共同研究・競争的資金等の研究 - 髙杉 展正
-
小胞輸送障害の定量的・網羅的解析法の確立によるアルツハイマー病治療薬の探索
研究課題/領域番号:20K07014 2020年04月 - 2023年03月
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(C) 基盤研究(C)
高杉 展正
配分額:4290000円 ( 直接経費:3300000円 、 間接経費:990000円 )
アルツハイマー病(AD)は進行性の認知機能の低下を主訴とする神経変性疾患である.近年,患者脳に蓄積するアミロイドβ(Aβ)を標的とした抗体療法が米国で承認されるなど,AD患者脳でAβが蓄積し毒性を持つことがAD発症原因であるとする「アミロイド仮説」が強く支持され創薬研究が進められている.
一方,Aβ蓄積とは独立した発症機序の存在も示唆されており,病態はより複雑であると考えられ,単一の標的に特化した既知の治療薬の薬効発現は確認しづらく,抗Aβ抗体療法も根本的治療法としてはまだ確立されていないのが現状である.そこでAD病態を正確に把握するため,アミロイド仮説を補完する発症メカニズムの解明と薬物標的の同定が必要とされている.
これまでにADの最初期の病態である輸送小胞(エンドソーム)の機能異常とその肥大化に注目し,小胞輸送障害がAD発症の端緒であるとする「交通渋滞仮説」が提唱されていたが,そのメカニズムは不明であった.そこで当研究グループはAD関連遺伝子APPの病的代謝物でありAβの前駆体でもあるβCTFに注目した.βCTFは小胞輸送障害を誘導することが知られており,我々はその輸送小胞内での結合パートナーとしてTMEM30Aを同定していた.
TMEM30Aは脂質二重膜内での脂質輸送に関与し,小胞輸送を制御するリピッドフリッパーゼの構成成分である.本年度は動物・細胞をもちいたAD病態モデルにおいてβCTFの蓄積がリピッドフリッパーゼの形成・活性を低下させることを明らかにした.さらにTMEM30Aに由来するβCTF結合性のペプチドT-RAPを同定し,本ペプチドが小胞輸送障害を改善できることを示し,科学誌に発表した.
本研究成果からAD発症機構の解明,及び新たな治療標的の同定につながることが期待される. -
GPCRとアミロイドβ前駆タンパク質の巨大複合体形成による神経機能の制御
研究課題/領域番号:20K07765 2020年04月 - 2023年03月
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(C)
上窪 裕二, 高杉 展正
配分額:4290000円 ( 直接経費:3300000円 、 間接経費:990000円 )
膜タンパク質を標的とした構造と機能解析技術の進歩に伴い、Gタンパク質共役型受容体(GPCR)をはじめとする細胞膜タンパク質間の複合体形成と機能的な相互作用が明らかとなりつつある。膜タンパク質が形成する巨大な複合体は、膜タンパク質の本質であり、その実態を理解することは生命科学の発展に大きく寄与すると考えられる。本研究では多種類の膜タンパク質からなる巨大な複合体(超複合体)の形成とその機能を明らかにするため、アルツハイマー病(AD)の原因の1つであるアミロイドベータ(Aβ)の前駆タンパク質 (Amyloid precursor protein; APP)と神経伝達に関わるGPCR複合体が形成する複合体に注目する。
先行研究によってAPPの細胞外ドメインの一部が異種GPCR複合体を形成するB型ガンマアミノ酪酸(GABA)受容体(GABAB受容体)と相互作用することが報告された。代表者らはGABAB受容体をはじめとする神経伝達に関わるGPCRを発現する細胞株を作製し、APPおよび部分ペプチドとGPCRの相互作用について検討を行った。検討の結果、GABAB受容体をテトラサイクリン誘導性に発現する細胞株ではAPPとの相互作用は確認できなかった。そこで研究代表者らは、これらの相互作用を安定して評価するためにGABAB受容体を恒常的に発現する細胞株を作製した。さらに、ウイルスベクターによる遺伝子発現方法を改良し、細胞内カルシウムとcAMPをライブセル・イメージングにて評価できる測定系を確立した。申請者らはAPPと他のGPCRの複合体形成についてさらに解析を進め、蛍光ライブセル・イメージングによる評価を行った。 -
APP-BACE1結合仲介分子によるアミロイドβ産生制御機構の解明
研究課題/領域番号:19K06929 2019年04月 - 2022年03月
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(C) 基盤研究(C)
樫山 拓, 高杉 展正
配分額:4290000円 ( 直接経費:3300000円 、 間接経費:990000円 )
アルツハイマー病の病理に中心的役割を果たすアミロイドβ(Aβ)は前駆体タンパク質(APP)がBACE1・γセクレターゼによる2段階切断を受けて産生される。Aβ凝集体からなる老人斑の近傍では、神経突起における小胞輸送障害により変性神経突起が形成される。輸送障害部位ではAPP・BACE1の蓄積が起こり、悪循環的にAβ産生亢進、凝集体の形成促進、変性神経突起形成・神経機能障害が進行すると考えられている。 我々がAPP結合タンパク質として見出したタンパク質Xが老人班周囲に集積することを報告しているが、さらにタンパク質XがBACE1とも結合することを発見した。以上のことから、このタンパク質XがAPPとBACE1の集積を促し、Aβ産生を亢進しているというのではないかという仮説を立てた。タンパク質Xの機能を修飾することでAβ産生を抑制できれば新たなアルツハイマー病治療薬の標的となることが期待される。 アルツハイマー病モデルマウス脳スライス固定標本の免疫染色によりアミロイドプラーク周辺におけるBACE1およびタンパク質Xの集積を確認した。BACE1とタンパク質Xの同時染色に必要な抗体が無いため、抗BACE1-VHH抗体を利用し共局在を検討したが、感度が不十分なため改善が必要である。
タンパク質XとBACE1の結合部位を明らかにするため、それぞれについて部分欠損変異体を作製し、株化細胞を用いて免疫沈降、および蛍光顕微鏡による共局在を指標に結合を評価した。少なくとも互いの膜貫通ドメイン同士の結合が確認され、加えて細胞外ドメインの複数の結合部位が存在することが示唆された。タンパク質XはBACE1以外に他のタンパク質と複合体を形成することが示されていることから、3者が存在するときの結合様式や振る舞いをさらに検討する必要がある。 -
アルツハイマー病発症機構における脂質フリッパーゼの役割の解析と予防・治療法の開発
研究課題/領域番号:17K08272 2017年04月 - 2020年03月
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(C) 基盤研究(C)
高杉 展正, 橋本 唯史
配分額:4810000円 ( 直接経費:3700000円 、 間接経費:1110000円 )
アルツハイマー病(AD)発症機構として、脳内にアミロイドβペプチド(Aβ)が増加・蓄積することが原因とするアミロイド仮説が有力である。一方、アミロイド仮説に基づいた根治療法の開発は頓挫を続けている。その理由として、Aβの蓄積時点では副次的な細胞障害が起こっているため、アミロイド仮説による治療法のみでは有効でない可能性が考えられている。
そのため、Aβの蓄積以前に起こる小胞輸送障害をAD発症原因とする「交通渋滞」仮説が注目されている。これまでに、Aβの前駆体であるβCTF(βセクレターゼ切断性カルボキシ末端断片)が患者脳に蓄積し、小胞輸送を障害することが要因として示唆されているが、その詳細な機構は未解明であった。
当研究グループはβCTFと結合し、小胞輸送障害を誘導する因子としてTMEM30Aを同定している。TMEM30Aは、リン脂質の脂質二重膜における不均衡性を維持する脂質輸送酵素フリッパーゼの構成分子であり、小胞輸送の制御に関わる事が知られている。
本研究ではβCTFによるリピッドフリッパーゼの活性変化に着目し、AD病態とリピッドフリッパーゼ活性の相関性、AD特異的輸送障害を改善できる新たな治療ターゲットの創出を目標として解析を行っている。
本年度は、①βCTFに特異的な領域であるAβ配列が、βCTFの産生・局在を制御する重要な領域であること、②またTMEM30AがAβ領域を介してβCTFと結合することにより小胞輸送障害を誘導することを見出し、それぞれ海外学術誌に発表した。さらに解析を進め、リピッドフリッパーゼの活性測定法、小胞輸送障害を定量的に解析する手法を開発するとともに、TMEM30AのAβ結合領域由来のペプチドTRAPが小胞輸送障害を改善しうることを明らかにした。これらの成果により小胞輸送障害のメカニズム解明・治療法開発に寄与できると考えている。 -
スフィンゴシン1リン酸によるAβ産生・分解の同時制御法の開発
研究課題/領域番号:26430059 2014年04月 - 2017年03月
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(C) 基盤研究(C)
高杉 展正, 富田 泰輔
配分額:5200000円 ( 直接経費:4000000円 、 間接経費:1200000円 )
アルツハイマー病(AD)は、進行性の認知機能障害を呈する神経変性疾患である。現在、AD患者脳の病理学的特徴である老人斑の主要構成成分であるアミロイドβタンパク(Aβ)の産生および蓄積がADの発症に深く関係しているとする「アミロイド仮説」が強く支持されている。本研究において、神経炎症反応を制御する脂質系セカンドメッセンジャーであるSphingosine-1-phosphate及びその産生酵素の一つであるSphingosine kinase2がAD患者脳で活性化されており、Aβの産生、及びその代謝を同時に制御する因子としてAD根治療法のターゲットとなりうることを見出した。
-
エンドサイトーシス障害によるミクロドメイン依存性アミロイド産生亢進機構の解明
研究課題/領域番号:23300128 2011年04月 - 2015年03月
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(B) 基盤研究(B)
櫻井 隆, 貫名 信行, 村山 尚, 樫山 拓, 新家 瑠奈, 上窪 裕二, 高杉 展正
配分額:19760000円 ( 直接経費:15200000円 、 間接経費:4560000円 )
βアミロイドはアルツハイマー病の病理に中心的な役割を果たすと考えられており、アミロイド前駆体蛋白質(APP)がβ、γ切断を受けることにより産生される。膜マイクロドメインはAPPのエンドソーム輸送に深く関与しており、アミロイド産生の場と考えられている。一方、APPのβ切断産物であり、Aβの前駆体となるC末端断片(βCTF)の蓄積は、アルツハイマー病初期のエンドソーム機能不全の原因と考えられている。分子機構を明らかにするためにAPPを含む膜マイクロドメイン中のエンドソーム関連蛋白質を解析したところ、βCTFと相互作用し、エンドソーム輸送を障害する候補蛋白質を同定した。
-
SPHK/S1Pシグナリングによるβセクレターゼ制御機構の解析
研究課題/領域番号:21790061 2009年 - 2010年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 若手研究(B) 若手研究(B)
高杉 展正
配分額:4290000円 ( 直接経費:3300000円 、 間接経費:990000円 )
高齢化社会を迎え、アルツハイマー病(AD)は大きな社会問題となっている。その発症機序には、β及びγセクレターゼによる2段階の切断によりAmyloid precursor protein (APP)から生じるAβ分子の患者脳内での蓄積が深く関与している。申請者らは脂質セカンドメッセンジャーとして機能することが知られるSphingosine-1-phoaphate (S1P)の産生酵素であるSphingosine kinase (SPHK)がβセクレターゼを介してAβ産生機構影響を与えることを見出していた。本年度は細胞内S1Pの量が実際にβセクレターゼ活性に影響して、AD発症に寄与する可能性があるか検討することを主眼として以下の研究を進めた。
1.S1P代謝酵素によるβセクレターゼ活性制御機構に対する影響の解析
2.SPHKの過剰発現がAβ産生機構に与える影響の解析
結果として分子機構の異なるS1P代謝酵素であるSGPL1、SGPP1の発現によりヒト由来のAβおよびβセクレターゼ産物であるβCTFの産生が有意に抑制されることを見出した。またSPHKの一つであるSPHK2の発現は酵素活性依存的にAβ、βCTF産生を増加させることが明らかになった
これらの結果から、これまでに明らかでなかったSPHK/S1Pシグナル、特に細胞内S1Pの量が神経細胞におけるβセクレターゼの活性を制御していることが示唆された。S1P量は免疫応答、神経細胞へのストレスなどにより影響をうける可能性があることから、AD発症機構に関与していることも考えられる。
本研究成果から、今後SPHKおよびS1P代謝酵素をターゲットとしたAD根本治療薬の創薬につながることが期待される。 -
内膜輸送系を介したγセクレターゼ基質特異的制御機構の解析
研究課題/領域番号:19790049 2007年 - 2008年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 若手研究(B) 若手研究(B)
高杉 展正, 岩坪 威, 富田 泰輔, 松野 建治, 三谷 昌平
配分額:3690000円 ( 直接経費:3300000円 、 間接経費:390000円 )
アルツハイマー病(AD)患者脳に蓄積するアミロイドβ(Aβ)蛋白質を産生する責任酵素であるγセクレターゼは、AD の根本的治療法のターゲットとして注目されている。しかしその単純な阻害はNotch などのシグナルの阻害による副作用を誘発する。我々はショウジョウバエ細胞を用い、Notch、Aβ産生を特異的に制御する遺伝子をRNAi 法によるスクリーニングをおこない、候補遺伝子について個々に解析を進めた。本研究成果は副作用のないAD 治療薬の開発・および生体内シグナルの重要な因子であるNotch の制御機構の解析に道筋をつける研究であると考えている。
-
Drosophilaを用いたパーキンソン病、アルツハイマー病の病態に関する研究
研究課題/領域番号:02J61410 2002年 - 2003年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 特別研究員奨励費 特別研究員奨励費
高杉 展正
配分額:1000000円 ( 直接経費:1000000円 )
家族性アルツハイマー病(FAD)病因遺伝子presenilin(PS)の変異によりADが発症する機序として、アミロイドとして蓄積性の高いAβ42ペプチドの産生亢進が報告され、ADの根本的治療法の創薬ターゲットとして注目されている。PSの正常機能については不明な点が多いが、PSはβアミロイド前駆体蛋白(βAPP)や細胞分化に重要な役割を果たすNotch受容体の膜内配列切断を行う新規アスパルチルプロテアーゼγ-secretaseの活性サブユニットである可能性が示唆されている。
これまでに我々は、断片化したPSは安定化され、高分子量複合体を形成すること、この複合体が活性型γ-secretaseの本態であることを明らかにしてきた。私はγ-secretaseの分子的実態を明らかにすることを目的として、分子遺伝学的解析法の確立されているショウジョウバエを実験系として用い、ショウジョウバエプレセニリン(Psn)の解析を行った。ショウジョウバエ由来シュナイダー(S2)細胞において内因性Psnは断片化、安定化を受け高分子量複合体を形成しており、S2細胞にβAPPのC末端断片(C100)を発現させるとAβが産生され、Psnがγ-secretaseとしての活性を持つことを明らかにした。一方マウス由来N2a細胞にPsnを発現させた場合にも、哺乳類PSと同様に安定化、高分子量複合体を形成し、γ-secretase活性を示した。これらの結果はPSの安定化、高分子量複合体形成機構が遺伝的に保存されており、S2細胞及びショウジョウバエPsnを用いた系がγ-secretase活性を評価するモデルとして有用であることを示している。現在このS2細胞を利用した実験系により、γ-セクレターゼの新たな構成因子候補として同定されたNicastrin、Aph-1、Pen-2について解析している。