共同研究・競争的資金等の研究 - キム ドウチュル
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ベトナムの農村工業化と非周辺的地域労働市場の形成―日本・韓国の経験と比較しつつ
研究課題/領域番号:22K01045 2022年04月 - 2026年03月
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(C)
金 どぅ哲
配分額:4160000円 ( 直接経費:3200000円 、 間接経費:960000円 )
本年度は、新型コロナウイルス感染症の影響を考慮し、前半は統計データの定量的分析を行い、後半はロンアン省ベンルック郡(ホーチミン市周辺の近郊農村型)での現地調査を行う予定であった。しかし、ベトナムにおいて新型コロナウイルスによる移動制限が一部解除されたものの、メコンデルタの農村地域における現地調査は依然として許可されず、後半の現地調査先を韓国の昌原市周辺の工業団地に変更せざるを得なかった。
その結果、急速な成長を遂げているベトナムの総人口は1990年の約6,600万人から2020年の約9,800万人へと急増したが、同時期の農村人口は約5,300万人から6,200万人へと約17%の増加に止まり、総人口に対する農村人口の割合が約80%から63%までに低下したことがわかった。さらに、2000年代以降はとりわけ農業世帯数の減少が顕著で、それらの脱農在村人口の多くが製造業ないしサービス業へ吸収されていったことが分かった。また、ベトナムの家計調査(Vietnam Household Living Standards Survey(VHLSS))のデータを分析した結果、ベトナムにおける脱農在村人口の大半が比較的高学歴の男性若年層であり、農村世帯の所得源が急速に多様化し、非周辺的農村変容の可能性が示唆された。
一方、韓国の昌原市周辺の工業団地での現地調査の結果、1990年代までの地域労働市場におけるミスマッチングは外国人労働者の流入によって部分的に解消され、従来からの農村地域の空洞化が進んでいる中でも地域労働市場がグローバルな展開を示す新たな局面に入っていることが明らかとなった。 -
ベトナム・メコンデルタにおけるグローバル果樹産地の形成過程および土地制度との関係
研究課題/領域番号:18K01140 2018年04月 - 2022年03月
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(C) 基盤研究(C)
金 どぅ哲
配分額:4290000円 ( 直接経費:3300000円 、 間接経費:990000円 )
本年度は昨年度の成果を踏まえて、調査対象地であるティエンジャン省・チャウタン 郡・ヴィンキム村における果樹産地の形成過程と地域社会の変容に関する現地調査を行った。また、ヴィンキム村の特産物であるスターアップルの流通経路を確認するため、ホーチミン市を中心に市場調査を並行して行った。主な成果は下記のとおりである。
ヴィンキム村は、かつては一般的なメコンデルタ農村のように自給的な水田農業に依存していたが、1980年代半ば以降急激にスターアップルを中心とする果樹栽培へと転換させた。現在は、果樹栽培の大幅な拡大によって、村内には水田として利用されている農地が全く無い。このような果樹生産集積地が比較的短期間に形成された要因としては、世帯当たりの水田面積が小さく生活に必要な収入を得るためには果樹生産へ転換せざるを得なかったという自然環境的な要因のほかにも、1980年代以降に大消費地(ホーチミン市)への陸路でのアクセスが可能であったことや仲買人による分業化が市場システムの構築へとつながったことが挙げられる。
一方、ヴィンキム村のスターアップルは全国的な知名度を持っているにもかかわらず、サプライチェーンの未成熟により、消費地では他地域のスターアップルと混じってしまい、知名度の優位性が十分に発揮できない状況であった。また、ヴィンキム村のスターアップル生産農家の多くは認証制度(VietGAPなど)を受けているが、独自のサプライチェーンが構築されておらず、認証制度のメリットも実現されていない。 -
集落再編の国際比較と生活空間論による再考
研究課題/領域番号:16H01963 2016年04月 - 2021年03月
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(A) 基盤研究(A)
小島 泰雄, 金 どぅ哲, 佐藤 廉也, 今里 悟之, 作野 広和, 中川 秀一, 筒井 一伸, 磯田 弦, 中條 曉仁, 中辻 享, 吉田 国光, 小方 登, 山村 亜希
配分額:38350000円 ( 直接経費:29500000円 、 間接経費:8850000円 )
本研究課題の3年目にあたる本年度は、1月12日に京都大学楽友会館において国際シンポジウム International Workshop for the Reorganization of Rural Settlement System を開催した。科研メンバーに加えて、国内と海外(イギリス・エチオピア・ラオス)から研究者を招聘し、日本、中国、韓国、スコットランド、エチオピア、ラオスにおける集落再編の国際比較をめぐる討論を通して、研究成果の国際交流を実現するとともに、集落再編と農村の地域特性が深く結びつく様態に関する認識共有が醸成されたことは、今後の農村研究の展開に対する貢献として特筆されよう。
6月に刊行された「月刊地理」(古今書院)において「変わる農村と田園回帰」の特集を組んだ。科研メンバーによる日本における農村変化のフロンティアを理論・実証・実践の3つの位相から地理学的に定位した論考を掲載することにより、地理学界内部における研究の方向性を示すとともに、地理教育関係者などひろく社会一般に対しても研究成果を発信することとなった。
10月5日~7日に東京日本橋等において「都市と地方・農村を結ぶしかけ―東京の拠点を訪ねる」と題した臨地研究集会を開催し、農村の商品化の諸相について討論を行った。とくに都市の側で農村交流にかかわるキーパーソンを採訪したことは、農村研究の新たなフィールドの存在を印象づけるものであった。
このほか科研メンバーはそれぞれのフィールドにおける調査研究を進め、多数の論著を発表している。 -
中国朝鮮族の韓国への移住と適応過程からみた「韓民族」言説の多重性
研究課題/領域番号:26370925 2014年04月 - 2017年03月
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(C) 基盤研究(C)
金 どぅ哲
配分額:4810000円 ( 直接経費:3700000円 、 間接経費:1110000円 )
中国朝鮮族が,国籍としては「中国」,民族としては「漢民族」として認識しており,これらの多重アイデンティティは話者と相手との関係によってその強弱を変えられる。現在、中国朝鮮族の韓国への移住の歴史も20年を超えており,中国朝鮮族コミュにティの中でも階層分化が生じている。
一方、1990年代から始まった中国朝鮮族の出稼ぎにより、中国朝鮮族集住の農村地域では激しい過疎化が進行している。その結果、不足する農業労働力は地域外から出稼ぎにきた漢族によって担われており、その結果水田から畑への転作が進行している。 -
研究課題/領域番号:25284166 2013年04月 - 2016年03月
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(B) 基盤研究(B)
淺野 敏久, 伊藤 達也, 金 どぅ哲, 平井 幸弘, 香川 雄一, フンク カロリン
配分額:13000000円 ( 直接経費:10000000円 、 間接経費:3000000円 )
日韓欧越のラムサール条約湿地の保全と利用を調査した。ラムサール条約は国際的に定められた一つの制度であるにも関わらず,その受容には国による差が大きい。日本と韓国では対応が似ているものの,住民に与える影響を最小にしようとする(保護の観点からすると登録効果が薄い)日本と,環境管理を重視し住民の関与を減らそうとする韓国との間に対照的な差が認められた。ドイツやフランスでは,ラムサール条約はEUの保護制度の下に埋没している。ベトナムでは,ワイズユースとは住民に保護区の自然資源を違法に使わせないように管理することを意味し,先進国のように観光や教育に利用することが重視されるのとは異なっている。
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研究課題/領域番号:24401035 2012年04月 - 2015年03月
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(B) 基盤研究(B)
小島 泰雄, 秋山 元秀, 小野寺 淳, 松村 嘉久, 高橋 健太郎, 柳井 雅也, 小方 登, 金 どぅ哲, 阿部 康久, 柴田 陽一, 石田 曜
配分額:17290000円 ( 直接経費:13300000円 、 間接経費:3990000円 )
本研究は、中国東北で進行している地域構造の変化を地理学的な調査に基づいて解明することをめざして、3年間にわたって行われた。フィールド調査は、初年度が長春、2年度が松原、3年度が延吉という、吉林省の異なった性格をもつ3つの地域で行われた。農業と農村は近代的開発としてのフロンティア性を残す一方、都市は資源・生産依存から消費志向へと発展軸を交替させていることなど、本研究は構造変化の多様性を実態的に明らかにした。
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ベトナム北部の少数民族による棚田開発とその生業形態の持続可能性
研究課題/領域番号:23520972 2011年 - 2013年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(C) 基盤研究(C)
磯田 弦, キム ドゥチュル, 四本 幸夫
配分額:4940000円 ( 直接経費:3800000円 、 間接経費:1140000円 )
ベトナム・サパ地域における、衛星画像による土地利用変化の分析と農家調査による分析により以下の知見を得た:(1)棚田の面積は1970年代より約2倍に拡大し、現在も拡大している、(2)新しい棚田はより傾斜の大きい斜面にて開発された、(3)新しい棚田は、化学肥料の用量・用法によっては高い単収を得うる、(4)当地の少数民族は、ハイブリッド米を採用することにより単収を2倍にした、(5)観光やカルダモン生産による現金収入は、種、化学肥料、農業機械の購入にあてられ、自給的農業の近代化に貢献している、(6)農地の外延化と集約化により、過去40年間に年率3%の人口急増を超える米の生産量増加を実現した。
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研究課題/領域番号:23520954 2011年 - 2013年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(C) 基盤研究(C)
金 どぅ哲
配分額:5070000円 ( 直接経費:3900000円 、 間接経費:1170000円 )
本研究では,ホーチミン市に居住する韓国人ディアスポラの属性と彼らの定住意識を明らかにすると共に,彼らのホスト社会と融合・隔離・妥協について現地調査を行った。調査の結果,就業目的の移住が最も多く,居住期間は5年未満が約半数を占めていた。ベトナム語能力は片言の会話程度の初級レベルが大半で,日常生活にも不自由を感じているが,約6割の人々がベトナム生活に満足していた。居住地域は外国人集中地区であるPhu My Hung地区をはじめ数ヵ所に限られており,空間的な隔離が進んでいることがわかる。また,韓国人とベトナム人のカップルで形成する「 韓ベ家族」を除けば,定住意識は総じて低い水準であった。
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研究課題/領域番号:22320171 2010年 - 2012年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(B) 基盤研究(B)
淺野 敏久, 伊藤 達也, 金 どぅ哲, 平井 幸弘, 香川 雄一
配分額:11180000円 ( 直接経費:8600000円 、 間接経費:2580000円 )
ラムサール条約湿地は,地域づくりの資源として戦略的に利用されている。日本では,世界遺産やジオパークなどと比べると,ラムサール湿地は「保護のための制度」という意識が強く,経済的に積極活用が図られているところは少ない。韓国では保護する場所と開発する場所の差が大きく,保全よりは活用への社会的関心が高い。しかし,保護区においては,日本とは対照的に,トップダウン的「住み分け型」環境管理がなされる場合がある。
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新自由主義政策環境下の過疎地域の日韓比較研究-政策スタイルと住民組織に注目して
研究課題/領域番号:20520686 2008年 - 2010年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(C) 基盤研究(C)
金 どぅ哲
配分額:4420000円 ( 直接経費:3400000円 、 間接経費:1020000円 )
本研究では、日韓の過疎政策と住民組織が近年の新自由主義という新たな政策環境の下で、どのように変容し顕在化しているかを明らかにした。その結果,韓国の過疎地域(全羅北道鎮安郡)では,従来「マウル(集落)=基礎組織」単位で完結していた住民組織の議論構造や意志決定プロセスが複数のマウル(集落)の連合体へ移行しつつあることが明らかとなった。一方,日本の過疎地域(広島県安芸高田市)では,合併後に統一したガイドラインのもとに自治組織の再編を行ったにもかかわらず、合併前の住民組織の在り方により、合併後の住民組織の再編の方向性とその後の運営に相違が見られた。
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東アジアにおける湖沼と干潟の環境問題と共有資源の管理システム
研究課題/領域番号:19500883 2007年 - 2009年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(C) 基盤研究(C)
浅野 敏久, 伊藤 達也, 金 どぅ哲, 平井 幸弘
配分額:4550000円 ( 直接経費:3500000円 、 間接経費:1050000円 )
本研究では,日韓中越各国の水環境問題の現場を調査した。湖沼や干潟の環境保全や資源利用において,市民の要望や活動(管理や利用をめぐる市民運動)の有無や強弱の差(日韓と中越の差)が施策展開速度の違いとして現れること,環境対策と都市・地域開発との結びつき方(それが連動する中国と,環境対策は環境対策として行われる日本,その中間に位置する韓国)が環境対策をとる行政の姿勢を左右することなどが重要な視点になる。
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地方自治復活後の韓国農村部における「場所マーケッティング」と地方財政
研究課題/領域番号:17520537 2005年 - 2007年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(C) 基盤研究(C)
金 どぅ哲
配分額:3700000円 ( 直接経費:3400000円 、 間接経費:300000円 )
近年、「場所マーケティング」の概念を取り入れ、新しい地域のイメージを創り出し、地域経済の活性化を図る動きが盛んになっている。本研究では固有の場所性とは関係のない(もしくは薄い)要素を導入し「場所マーケティング」に成功している事例に注目し、場所マーケティングの主体たる自治体や地域住民が如何なるプロセスで新しい場所性を創り出し、それを「商品」としてマーケティングしているのか、またその過程で人為的に形成された場所性が地域住民にとって「自分のもの」として認識されていくのか否かを明らかにした。韓国全羅南道咸平郡の「チョウまつり」においては、固有の場所性とは関係のない要素、すなわち「チョウ」に代表される環境アイコンを導入し、都市住民に生態的なサービスを提供することで、自らの地域を「商品」としてマーケティングする戦略を取ってきた。咸平郡の事例は初期における都市部からの反響が、人為的に形成された新たな場所性を地域住民にも「自分のもの」として認識させるきっかけになったと言える。一方、兵庫県豊岡市のコウノトリの野生復帰事業の事例では、害鳥としての認識と新たなまちのシンボルとしての認識が共存しながらも、コウノトリの野生復帰事業に対する全国からの反響、すなわち「外部からの目」によりそれらの矛盾が繋ぎ合わさっている。韓国咸平郡の事例と兵庫県豊岡市の事例に共通することは、(1)環境アイコンとして外部や地元住民ともに分かりやすい生物を選んでいること、(2)その環境アイコン自体に美しさと希少性が含まれていること、(3)小規模な自治体であるゆえ、単一の環境アイコンに集中する場所マーケティングを行ったこと、(4)農業と環境との矛盾を無理に解決しようとせず、その矛盾を抱え込む戦略を取ったこと、(5)「外部からの目」に投影された己の姿や評価が人為的に形成された場所性を「自分のもの」として認識させる過程で少なからず役割をしたこと、などである。
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東アジアとその周辺地域における伝統的地理思考の近代地理学の導入による変容過程
研究課題/領域番号:16202023 2004年 - 2006年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(A) 基盤研究(A)
千田 稔, 鳴海 邦匡, 渡邊 欣雄, 秋山 元秀, 藤巻 正己, 野間 晴雄, 土居 浩, 澁谷 鎮明, 金 ドウ哲, 金坂 清則, 八木 康幸, 南出 眞助, 石原 潤
配分額:33540000円 ( 直接経費:25800000円 、 間接経費:7740000円 )
研究成果は、以下の5項目に集約できる。
(1)東アジアの伝統的地理学は、今も各地に足跡を残している。とりわけ風水思想は、中国、韓国や、日本の沖縄で、土地占いの方法として、現在も日常生活の中で意味をもっている。
(2)近代地理学の導入は、東アジアとその周辺地域では、年代差があるが、ヨーロッパ地理学の受容によって、世界観の拡大がもたらされた。
(3)植民地となった諸地域の地理学は、宗主国の地理学の影響を受けながら、地理学の近代化をはかった。ベトナム、マレーシア、韓国について事例的な検討を試みた。
(4)近代における東アジアは、ヨーロッパ地理学の方法論による研究対象であった。例えば、ムギ作農業はヨーロッパ地理学にとっては、関心があったが、稲作については、本格的な研究がされることはなかった。そのような偏りの反作用として、アジアにおける稲作観が熱帯地理学の新しい局面を切り開いた。
(5)現代の東アジアとその周辺諸国の地理学は、欧米と類似した体系のもとで、研究活動がなされているが国家計画に参画する割合は、国によって異なる。 -
金融危機後の韓国における地方都市および農村の社会変動
研究課題/領域番号:15401031 2003年 - 2005年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(B) 基盤研究(B)
神谷 浩夫, 山田 正浩, 阿部 和俊, 伊藤 悟, 渋谷 鎮明, 金 科哲, 梶田 真
配分額:13200000円 ( 直接経費:13200000円 )
1.地方都市では金融危機後、全国展開する企業の支店・支所の廃止や再編が行われた。その結果、韓国の都市システムにおいてソウルの地位が以前にもまして上昇した。逆に地方都市は相対的に地位が低下した。
2.交通ネットワークから見ると、金融危機による地方都市への影響ははっきりしない。バス交通と鉄道交通、道路網のネットワークは、高速道路やKTXなどの整備によって、地方都市間のアクセスが最近20年間で格段に改善された。
3.大邱の労働市場は、繊維産地であるため輸出依存度が高く金融危機の影響を強く受けた。事業所規模が縮小し、男性ブルーカラーでは正規職から非正規職への転換が進んだ。しかし大邱繊維産地では、こうした影響は女性生産職従事者の減少となって現れた。これは、金融危機への対応はコスト削減が主であって、高付加価値への産業構造の転換が進んでいないことを示していることが明らかとなった。
4.農村への工業立地が金融危機後に進んだが、その影響はかなり断片的である。
5.農村における産地形成は、高度成長期における都市市場の成立を契機としていた。金融危機によって都市から帰農者が一時的に増えたが、全体としてみればそれほど大きいものではない。
6.地方自治体主導の地域振興策は、金融危機後にさらに活発となったが、これは1995年の地方自治制の導入や中央-地方間の税配分制度の見直しと切り離して考えることはできない。 -
日本と韓国の大規模干拓事業をめぐる環境問題論争への地理学的アプローチ
研究課題/領域番号:15500684 2003年 - 2005年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(C) 基盤研究(C)
淺野 敏久, 伊藤 達也, 金 どう哲, 平井 幸弘
配分額:4200000円 ( 直接経費:4200000円 )
本研究の目的は,日本と韓国の社会問題化した大規模干拓事業を取り上げ,それをめぐり展開される環境問題論争を分析し,それぞれの国において,いかに問題が構築されるのか,その際にいかなる利害関係,地域的背景が関わっているのかを明らかにすることである。研究の結果として以下がわかった。
1.韓国においてセマングム干拓事業という大規模な事業が進められており,大きな社会問題になっている。この事業は韓国南西海岸開発の一環と位置づけられるが,規模が大きく環境への影響が甚大なことが懸念されている。特に先行したシファ干拓が環境悪化により断念されて以降,セマングムでの環境悪化への懸念が国民的関心を集めるようになった。
2.韓国においては,民主化運動を経て,市民運動の影響力が強く,環境運動も例外でない。セマングム問題も中央の環境団体によって反対運動が主導されることにより大きな社会問題となった。
3.一方,韓国では道による経済格差が大きく,セマングム開発が計画される全羅北道は後進地域にあたり,道民の開発志向が強く,セマングム問題は全国的な環境問題への関心と地方的な経済開発への関心という次元の異なる論点からの議論が錯綜する中に成立している。
4.ただ,全羅北道の中にあっても干潟との関わりの深かった漁村では事業に反対する活動がある。これらは道をあげての推進運動の中で孤立した存在となり,中央の環境団体と結びつくことによって,その立場をアピールし続けている。しかし,この1,2年の状況の変化により,孤立化が深まっているように見受けられる。
5.セマングムの事例をみるにつけ,諫早湾や中海・宍道湖のような日本の干拓問題との類似点(問題の社会経済的背景や公共事業システム)が強く認識されるとともに,環境運動の性格や進められ方にみる両国の相違点,特に日本の環境運動の独特な性格について気づくことができた。 -
構造改革期における農山村・人口減少地域の変動と政策課題
研究課題/領域番号:15520497 2003年 - 2004年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(C) 基盤研究(C)
堤 研二, 西原 純, 岡橋 秀典, 西野 寿章, 関戸 明子, 金 科哲
配分額:3400000円 ( 直接経費:3400000円 )
構造改革の流れの中で、現在、農山漁村・旧産炭地域などの人口減少地域をめぐる経済・政治・社会構造に大きな変動が生じつつある。そして、従来の人口減少地域を支えていた構造が崩れ、新たな方向への転換が緊急に求められてきている。こうした状況をふまえた本研究の目的は、構造改革による大変動期を迎えた中での人口減少地域・農山村を対象として、(1)これまでの地域政策を「点検」し、(2)当該地域での現実問題を整理して、「現状分析」を行い、(3)これらの地域がいかなる方向に動きつつあるのか、またそれに対応してどのような政策課題や地域生活機能の問題が新たに生じ、今後構想されるべき政策・対策は何かを「展望」することであった。
初年度の平成15年度には、本科学研究費の実質的支出が可能となった7月の第一回目の会合で研究分担を確認し、年度末には初年度の総括と次年度の計画・分担の確認を行うための第二回目の研究代表者・研究分担者による会合を開催、また中部山岳地帯の先進的林業地域の視察調査を行った。二年度目の平成こ16年度には、'研究進捗状況確認と報告書作成のための会合を11月に開催した。この二年間で、個別の調査・研究として、関戸は北海道、金は諌早湾、堤は中国山地などを各々フィールドとした農山漁村の調査を行った。堤は国際学会でも二回発表した。岡橋は関西大学での学会発表と資料収集を行った。西原は産業地域ごとの特色を踏まえながら地域変動・地域振興の情報を整理する作業に従事し、西野は林業振興に関する資料収集を行った。それぞれの担当地域で現状を観察し、現在の政策課題について整理した。
その結果、地域政策の見直しを早急に行うべきこと、地域生活機能の自立を促進すべきこと、NPOなどの組織の有効活用の重要性などを明らかにした。さらに地域振興関係の法令や地域振興政策に関するデータベース構築も行い、最終年度内に報告書の印刷・刊行も行うことができた。 -
戦後国土開発の日韓比較-折衷型開発パラダイムと過疎地域の形成過程に注目しつつ-
研究課題/領域番号:13780058 2001年 - 2002年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 若手研究(B) 若手研究(B)
金 どぅ哲
配分額:2000000円 ( 直接経費:2000000円 )
本研究は日本と韓国における国土開発の類似性と異なる結果に着目し、(1)両国の戦後国土開発を開発パラダイムの観点から比較・検討し、類似点と相違点を明らかにするとともに、(2)「折衷型開発パラダイム」への転換後の結果の違いを、実行計画への反映と実際の財政配分および地方行政の役割といった3つの側面から比較・検討し、「折衷型開発パラダイム」の可能性と限界を明らかにするものである。
以上のような研究目的を鑑み、今年度は昨年度の成果を踏まえ、国土開発の成果の比較分析を行った。すなわち、(1)地域別の建設受注額と種類や地域内生産と家計消費の経年変化等を分析し、国土開発計画の成果を定量的に把握した。(2)地方行政の裁量権の拡大など非定量的な側面を評価するため、地方行政に権限が委ねられる地方交付税の経年変化を分析した。(3)国土開発計画の策定に関わる専門家に対する深層インタビューを行い、国土開発計画における技術的な側面とイデオロギー的な側面を突き止め、計画と実行そして結果との乖離の原因を比較分析した。(4)過疎対策関連の財政投資の経年変化を比較分析し、過疎地域の形成・維持と国土開発との関連について検討した。
以上の分析から、次のような成果が得られた。すなわち、(1)韓国における国土開発は、1990年代の第3次国土総合開発計画以降「地方分散型開発戦略」を標榜しているが、地域別の建設受注量は依然として京釜軸(ソウルと釜山をつなぐ地域軸)及び東南臨海地域に集中している。しかし、1990年代後半以降全羅南道および江原道にも地方中心都市を中心に局地的に建設受注量を伸ばしていることは注目に値する。一方、家計消費の推移は1990年代後半の金融危機の時期を除けば、飛躍的に増加している。(2)自治体の歳入に占める地方交付税の比重は全般的に増加しているものの、基礎自治団体である「郡」の管轄区域が広範に及ぶため、ミクロレベルでの地方交付税による財の配分にはいまなお課題が残る。(3)しかしながら、全般的な傾向としては韓国の国土開発も1990年代以降日本と同様に「折衷型開発パラダイム」にシフトしていると言える。 -
韓国の農村工業化はなぜ兼業化を伴わないのか-戦後日本の農村工業化との比較-
研究課題/領域番号:11780060 1999年 - 2000年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 奨励研究(A) 奨励研究(A)
金 どぅ哲
配分額:2000000円 ( 直接経費:2000000円 )
今年度は平成11年度の成果を踏まえて、韓国の農工団地の典型的な事例として慶尚南道陝川郡に位置する「栗谷農工団地」とその周辺地域に対するフィールドワークを行った。また、農村工業化の日韓比較のため、富山県八尾町と鳥取県日南町における現地調査もあわせて実施した。主な研究成果は次の通りである。
1.栗谷農工団地は1987年に農工団地の指定を受け、1990年から操業を始めており、現在19の企業に474人の従業員が働いている。最寄りの大都市であるテグからの通勤は不可能であるため、生産職はほとんど地元出身であるが、管理職および熟練労働者は大都市から招いてこなければ確保できず、熟練労働力の不足は深刻である。立地企業のほとんどは中間財を下請けで生産する、従業員30人未満の零細企業であり、雇用の波及効果が及ぼす範囲は陝川郡の郡庁所在地である陝川邑とその周辺といったごく限られていた。
2.1997年以降の韓国における金融危機以降、栗谷農工団地にも企業の倒産が相次ぎ、1998年頃まで稼働率は55%まで落ち込んだが、最近輸出の好調を追い風に回復に向かっている。
3.陝川郡では行政(郡庁)が求人・求職の斡旋を行い、成果を上げているが、日雇いのが多く低賃金であるため、大都市への移出・転職が多く、人口減少の歯止めにはなっていない。
4.また、それぞれの企業の技術水準と地元住民の雇用状況との関連でみると、明らかな傾向が認められる。すなわち、技術力の低い生産工程を持つ企業は、付帯施設の費用が削減できる上、必要な労働力を迅速に確保できるというメリットから地元住民の雇用を希望するが、技術力の高い生産工程を持つ企業は、地元住民の場合、農繁期での無断欠勤など労働倫理が希薄であるという理由で地元住民の雇用を控えるという両極の現象が見られる。
こうしたことは本研究の仮説であった、「地域労働市場をめぐる供給側(地域住民)と需要(誘致企業)とのミス・マッチ」を支持することであり、その原因の一つは外部から移転してきた企業が該当地域のライフパターンと調整(regulation)されていないことと言えよう。
以上のような結果を日本の事例と比較してみると、日本の場合は周辺的でありながらも地域との連携により着実に技術力を高めてきた企業が中枢をなしているが、韓国の場合は依然として低賃金と行政の誘導策に依存する企業が多いと言えよう。 -
過疎地域における内生的住民組織の変容と地方行政の役割-大分県湯布院町と山形県小国町の事例
研究課題/領域番号:09780110 1997年 - 1998年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 奨励研究(A) 奨励研究(A)
金 〓哲
配分額:2100000円 ( 直接経費:2100000円 )
今年度は山形県小国町において過疎問題への対応をめぐる政策プロセスや住民組織のあり方を中心に調査を行った.さらに,山村のみならず平野農村における過疎問題との比較も行うべく,水田単作農村である岩手県東和町での調査をも並行して行った.今年度の調査により得たおもな成果は以下の通りである.
1. 山形県小国町の面積は東京23区よりもやや広く,一時期には115を数えるほどの集落が町全域に散らばっており,昭和30年代以降激しい人口流出が生じたが,その空間的構造は町役場所在地を中心に同心円構造をなしていた.こうした問題に対処すべく小国町では拠点集落方式による集落再編成が行われた.すなわち,二次生活圏(町全域),一次生活圏(主に旧村),基礎集落圏の3段階に定住体系を築き,それぞれの中心を拠点集落として諸施設を整備しようとするものであった.しかし集落の移転は,結果として都会への挙家離村を促し,過疎を促進する結果となってしまった.また,旧滝集落からの移転によって形成された幸町の例から,内生的住民組織は移転先においても伝統行事の担い手として引き継がれていることが確認できた.
2. 岩手県東和町における生産調整は牧草転作を主な態様として推移してきたが,1990年代は牧草転作以外の態様を迫られている.農家個別的な農業生産が展開している開田地域では,調整水田の増加が特徴的であるが,総じて圃場条件の優劣が生産調整の対応を規定する.伝統的水田地域では,政策的な受け皿として設立された生産組合の特性ごとに,農家の階層分化の度合いが異なり,生産調整態様の推移にも差異がみられる.組合の形骸化によって下層農家の脱農化が進行している館では粗放的な態様が増加しているのに対し,生産調整に対して集団的な対応をとる沖では,組合農家の農地を有効に利用し,高収益の見込める作物を導入することで,牧草に依存しない生産調整態様が可能となっている. -
日韓比較文化論
1992年
資金種別:競争的資金