共同研究・競争的資金等の研究 - 吉村 浩司
-
一次宇宙線(陽子・ヘリウム)の精密測定による大気ニュートリノ絶対強度の決定
研究課題/領域番号:12047227 2000年 - 2003年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 特定領域研究 特定領域研究
吉田 哲也, 槇田 康博, 吉村 浩司, 三井 清美, 笠原 克昌, 山本 明
配分額:166800000円 ( 直接経費:166800000円 )
平成14年度に実施したBESS気球搭載型超伝導スペクトロメータを用いた宇宙粒子線観測気球実験のデータ解析を進め、1〜540GeVの広いエネルギー領域にわたる一次宇宙線(陽子・ヘリウム)エネルギースペクトルを10%以下の精度で決定した。
平成14年8月に実施された気球実験では気球運用のトラブルから観測時間が予定より短く、また平成15年度の気球実験はNASAの科学観測用大型気球のトラブルの頻発による使用許可取り消しのため実施できなかった。そこで測定器性能の理解を徹底的に深めて平成14年に得られたデータを最大限生かし、初期の目標をほぼ達成するエネルギー領域と精度でエネルギースペクトルを決定できた。
データ解析にあたっては、PCコンプレックスとSANEデータストレージシステムを組み合わせた新しいデータ解析用計算機システムを構築し、フライトデータから信頼できる測定器較正パラメタを導出し、またシミュレーションデータの生成に利用した。
BESS測定器についても地上での観測における高エネルギー領域での粒子識別性能を向上させるため、シリカエアロジェルカウンタの改良を進めた。飛跡検出器読出し用電子回路も10ビット精度のフラッシュADCシステムを構築し、運動量分解能の一層の改善を図った。また超伝導マグネットの運用に必要な機器を更新し、地上観測において効率的に超伝導ソレノイドを運用できるように改善した。
これらの成果は平成15年8月に開催された国際宇宙線会議(ICRC2003)や「第5回ニュートリノ振動とその起源ワークショップ(NOON2004)」、日本物理学会等で報告された。 -
超伝導スペクトロメータによる宇宙起源反物質の精密探査
研究課題/領域番号:11440085 1999年 - 2001年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(B) 基盤研究(B)
吉田 哲也, 吉村 浩司, 槇田 康博, 山本 明
配分額:11900000円 ( 直接経費:11900000円 )
BESS超伝導スペクトロメータを用いた宇宙粒子線観測気球実験を実施し、1次宇宙線中の宇宙起源反物質の探索を行った。平成11年度から13年度まで各々1回の気球実験をカナダ・マニトバ州リンレークもしくは米国ニューメキシコ州フォートサムナーで行った。収集したデータから1次宇宙線中の反ヘリウム核の探索を行ったが、反ヘリウム核事象は見つからなかった。この結果をこれまでのBESS実験で得られた結果と合わせて1次宇宙線中の反ヘリウム核のヘリウム核に対する存在比の上限値として6.8×10^<-7>を与えた。この値は飛翔体を用いたこれまで世界で行われた宇宙起源反物質探索の中で最も厳しい上限値であり、我々の銀河の近傍が物質で形作られている直接的な証拠である。
またこれまでのBESS実験に比べて10倍以上高感度で宇宙起源反物質を探索することを目指した長時間宇宙線観測気球実験のための測定器R&Dと搭載器の製作を進めた。長時間気球実験の実施に不可欠な(1)着水時や緊急着地時に備えた超伝導マグネットの安全対策、(2)測定器の健全性を確保するための多点・分散型環境モニタシステムの開発、(3)長時間気球実験用軽量・低物質量飛跡検出器(ドリフトチェンバ)の製作が本研究で進められ、一部は実際に気球実験に搭載され所定の性能を得られたことが確かめられた。
これらの成果をもとに第7回BESSワークショップなどを通じて南極周回科学観測気球による10〜20日間程度の宇宙粒子線観測実験の検討を進め、この「BESS-Polar」実験に用いる新しい超伝導スペクトロメータの開発を進め、平成15年12月から16年1月にかけて第1回南極周回・長時間宇宙粒子線観測実験を実施できるよう準備を進めている。 -
BESS超伝導スペクトロメータによる宇宙線反陽子の起源の探索
研究課題/領域番号:11694104 1999年 - 2000年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(A) 基盤研究(A)
吉田 哲也, 槇田 康博, 吉村 浩司, 山本 明, 野崎 光昭, 佐貫 智行, 折戸 周治
配分額:13400000円 ( 直接経費:13400000円 )
気球搭載型超伝導スペクトロメータ(BESS)を用いて地磁気限界硬度の小さなカナダ北部において宇宙粒子線観測気球実験を実施し、太陽活動が極大に達する時期での各種一次粒子宇宙線のエネルギースペクトラムを観測した。宇宙線観測気球実験は平成11年8月11日及び平成12年8月10日の2回カナダ・マニトバ州リンレークにて実施された。気球高度約37kmでの高空でそれぞれ34時間、35時間のデータ収集が行われた。これらの観測時間は平成10年度までの実験の1.5倍以上であり高精度観測を実施でき、特にこの2年間だけで1000例を超える宇宙線反陽子事象を捉えた。
この太陽活動極大期における観測によって、今後宇宙起源反陽子の存否を探索していくにあたって、その観測の規準となる二次起源反陽子のエネルギースペクトラムを正確に知るのに不可欠な宇宙線に対する太陽活動影響の電荷依存性を明確に観測した。また一次宇宙線中の反ヘリウム核の探索を進め、世界で最も厳しいヘリウム核に対する存在比の上限値7×10^<-7>を得た。同時に一次宇宙線陽子・ヘリウム成分の精密なエネルギースペクトラムを測定し、特に1GeV以下の低エネルギー領域での統計量を測定器の改良によって改善し、気球上昇中のデータを用いて宇宙線の大気発展モデルの検証を行った。また同じく気球上昇中のデータから二次宇宙線μ粒子成分のエネルギースペクトラムの残留大気圧依存性を観測した。
さらにこれまでのBESS実験で得られた成果を吟味し、将来の方向性を議論するために第7回BESSワークショップを開催し、これまでのBESS実験に比べて一桁以上高感度の宇宙起源反陽子探索を目的とした、極地における長時間気球実験の実施を目指していくことが国内外の研究分担者・協力者により検討された。 -
超伝導スペクトロメーターによる宇宙線反粒子の精密探査
研究課題/領域番号:08044102 1996年 - 1997年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 国際学術研究 国際学術研究
山本 明, ORMES Jonath, 吉村 浩司, 折戸 周治, 槙田 康博, 吉田 哲也, KIMBELL Barb
配分額:6500000円 ( 直接経費:6500000円 )
超伝導スペクトロメーターによる宇宙線反粒子の精密探査は、日米間の国際共同気球実験として平成5年度に第一期の計画がスタートして以来、平成8年度まで1.2GeV以下の運動エネルギー領域において40イベントを越す質量同定を含む宇宙線反陽子のスペクトルの観測に成功した。今年度は一層の測定器の性能向上を図り、さらに高エネルギー領域までカバーした宇宙線反陽子スペクトルの精密決定を目指し、実験を推進した。これによって、その宇宙線反陽子の起源として標準的な宇宙線伝播モデルによる二次粒子によるものであるか、または暗黒物質の候補とされている超対称粒子の対消滅または原始ブラックホールの蒸発等により生成される可能性を示唆するものであるかを見極める事を目標とした。
気球飛翔実験はこれまでと同様、カナダ・マニトバ州北部・リンレークにて行なわれ、1ケ月余りの現地での準備期間を経て、7月27日にスペクトロメーターの打ち上げに成功した。機器はすべて順調に作動し、目標を上回る観測に成功した。また実験機器データも無事回収され、解析が精力的に進められている。予備的な結果として、すでに300イベントを超える反陽子が検出されている。これまでの観測精度を1ケタ上回る宇宙線反陽子スペクトルの精密観測結果となり、宇宙線反陽子の起源についてより一層の解明が期待される。この結果は、今夏予定されている宇宙線国際会議で公表される予定である。 -
電子陽電子衝突装置LEP及びLEP-IIでのOPAL測定器による素粒子の研究
研究課題/領域番号:06044046 1994年 - 1996年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 国際学術研究 国際学術研究
小林 富雄, HEUER Ralf D, 大森 恒彦, 神前 純一, 吉村 浩司, 森井 政宏, 森 俊則, 真下 哲郎, 川本 辰男, 駒宮 幸男, 折戸 周治, ROLF DieterH, HEUER Rolf D, 萩原 薫, 佐々木 真人, ALDO Micheli, ROLF Dieter, 塚本 俊夫, 川越 清以, 竹下 徹, 武田 廣
配分額:31300000円 ( 直接経費:31300000円 )
CERN(欧州素粒子研究機構,在ジュネ-ブ)は、21世紀初頭まで素粒子物理学のエネルギーフロンティアをになう加速器として、世界最大かつ最高エネルギーの電子陽電子衝突装置LEPを建設した。東京大学素粒子物理国際研究センターを中心とするグループは、このLEPを用いた国際共同実験OPALにおいて、常に主導的な役割を果たしてきている。OPAL実験の提案および、その設計に重要な貢献をし、測定器の最重要構成要素の一つである電磁カロリメタの開発、建設をおこない、その運転、保守、改良を続けている。また、実験開始以来、大型計算機やワークステーションを用いて多量のデータを精力的に解析し、物理研究の最前線において活躍を続けている。
LEPは平成元年の運転開始から平成7年までは、電子陽電子の衝突エネルギーをZ^O粒子(弱い相互作用を媒介する質量約910億電子ボルトの中性粒子)の質量付近に合わせてZ^O粒子を大量に生成し、その生成、崩壊を詳細に観測することにより、素粒子相互作用の標準理論をLEP以前に比べて圧倒的な精度で検証し、また、素粒子の世代数が3であることを初めて決定するなど、この数年間の素粒子物理の進歩に重要な貢献をしてきた。平成7年後半からはLEPのエネルギー増強計画LEP2が開始され、平成8年には、W粒子(弱い相互作用を媒介する質量約800億電子ボルトの荷電粒子)を対生成できるエネルギーに到達し、歴史上初めて電子陽電子衝突実験でW粒子を直接詳細に観測できるようになった。これにより、標準理論を新しい角度から検証し、また、今までの約2倍の衝突エネルギーで実験を行なうことにより新しい粒子や現象が見えてくる可能性が開けた。
本科学研究費補助金(国際学術)の当該年度のうち、平成6年度と7年度にOPALは約270万のZ^O崩壊事象を記録した。実験開始から積算すると約500万のZ^O崩壊事象を記録したことになる。この大量のデータから得られた最近の主な成果を以下に示す。
(1)Z^Oの諸性質(質量、全崩壊幅、レプトン対およびクォーク対への部分崩壊幅、前後方非対称度、タウ-レプトンの偏極度など)のより精密な測定を行ない、電弱標準理論の精密な検証をおこなった。また、その結果から標準理論を使って、トップクォークの質量を正確に推定した。トップクォークは最近、米国テバトロン加速器により発見され予言どおりの質量であることが確認された。同様にW粒子の質量も正確に算出することができる。これをLEP2での精密な直接測定と比較することは理論の厳しい検証となる。
(2)Z^Oの崩壊から得られる大量のタウ粒子を使って、新しい手法により、実験的にあまり良く知られてなかったタウ-ニュートリノの質量に新しい制限を得た。
(3)ボトムクォークを含む中間子やバリオンの寿命や中性ボトム中間子の粒子-反粒子振動などを、様々な手法で画期的な精度で測定した。
(4)物質の質量の起源を与えるヒッダス粒子や新粒子の探索を幅広い角度から行なったが、このエネルギーでは発見されなかった。このような新粒子探索は、より高いエネルギーのLEP2に引き継がれた。
平成7年度11月にLEPはZ^Oから離れ、まず衝突エネルギーを約1.5倍に上げて実験を行なった。LEPは、必要な新技術開発を克服し予定通りの強度で電子と陽電子を衝突させることに成功した。東京大学の建設した電磁カロリメタも全カウンタ9440本が高性能を維持しており、OPALのほとんど全ての物理解析に重要な貢献をしている。平成8年度にはLEPは更にエネルギーを上げ、W粒子を対生成できるエネルギーに達した。LEP2でのこれまでの主な成果は以下のとおり。
(1)Wの質量は生成断面積から算出する方法と、検出器で一事象ごとにWの質量を再構成するという2つの独立な方法で測られた。今のところLEP全体でわずか数百のW対生成事象しかないが、他の加速器の実験による今までの結果と同じ程度の測定精度が既に得られた。
(2)標準理論から期待されるさまざまな反応を幅広く測定し、LEP2のエネルギーでも実験結果と理論の予言が良く一致していることを確かめた。標準理論を越える新物理から予想される僅かなずれと比較することでこれらに対する新しい知見が得られた。
(3)これまでの探索の結果、ヒッグス粒子はその質量が688億電子ボルトより重い事がわかった。また、超対称性粒子の探索も引つづきおこなわれ、超対称性理論のパラメーターに更に厳しい制限を与えた。また、これらの結果をもちいてグルイ-ノの質量にたいしても他の実験で得られたものより厳しい制限を与えることができた。
以上をはじめとする数多くの成果は逐次国際会議等で報告され、既に学術専門誌に発表されたか、または発表が決定している。現時点では、今までに収集したデータの解析及び来年度からの更に高いエネルギーでの実験準備を精力的に行なっている。Wの質量の精度を約5倍上げる等、測定精度を格段に上げることのみならず、いよいよヒッグス粒子や超対称性粒子が発見される可能性の高い領域であり、数多くの研究成果が期待されている