共同研究・競争的資金等の研究 - 中越 英樹
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過剰栄養シグナルが精子運動性低下を招くメカニズムの解明
研究課題/領域番号:22K06334 2022年04月 - 2025年03月
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(C)
中越 英樹
配分額:4160000円 ( 直接経費:3200000円 、 間接経費:960000円 )
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過剰栄養 (肥満) による妊性低下機構の解明
研究課題/領域番号:18K06351 2018年04月 - 2022年03月
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(C) 基盤研究(C)
中越 英樹
配分額:4290000円 ( 直接経費:3300000円 、 間接経費:990000円 )
キイロショウジョウバエのオス生殖器官 (附属腺) で合成される附属腺タンパク質 (Accessory gland proteins; Acps) は精液中に分泌され,交尾・射精によってメス子宮内に移行して,メスにさまざまな交尾後応答 (産卵,交尾拒否など) を引き起こす.附属腺は二種類の細胞 (~1,000 個の主細胞,~60個の第二細胞) から構成されており,交尾後応答の主要な作用を担うAcp70A (別名 sex peptide; SP) は主細胞で合成される.附属腺における dve 遺伝子の発現は蛹期から開始するが,成虫期には第二細胞のみで発現が維持され,主細胞での発現は蛹期後期から抑制される.成虫期主細胞においては,Dve タンパク質が恒常的に分解されており,小胞体ストレスを感知することで分解阻害 (脱抑制) が生じ,安定化した Dve がSP 発現を低下させる.
また,成虫期においても Dve を高発現する第二細胞は,発生段階 (蛹期) の栄養環境を感知することで細胞の大きさや数を変化させ,妊性の制御を行っていることを明らかにした (Kubo et al., Genes Cells 2018).この栄養依存的な妊性制御が成虫期においても機能している可能性について検証を行った.温度感受性 GAL80 (GAL80ts) を用いて,蛹期の栄養環境を低下させた後,成虫期は通常の栄養環境で飼育した.羽化後7日目の個体では,第二細胞は依然として縮小したままであったが,羽化後 14 日目以降には正常な大きさに回復した.つまり,第二細胞は,成虫期の栄養環境にも応答して可塑的に妊性を変化させ得ることが明らかとなった. -
オス精液成分による妊性制御の分子機構解析
研究課題/領域番号:15K07159 2015年04月 - 2018年03月
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(C) 基盤研究(C)
中越 英樹
配分額:5070000円 ( 直接経費:3900000円 、 間接経費:1170000円 )
ショウジョウバエのオス生殖器官である附属腺は精液をつくる.栄養環境に応じて生殖能力 (妊性) を制御する際に,附属腺細胞が栄養センサーとして機能している可能性について検討を行った.主細胞 (~1,000 個) と第二細胞 (~60個) のうち,発生期の栄養環境は第二細胞の数・大きさを変化させることで,妊性を最適化していることが明らかとなった.また,栄養環境依存的に遺伝子発現の制御を行う因子として,Dve, Abd-B を同定した.
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消化管の吸収・排泄機能による恒常性維持機構の解析
研究課題/領域番号:23570006 2011年 - 2013年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(C) 基盤研究(C)
中越 英樹
配分額:5330000円 ( 直接経費:4100000円 、 間接経費:1230000円 )
ショウジョウバエのマルピーギ管は哺乳類の腎臓に相当する器官であり,体液中の老廃物を体外に排出して適切なイオンバランスを保っている.ショウジョウバエのホメオドメイン型転写制御因子 Defective proventriculus (Dve) は,マルピーギ管細胞の機能分化,高塩分食などのストレスに対する応答に重要な役割を果たしていることを明らかにした.
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腸管機能獲得に関わる因子の遺伝学的解析
研究課題/領域番号:20570004 2008年 - 2010年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(C) 基盤研究(C)
中越 英樹
配分額:4030000円 ( 直接経費:3100000円 、 間接経費:930000円 )
ショウジョウバエの中腸中央部には銅吸収細胞と間質細胞が交互に存在する領域があり,銅吸収機能と酸分泌機能を担っている。転写制御因子Dveの2種類のアイソフォーム(Dve-A,Dve-B)の発現が,細胞種・時期特異的に極めて厳密に制御されることで,これらの中腸機能の制御に関わることが明らかとなった。また,RhoファミリーGTPaseやV-ATPaseの活性が,細胞種特異的に要求されることも明らかとなった。
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内胚葉系の発生・分化・再生の分子基盤
研究課題/領域番号:17637003 2005年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(C) 基盤研究(C)
菊池 裕, 粂 昭苑, 福田 公子, 横内 裕二, 中越 英樹, 高橋 淑子
配分額:3400000円 ( 直接経費:3400000円 )
本企画調査では,平成18年度に科学研究費補助金特定領域研究を組織するため、6名の研究代表者・分担者による研究会議・国内外の学会における情報収集・外国人研究者との意見交換を行った。
1.研究会議;6・7・8・10月に、特定領域研究申請の為の研究打ち合わせを東京で行った。会議では、申請書の打ち合わせだけでなく内胚葉研究全般に関する情報交換や議論も行い、研究者同士の活発な議論が5〜6時間続けられた。
2.学会における情報収集
発生生物学会;6月、仙台、参加者(全員参加)
国際発生生物学会;9月、オーストラリア・シドニー、参加者(菊池・粂)
分子生物学会;12月、福岡、参加者(菊池・粂・横内・中越・高橋)
発生生物における国内外の代表的な学会に参加し、内胚葉研究の現状と今後の方向性に関し、多くの国内外の研究者と活発な議論を行った。学会の参加により得られた様々な研究情報は、会議で報告し情報の共有化を行った。
3.特定領域研究の申請;平成18年度発足の特定領域研究に「消化器形成の分子基盤」として研究計画書を作成し申請を行った。申請では、4つの研究項目(変異体作製・解析、基本デザイン・多様性、器官形成・細胞分化、再構築系)を設け、総勢16人による研究計画を立案した。
本企画調査で行われた4回の研究会議では、内胚葉研究に関する議論・意見交換が活発に行われ、極めて有益であった。今後はこの会議の話し合いで得られた研究の方向性や共同研究等の実現を目指した活動を続けて行く予定である。 -
脚・触角の分節形成から探る形態形成の協調的制御機構
研究課題/領域番号:16027233 2004年 - 2005年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 特定領域研究 特定領域研究
中越 英樹
配分額:5500000円 ( 直接経費:5500000円 )
ショウジョウバエのdefective proventriculus (dve)遺伝子は,形態形成因子Wingless (Wg), Decapentaplegic (Dpp)に依存して発現するホメオボックス遺伝子である。脚原ににおいてNotchシグナルは同心円状に活性化され,脚原基の増殖および分節化に関与する。蛹期の脚原基喧おいて,Notch活性化領域は脚分節様構造の遠位部側であり,Dveは分節構造をまたいで発現するため,両者は分節構造の遠位部側で部分的な重複を示す。発生の進行に伴ってこの重複部分でのDve発現が抑制されることが,成虫脚分節間をつなぐジョイントと呼ばれる構造を形成するために必要である。この過程において,NotchシグナルとEGFRシグナルの拮抗作用,細胞内平面極性(Planer Cell Polarity ; PCP)によるDve発現の維持も必要とされる。dve変異体やEGFR, PCPシグナル因子の変異体では,異所的なジョイント構造が形成されるが,dve変異モザイククローン内での異所的なNotch活性の上昇は認められなかったことから,dve遺伝子発現の抑制がジョイント形成のための十分条件であるか否かについて検討を行った。ジョイント形成領域におけるNotch活性の阻害によって誘導されるジョイント構造の欠失は,dve変異によって回復することはなかったため,ジョイント形成にはdve発現抑制とは独立にNotch活性が必要とされることが明らかとなった。
触角と脚はともに明確な分節構造を有し,触角が脚に転換する変異体が存在することや遺伝子発現パターンの類似性などから,形成メカニズムの共通性が指摘されている。Dve発現領域は第3節よりも遠位部側で,二重または三重のリング状に発現していた。しかし,この発現は触角形成そのものには必要ではなく,dve変異モザイク個体においては,正常に形成された本来の触角構造の背側に異所触角が鏡像対称に出現した。変異体が同様の表現型を示すIroquois complexとdveとの関連を調べたところ,それぞれの変異体において明確な遺伝子発現の変化は観察されず,両者が独立の経路で協調的に作用しているという可能性が示唆された。 -
視覚認識に関わる神経回路網形成機構の解析
研究課題/領域番号:15029244 2003年 - 2004年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 特定領域研究 特定領域研究
中越 英樹
配分額:5200000円 ( 直接経費:5200000円 )
キイロショウジョウバエの複眼は約800個の個眼から構成され、その中には8種類の光受容細胞(R1-R8)が存在している。これらは受容する光波長の違いや形態的な特徴から次の2つに大別できる。(1)外側光受容細胞(R1-R6)はRhodopsin1(Rh1)を発現することで物体のイメージ形成に必要な波長の光を受容し、神経軸索を脳薄層(ラミナ;lamina)に投射する。(2)内側光受容細胞(R7,R8)は主に色覚情報を与えるとされ、yellow typeはRh4/Rh6(in R7/R8)、pale typeはRh3/Rh5(in R7/R8)を発現し、軸索を脳髄層(メダラ;medulla)に投射する。defective proventriculus(dve)遺伝子は、視覚認識行動異常の原因遺伝子として同定されたホメオドメイン転写因子である。まず、ショウジョウバエ視覚神経系発生の初期(3齢幼虫〜蛹初期)のラミナと、後期(蛹中期〜成虫)の複眼においてDveを発現する細胞を確認した。前者はラミナニューロンの前駆細胞由来でありながら神経細胞には分化せず、また既知のグリア細胞とも一致しないため、これらの細胞群をDPL(Dve-positive cells in lamina)と呼ぶことにした。蛹初期にDPLを除去した成虫個体では成虫ラミナニューロンの数が減少し、DPLが存在するラミナ表層においてBrdUの取り込み活性を蛹期に検出することができた。また、DPLはラディアルグリアと類似の突起を有し、細胞系譜追跡実験により、娘細胞がニューロンに分化している可能性を示唆する結果を得た。これらの結果から、DPLは神経前駆細胞の性格を保持し、新規ニューロンの産出によって蛹発生中にラミナ神経系を構築する神経幹細胞であるという可能性が示唆された。
複眼におけるdve遺伝子発現はR1-R7で検出されたが、dve変異複眼では外側光受容細胞に関する異常は確認できなかった。一方、内側光受容細胞では、全てのR7がRh3を、R8がRh6を発現していた。つまり、ロドプシン発現パターンの初期状態はRh3/Rh6(in R7/R8)であり、Dveを介した誘導シグナルによって内側光受容細胞の機能的分化が制御されていることが明らかとなった。 -
細胞増殖と形態形成の協調的制御機構の解析
研究課題/領域番号:14034236 2002年 - 2003年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 特定領域研究 特定領域研究
中越 英樹
配分額:5900000円 ( 直接経費:5900000円 )
形態形成因子(モルフォゲン)の拡散によって生じる濃度勾配は、個々の細胞に異なる位置情報を与え、各生物に個有な形態を作りあげていく。ショウジョウバエのdefective proventriculus(dve)遺伝子は、形態形成因子Wingless(Wg)、Decapentaplegic(Dpp)に依存して発現するホメオボックス遺伝子である。翅原基においてDveが一過性に発現する背腹境界は、翅の辺縁部を形成し、機械刺激を受容するための特殊な剛毛を生じる。この翅の辺縁部はNotchシグナルによって誘導され、このシグナルは細胞増殖とも密接に関連し、翅原基の増殖とパターン形成を制御している。また、脚原基においてNotchシグナルは同心円状に活性化され、脚原基の増殖および分節化に関与する。蛹期の脚原基において、Notch活性化領域は脚分節様構造の遠位部側で、Dveは分節様構造をまたいで発現するため、両者は分節様構造の遠位部側で部分的な重複を示す。発生の進行に伴ってこの重複部分でのDve発現が抑制されることが、成虫脚分節間をつなぐジョイントと呼ばれる構造を形成するために重要であることをこれまで明らかにしてきた。EGFRシグナルを活性化するリガンド分子Veinは、脚原基の遠位部で発現し、近遠軸に沿った活性勾配を作ることによって、脚の遠位部のパターン形成に関与するという報告がなされている。胚発生期や翅原基におけるdve遺伝子発現はEGFRシグナルによっても制御されているという知見に基づき、今回、Dve発現抑制領域にEGFRシグナルを活性化させる分子を発現させたところ、Notchシグナルを阻害した時と同じようなジョイント構造の欠失が観察された。蛹期におけるEGFRシグナルの活性化領域は、Notch活性化領域ときれいに相補的なパターンを示すことから、EGFRリガンド分子Veinは近遠軸に沿った活性勾配を作ることによって遠位部のパターンニングを行うだけでなく、Notchシグナルとの拮抗作用によりEGFRシグナル活性化領域が周期的なパターンで抑制されることが、Notch活性化、dve発現抑制とともにジョイント形成シグナルを形成しているものと考えられる。
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視覚認識に関わる神経回路網形成機構の解析
研究課題/領域番号:13041046 2001年 - 2002年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 特定領域研究 特定領域研究
中越 英樹
配分額:5300000円 ( 直接経費:5300000円 )
ショウジョウバエの視覚認識行動に異常を示す突然変異体の原因遺伝子として同定したdefective proventriculus(dve)遺伝子は、ホメオボックスを持つ転写制御因子である。dve遺伝子上流の発現制御領域によって標識される神経細胞群(Dve標識細胞)の軸索は視覚中枢に投射しており、Dve標識細胞にテタヌス毒素を発現させ、その神経活動を阻害すると、視覚認識行動が異常になる傾向が認められている。
Dve標識細胞の染色は、光受容細胞(R1-R6)の投射先であるlaminaにおいても確認されたが、その遺伝子発現は蛹後期から成虫にかけてのみ観察された。一方、Dve抗体による染色では、同時期におけるlaminaでの発現は検出されず、蛹初期lamina予定域の細胞群で発現が確認された。つまり、Dveタンパク質は、蛹初期のlaminaにおいて一過性に発現し、その後の発現は抑制されているようである(Dve_+細胞)。腸管および翅原基における解析の結果、dve遺伝子の一過性発現が細胞機能特性を付与するために重要であることから、蛹期のlaminaにおける一過性のdve発現が視覚認識に関わる神経回路網形成に重要であるものと考えられる。Dve^+細胞は、laminaニューロンマーカー(Dac)の発現と一致しないことから、グリア細胞である可能性が高い。また、蛹後期以降は、光受容細胞(R1-R6)においてもdve遺伝子発現が誘導されることが明らかとなった。この時期には光受容細胞の運命決定、軸索の投射などはすでに完了しているため、光受容細胞(R1-R6)の投射先に存在するDve標識細胞とともに何らかの神経機能の制御に関与している可能性が考えられた。 -
細胞の機能特性を制御するゲノム情報の網羅的解析
研究課題/領域番号:13202047 2001年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 特定領域研究(C) 特定領域研究(C)
中越 英樹
配分額:6000000円 ( 直接経費:6000000円 )
ショウジョウバエのホメオボックス遺伝子dveは、腸管の吸収機能特性を制御している。銅イオンをキレートしたポルフィリン系化合物等を吸収する性質からcopper cellと命名されている腸管細胞があり、この細胞は酸を分泌することによって消化の促進にも関与している。吸収活性は蛍光シグナルとして、酸分泌能はpH指示薬の変色として可視化することができるため、機能解析の優れたモデル系となる。この細胞が吸収機能を獲得するためには、dve遺伝子の一過性発現が必要である。つまり、dve遺伝子の発現が抑制されるべき時期に強制的にdve遺伝子を発現させると、形態的な異常を伴うことなく、吸収特性のみが阻害される。このように、吸収機能特性のみが選択的に阻害された個体群と対照群との間で、発現の変化する遺伝子群(吸収機能制御に関わる遺伝子群)を網羅的に検索し、機能特性制御のメカニズムを解析する。
吸収機能の選択的阻害の条件として、copper cellの示すもう1つの機能である酸分泌能に関して検討を加えた。昨年度、吸収機能を選択的に阻害できる系統として同定していた2系統のうち1系統は、酸分泌能も強く阻害してしまうことが明らかとなった。再スクリーニングの結果、形態に及ぼす影響が比較的少なく、酸分泌能も正常だが、吸収機能を阻害できる系統として、最終的にNP3538,NP3012の2系統を同定することができた。
control幼虫とdve発現幼虫の間で、発現量に差のある遺伝子群を比較するため、約1,500匹の1齢幼虫を集め、幼虫全体から調製したmRNAサンプルを用いて、RT-PCR法によってdve発現量の顕著な増加を確認することができた。 -
細胞増殖と形態形成の協調的制御機構の解析
研究課題/領域番号:13045028 2001年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 特定領域研究(A) 特定領域研究(A)
中越 英樹
配分額:3100000円 ( 直接経費:3100000円 )
形態形成因子(モルフォゲン)の拡散によって生じる濃度勾配は、個々の細胞に異なる位置情報を与え、各生物に個有な形態を作りあげていく。ショウジョウバエのdefective proventriculus(dve)遺伝子は、形態形成因子Wingless(Wg)、Decapentaplegic(Dpp)に依存して発現するホメオボックス遺伝子である。翅や肢の形態形成にはWg, Dppといったモルフォゲンが重要な役割を果たしており、翅原基においてDveが一過性に発現する背腹境界は、翅の辺縁部を形成し、機械刺激を受容するための特殊な剛毛を生じる。この翅の辺縁部は、Notchシグナルによって誘導されることが知られている。Notchシグナルは細胞増殖とも密接に関連しており、翅原基の増殖とパターン形成を制御している。また、肢原基年おいては、Notchシグナルは同心円状に活性化され、肢原基の増殖および分節化に関与する。つまり、翅および肢原基におけるNotchシグナルの解析は、細胞増殖と形態形成が協調的に制御されるメカニズムを理解するための優れたモデル系となり得る。肢原基におけるdve遺伝子の発現は同心円状に観察され、強制発現クローン解析の結果、翅原基と同様にWg, Dppによる制御を受けている可能性が示唆された。三齢幼虫期の肢原基においては、翅原基で観察されたようなNotch活性化領域とDve発現領域の相補的な対応関係は認められなかったが、蛹期の肢原基においては、NotchリガンドであるDeltaとDveの発現がほぼ相補的なパターンを示すことが明らかとなった。肢原基の前後境界に沿ってdve'遺伝子の強制発現を行うと、肢の分節化が阻害され、短い肢が形成された。翅原基の背腹境界、肢原基の前後境界に沿ってNotchシグナルを阻害した場合にも同じ表現型が誘導されることから、Notchシグナルとdveの相互関係が増殖とパターン形成に重要であることが明らかとなった。
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"ものを見分ける"ために必要な遺伝的プログラムの解析
研究課題/領域番号:12780512 2000年 - 2001年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 奨励研究(A) 奨励研究(A)
中越 英樹
配分額:500000円 ( 直接経費:500000円 )
ショウジョウバエ視覚認識行動に異常を示す突然変異体の原因遺伝子として単離されたdefective proventriculus (dve)遺伝子の上流発現制御領域によって発現が支配される神経細胞群(Dve標識細胞)は、視覚系の介在神経および視覚中枢に投射する神経細胞を含み、これらDve標識細胞の機能は視覚認識能の獲得に重要な役割を果たしていると考えられる。Dve標識細胞がGAL4発現細胞として標識されたdve-GAL4系統に、UAS-TNT系統を交配した子孫では、Dve標識細胞においてテタヌス毒素(tetanus toxin ; TNT)を発現し、Dve標識細胞の神経活動が阻害される。このような個体における視覚認識行動を予備的に調べた結果では、明らかな行動異常が観察されていた。しかし、昨年度の解析から、この結果の再現性を確認する必要性が出てきたため、飼育密度、照明などの条件を検討してみたが、明確な原因を特定できるには至らなかった。しかし、dve発現レベルを変化させた場合には、視覚認識行動の異常が誘導されており、より詳細な検討を継続することが必要であると考えられた。
一方、神経機能の制御においては、シナプス間の細胞間相互作用が重要であるため、dve変異体において細胞間相互作用の異常によって形態異常が誘導される前胃での機能制御に注目した。前胃での発現を示すエンハンサートラップ系統のGAL4発現をdve変異体において観察したところ、2系統において遺伝子発現の減少が認められた。トランスポゾン挿入部位近傍の配列をもとに近傍の遺伝子を推定してみると、いずれも神経機能と深く関わる遺伝子の発現を反映している可能性が考えられた。 -
細胞の機能特性を制御するゲノム情報の網羅的解析
研究課題/領域番号:12202038 2000年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 特定領域研究(C) 特定領域研究(C)
中越 英樹
ショウジョウバエのホメオボックス遺伝子dveは、腸管の吸収機能特性を制御している。銅イオンをキレートしたポルフィリン系化合物を選択的に吸収する性質からcopper cellと命名されている腸管細胞があり、この細胞が吸収機能を獲得するためには、dve遺伝子の一過性発現が必要である。つまり、dve遺伝子の発現が抑制されるべき時期に強制的にdve遺伝子を発現させると、形態的な異常を伴うことなく、吸収特性のみが阻害される。このように、吸収機能特性のみが選択的に阻害された個体群を安定的に得るための条件について検討を行った。
500系統のGAL4エンハンサートラップ系統をスクリーニングし、copper cellを含む中腸細胞で発現のある系統を29系統同定した。GAL4依存的にGreen Fluorescent Protein(GFP)とdveを同時に発現できる系統を用い、dve遺伝子を持続的に発現するdve発現幼虫、およびGFPのみを発現できるコントロール幼虫について、吸収機能(copper fluorescence;UV光の照射によりオレンジ色の蛍光を発する)を測定した。6系統において吸収阻害効果が認められ、形態的特徴を保持できる条件について詳細に検討した結果、2系統について至適条件を決定できた。
同定した2系統のうち、1系統は吸収は完全に阻害されるが低頻度で形態異常が誘導されてしまう系統、もう1系統は形態は正常だが低頻度で弱い吸収が認められてしまう系統である。これら2系統で誘導したdve発現幼虫とコントロール幼虫を比較し、2系統に共通して発現が変化している遺伝子は、吸収機能制御に関わる遺伝子として、解析の候補となり得るであろう。 -
細胞増殖と形態形成の協調的制御機構の解析
研究課題/領域番号:12028226 2000年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 特定領域研究(A) 特定領域研究(A)
中越 英樹
配分額:2100000円 ( 直接経費:2100000円 )
ショウジョウバエの視覚認識行動に異常を示す突然変異体の原因遺伝子としてクローニングしたdefective proventriculus(dve)遺伝子は、翅を形成する領域(wing pouch)においても発現し、発現誘導には、Wingless(Wg),Decapentaplegicの両シグナルが必要であった。その後、背腹境界においてdve遺伝子の発現はNotchシグナルによって抑制されることが明らかとなった。背腹境界において抑制されたDveの発現はwgと相補的な発現パターンを示し、この過程において、背腹境界にまたがるdve変異モザイクを作成すると、wg発現領域がdve変異クローン内に拡がることから、Dveはwg発現領域を背腹境界の狭い領域に限定する働きがあることがわかった。
GAL4/UASシステムを用いて、背腹境界にdve遺伝子を強制発現させ、Notchシグナルによる発現抑制を阻害したところ、翅がまったく形成されなくなったり、翅の辺縁部が欠けるといった表現型を示した。つまり、Notchシグナルによるdve遺伝子の発現抑制は翅原基の細胞増殖、パターン形成のいずれにおいても重要であることがわかった。また、活性化型Notchを異所発現させると、Wgの活性化、Dveの発現抑制に伴って、細胞増殖の促進が誘導された。しかし、Wgの活性化、Dveの発現抑制を起こすことができなかった細胞クローンでは細胞増殖の誘導は観察されなかった。つまり、Dveの発現を抑制できるNotchシグナルの閾値が細胞増殖の促進に重要であるものと考えられる。 -
神経分化の多様性とprospero 遺伝子による制御
研究課題/領域番号:07262227 1995年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 重点領域研究 重点領域研究
松崎 文雄, 中越 英樹
配分額:2500000円 ( 直接経費:2500000円 )
prospero遺伝子は、神経系の幹細胞から非対称分裂により生じる2次前駆細胞で、一過的に機能するホメオボックス遺伝子であり、神経発生に必須な役割を果たす。この遺伝子の転写は幹細胞と二次前駆細胞とで等しく行われるにもかかわらず、翻訳産物は幹細胞の細胞核には見られず、2次前駆細胞の細胞核に局在するように観察される。我々は、このようなprosperoの転写と蛋白局在の非対称性について解析してきた。
prospero蛋白は神経幹細胞で翻訳されているが、核には決して移行せず、細胞周期の進行に伴いダイナミックに細胞内で局在を変える。神経幹細胞で合成されたprosperoは、細胞分裂に伴って娘細胞の一方にのみ分配され、そこで機能することが明らかになった。この不等分配の分子機構を解析する第一歩として、不等分配に働く機能ドメインを決定したところ、中央部分の120アミノ酸からなる領域('非対称'領域)にその活性があることが分かった。非対称領域のなかで、32アミノ酸からなる極めて限定された領域だけがこの活性に必須である。prosperoタンパク質と同様に不等分配されるnumbタンパク質にも、この必須な領域に相同な配列が見い出されることから、これら二つの分子は同じ機構によって非対称に分配されるのかも知れない。細胞が増殖しながら多様な細胞が形成される発生において、細胞分裂により異なる二つの細胞が生まれる非対称分裂は最も基本的な過程である。prosperoは、細胞分裂に伴い非対称に分配される転写因子の最初の例であり、二つの娘細胞が異なる遺伝子発現をするために、転写因子が一方の娘細胞だけに分配されるという新しいメカニズムの存在する事を明らかにすることができた。prosperoの非対称分配は、外胚葉の神経系以外に内胚葉でも観察されることから、この機構が発生にひろく機能すると考えられる。