裂(I=1)した3組のシグナルが観測された。当初、エチレンジアミン分子中とNO_2イオン内のN核について2サイトからのシグナルが観測されることを予測したが、結晶の低対称性を反映してエチレンジアミン中のN核についてもシグナルが2つに分離して観測されることが分かった。
2.それらのシグナルの磁場変化、温度変化は一様帯確率だけでは説明されず、スタッガードモーメントの出現を支持している。
3.^<14>N-NMRのスペクトルのシフトはNi^<2+>サイトに局在モーメントとN核との磁気双極子相互作用だけでは説明できず、NサイトにトランスファーしたNi^<2+>モーメントとN核の磁気双極子相互作用が支配的であると考えられる。
4.現時点では、有機物質特有の結晶の低対称性(1)や異方的相互作用(2)からくる解析の難しさのために、スペクトルの総合的理解には成功していない。今後、NENPより結晶の対称性の良いNINOにおける^<14>N-NMRを行いNENPと比較検討する予定である。
さらにTMNINの粉末試料を用いた^1H-NMRを行った。スタッガードモメントの出現を示す低温強磁場中でのラインの広がりは観測されなかった。またこの試料において^<14>N-NMRを試みたが四重極分裂(I=1)のためシグナルは観測されなかった。今後、^<14>N核を^<15>N核(I=1/2)で置き換えた試料における^<15>N-NMRを試みる予定である。