共同研究・競争的資金等の研究 - 金田 隆
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新規エキソソーム計測法によるエキソソーム放出機構の解明
研究課題/領域番号:20H02766 2020年04月 - 2023年03月
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(B) 基盤研究(B)
金田 隆
配分額:17550000円 ( 直接経費:13500000円 、 間接経費:4050000円 )
エキソソームは細胞間のコミュニケーション、がん転移に関連し、がんのバイオマーカーとしての利用やその機能解明が期待されている。そこで本研究では、新たに開発した高感度エキソソーム計測装置を利用して、エキソソームの放出に影響を与える因子について検討し、放出機構を解明することを目的としている。令和3年度には、光圧を利用した高効率エキソソーム捕集、並びに二色のレーザーを用いたエキソソーム検出法の開発に取り組んだ。ガラス製のキャピラリーにレーザー光を集光し、そこに金ナノ粒子を添加した細胞培養培地を流すとき、光圧により小胞がキャピラリー内壁に捕集される現象を見出した。このとき、金ナノ粒子の電荷、キャピラリー表面の電荷が捕集効率に影響を与えることを明らかにした。エキソソームの表面電荷は負電荷であり、このとき、キャピラリー内壁と金ナノ粒子の表面電荷を正に帯電させることで、最も効率よくエキソソームを捕集できることがわかった。一方、二色のレーザーを用いたエキソソーム検出法の開発においては、532 nmと635 nmのレーザーをキャピラリー上に集光し、異なる蛍光色素で標識した微粒子の検出を試みた。二種類の異なる微粒子をキャピラリー内に流して検出を行ったところ、532 nm付近に励起極大をもつ蛍光粒子は532 nmのレーザーを集光した部分のみで蛍光を発し、635 nm付近に励起極大をもつ蛍光粒子は532 nmと635 nmのレーザーの集光部分の両方で蛍光を発することがわかった。したがって、適切な蛍光色素でエキソソームを標識することで、エキソソーム上の異なるタンパク質を測定できる可能性が示唆された。
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グラファイト質金鉱石のバイオハイドロメタラジーの学理
研究課題/領域番号:19KK0135 2019年10月 - 2024年03月
日本学術振興会 科学研究費助成事業 国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(B)) 国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(B))
笹木 圭子, 三木 一, 金田 隆, GUO BINGLIN
配分額:18330000円 ( 直接経費:14100000円 、 間接経費:4230000円 )
新型コロナウイルスまん延防止の観点から豪州への渡航は全く実現しなかったが、炭化度の異なる炭素質金鉱石の入手し、ラマン分光、熱分析をはじめとした炭素質の分解性に関する特性化をおこない、逐次処理を実施した。豪州にて観察する予定であったcarubamate 樹脂を使用したQEMSCAN分析も実現しなかったが、その代わり、アルカリ浸出後の浸出液の3次元蛍光分光分析から、酵素処理によってどの程度のサイズの分子までに分解されたかを比較し評価することができた。その結果、ラッカーゼはリグニンペルオキシダーゼやマンガンペルオキシダーゼよりも、広範囲の白色腐朽菌から生産でき、酵素の安定性も高く、供給性およびハンドリング性の点で優れているのみならず、3次元蛍光分光スペクトルから、より低分子の腐植物質に分解できていることがわかり、これによって炭素質分解後の金の抽出効率を向上させることにつながることも明らかとなった。また、示唆熱重量分析により、ラッカーゼ分解反応は、炭素質だけに作用するのではなく、金鉱石中の硫化物の酸化変質にも、リグニンペルオキシダーゼやマンガンペルオキシダーゼとは異なる影響を与えていることも新たに分かった。炭素質金鉱石の逐次処理について、1段階目と2段階目の処理工程で酸洗浄を挟む重要性を明らかにしたこと、炭素質金鉱石のうち銀も同時に含むものに対して逐次処理を行う場合の利点、ラッカーゼによる炭素質物質の分解産物のGCMSによるキャラクタリゼーションとシアン金錯イオンの吸着特性について論文を公表した。このほか、ラッカーゼを用いた炭素質金鉱石の逐次処理に関する初めての論文を投稿中である。また、リグニン分解酵素のモデル物質として西洋わさび由来ペルオキシダーゼを用い、新しい基質としてN-ベンゾイルロイコメチレンブルーが優れた基質であることを見出し、ラッカーゼの蛍光測定法に適用した。
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金ナノ粒子を利用するエクソソームの高速光圧捕集と迅速がん診断法への応用
研究課題/領域番号:19H04675 2019年04月 - 2021年03月
日本学術振興会 科学研究費助成事業 新学術領域研究(研究領域提案型) 新学術領域研究(研究領域提案型)
金田 隆
配分額:9230000円 ( 直接経費:7100000円 、 間接経費:2130000円 )
まず、前年度の研究において課題となった抗体とエクソソームとの反応性について検討した。前年度の研究結果から、エクソソームを溶解するために用いていた界面活性剤が抗体を不活性化することがわかった。したがって、界面活性剤を用いずにエクソソームと蛍光標識抗体を反応させる方法について検討した。エクソソームを界面活性剤により溶解させずに、蛍光標識抗体と反応させると、蛍光標識抗体は変性せずにエクソソームに結合することが明らかとなった。この結果に基づき、エクソソームを過剰の蛍光標識抗体と反応させた後に、溶液からエクソソームを除去して遊離の蛍光標識抗体を測定することで、エクソソームに結合した蛍光標識抗体量を測定できることを見出した。この方法によりエクソソーム上の目的タンパク質の量を測定することに成功した。次いで、キャピラリー上にエクソソームを捕集し、回収するために、フロー系でエクソソームを捕集するシステムを構築した。角型のキャピラリーにエクソソーム懸濁液を流し、キャピラリー表面にレーザー光を集光することで、光圧によるエクソソームの捕集を実現した。このとき、キャピラリー内壁が正電荷をもつように表面修飾し、正電荷をもつ金ナノ粒子を添加することで、捕集効率を向上させることができた。捕集したエクソソームを回収し、開発したエクソソーム計測法により測定することで、細胞培養液中のエクソソームを捕集、濃縮、回収、計測することに成功した。捕集時間を14分としたとき、濃縮倍率は正電荷をもつ金ナノ粒子を用いた場合には150倍、抗体で修飾した金ナノ粒子を用いた場合には250倍であり、迅速かつ高倍率なエクソソームの捕集と計測を実現した。
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光圧によるエクソソームの高効率捕集法の開発と早期がん診断への応用
研究課題/領域番号:17H05465 2017年04月 - 2019年03月
日本学術振興会 科学研究費助成事業 新学術領域研究(研究領域提案型) 新学術領域研究(研究領域提案型)
金田 隆
配分額:8840000円 ( 直接経費:6800000円 、 間接経費:2040000円 )
平成29年度には、脂質二分子膜から成るリポソームをモデル小胞として用い、これを光圧によりガラス基板上に捕集できることを明らかにした。さらに、捕集効率を向上させるために、溶液に金ナノ粒子を添加する方法を検討し、金ナノ粒子が捕集効率を顕著に向上させることを発見した。しかしながら、金ナノ粒子による捕集効率向上の機構は明らかではなかった。そこで平成30年度には、金ナノ粒子存在下での光圧によるリポソームの加速現象を直接観察し、その機構の解明を目指した。光圧により加速されたリポソームの速度は、金ナノ粒子の濃度の増加とともに大きくなることがわかった。リポソームと金ナノ粒子の相互作用を制御するために、両者の表面電荷を制御して実験を行ったところ、金ナノ粒子とリポソームが互いに反対の電荷をもつときに、最も大きな速度が得られることを発見した。したがって、静電的に金ナノ粒子とリポソームが結合することで、大きな速度が得られることがわかった。すなわち、陰イオン性の金ナノ粒子を用いた場合、陽イオン性のリポソーム、中性のリポソーム、陰イオン性のリポソームの順に速度が大きくなり、陽イオン性の金ナノ粒子を用いた場合には逆の順序となった。このとき、金ナノ粒子とリポソームが同じ電荷をもつ場合でも速度の増加が確認されたことから、疎水性相互作用も両者の結合に関与していることが示唆された。また、金ナノ粒子のサイズもリポソームの速度変化に影響を与えることを見出した。これらの検討結果から、金ナノ粒子の表面電荷、サイズ、濃度を制御することで、エクソソームの捕集効率を向上できることが明らかとなった。
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脂質支持膜への細胞融合法の開発と膜タンパク質計測への応用
研究課題/領域番号:26288067 2014年04月 - 2017年03月
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(B) 基盤研究(B)
金田 隆, 笹木 圭子, 武安 伸幸, 東谷 直樹, 金地 啓介, 小林 桜子, 牧 朋美, 尾川 冬馬, 苅田 真吾, 光延 愛美, 島田 雄飛, 原田 愛梨, 工藤 すみれ, 礒山 美華, 久保井 麻衣, 藤井 達也, 三木 笙子
配分額:16640000円 ( 直接経費:12800000円 、 間接経費:3840000円 )
本研究は、細胞膜に局在する膜タンパク質を計測するための新しいサンプリング法として、基板上に作製した脂質二分子膜に生体細胞を融合させる技術を確立し、その手法を活用した細胞膜の膜タンパク質分離、並びに計測方法を開発することを目的とした。基板上に細胞膜を展開し、それを観測するための全反射蛍光観察システムを作製し、それを用いた脂質固定化膜形成の観察、平面化した細胞膜の観察を行い、細胞膜に局在する膜タンパク質の計測法開発を行った。
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有機相中で光渦により捕捉した単一細胞を反応容器とする化学計測
研究課題/領域番号:25620114 2013年04月 - 2016年03月
日本学術振興会 科学研究費助成事業 挑戦的萌芽研究 挑戦的萌芽研究
金田 隆
配分額:4030000円 ( 直接経費:3100000円 、 間接経費:930000円 )
本研究では,レーザートラッピングを利用した単一細胞分析のための新しい方法の開発を目指した。レーザートラッピング技術は分散媒体よりも高い屈折率をもつ物体の操作に有効である。しかしながら、水滴の屈折率は有機溶媒の屈折率よりも低いため、有機溶媒中で水滴を操作することは困難である。この問題を解決するために、ドーナツ型のビーム形状をもつ光渦を利用した。この光渦を利用した有機溶媒中での水滴の捕捉、操作、融合のための方法を開発した。
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単一細胞内成分の高性能分離分析法の開発と応用
研究課題/領域番号:22350036 2010年 - 2012年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(B) 基盤研究(B)
金田 隆
配分額:18460000円 ( 直接経費:14200000円 、 間接経費:4260000円 )
生体細胞はタンパク質、DNAや多くの小分子を含んでいる混合物であり、高性能な分離分析法は細胞内現象を分子レベルで解明するための重要な技術である。そこで本研究では、高感度に薬物、生理活性分子、タンパク質、DNAなどを分離、計測するための方法を開発し、細胞内に含まれるこれらの成分の分析に応用した。得られた結果から、開発した方法は、分子生物学研究における新規かつ有用な技術になるものと期待される。
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ポリエーテルによる包摂とイオン会合との相乗効果に基づく水系分離分析法の開発
研究課題/領域番号:22550075 2010年 - 2012年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(C)
高柳 俊夫, 金田 隆, 薮谷 智規
配分額:3900000円 ( 直接経費:3000000円 、 間接経費:900000円 )
本研究では環状ポリエーテル及びポリエーテル系の非イオン界面活性剤を用い,ポリエーテルの分子認識能,疎水性の双方の機能を水系溶媒中でのイオン会合反応と相乗的に活用した.擬均一系水溶液で分離分析を行うためにキャピラリー電気泳動法を活用し,フェニルアルキルアンモニウムの包摂反応,アルキルピリジニウム,アルキルイミダゾリウムのミセル結合反応を解析した.また,環状ポリエーテルの包摂によるアルカリ金属イオンの疎水性増加をテトラフェニルボレート系イオンとの水溶液内イオン会合反応で実証した.
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高速分離に基づくタンパク質の特異的な高感度検出法の開発
研究課題/領域番号:17655033 2005年 - 2006年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 萌芽研究 萌芽研究
金田 隆
配分額:2800000円 ( 直接経費:2800000円 )
平成18年度は、先に報告した磁性粒子による特定タンパク質捕捉方法をキャピラリーゲル電気泳動法に適用した。タンパク質をキャピラリーゲル電気泳動で分離するためには、タンパク質をSDSにより変性させる必要がある。また、SDS存在下で、抗原抗体反応が起こるかどうかを明らかにしなければならない。そこでSDSにより変性させたタンパク質混合試料を、SDS存在下で抗体固定化磁性粒子と反応させ、抗原抗体反応が起こるかどうかについて検討した。変性タンパク質混合試料を、カルボニックアンヒドラーゼ(CA)の抗体を固定化した磁性粒子と反応させ、電気泳動を行ったところ、CAのピーク面積のみが減少した。このことから、SDS存在下においても、変性タンパク質は抗体と反応することがわかった。さらに、キャピラリーに二つの検出窓を設け、その間に抗体を固定化した磁性粒子を磁石により保持して、キャピラリーゲル電気泳動を行った。キャピラリーゲル電気泳動により三種のタンパク質混合試料を分離した結果、一点目の検出部では三つのピークが観測されたが、二点目の検出部ではひとつのピークが消失し、ふたつのピークのみが観測された。一点目の検出で得られた各ピークのマーカーに対する相対移動度を計算したところ、相対移動度と分子量の対数の関係には良好な直線関係が得られた。また、二点目で検出されたふたつのタンパク質の相対移動度の値を一点目で得られた結果と比較すると、消失したピークがCAであると同定できた。この結果は、タンパク質混合試料中のCAと磁性粒子の抗CAが特異的に反応して、CAのみが粒子上に捕捉されたことを示す。したがって、本手法は、ウエスタンブロッティングと同等の結果を迅速に獲得できるものであり、今後の発展が期待される。
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新規レーザー加工キャピラリーを用いる高性能キャピラリー電気泳動の開発と応用
研究課題/領域番号:15350045 2003年 - 2005年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(B) 基盤研究(B)
金田 隆
配分額:10700000円 ( 直接経費:10700000円 )
本研究ではレーザーで加工したキャピラリーを、アダマール変換キャピラリー電気泳動、並びにポストカラム反応に応用した。レーザー加工キャピラリーを用い、キャピラリーの両末端、及び小孔部分に異なる電圧を印加し、両末端の電圧のみを切ることで試料を、両者を印加することで緩衝溶液を注入することに成功した。この装置と小型レーザー励起蛍光検出器及び吸光光度検出器を組み合わせ、数種のアミノ酸を含む試料に対して、十倍以上の検出感度の向上を実現した。また、光ゲート注入法を用いるアダマール変換キャピラリー電気泳動法を、アミノ酸光学異性体の分離に適用した。さらに装置を改良し、一回の注入体積当たりの27分子のフルオレセインイオンの検出に成功した。これら結果に基づき、清涼飲料水中のアミノ酸の分析を行ったところ、すべてのアミノ酸に対して、検出感度の向上を達成し、アダマール変換キャピラリー電気泳動法が有効な手法であることがわかった。一方、レーザー加工キャピラリーをポストカラム反応に利用するために、発光ダイオードを光源とするレーザー励起蛍光検出器を作製した。この検出器を用いて、オルトフタルジアルデヒドで標識したアミノ酸を測定したところ、セリンとグルタミン酸について、良好な結果が得られた。この結果に基づき、ティーコネクターを用い、ポストカラム反応を行ったところ、幅の広いアミノ酸ピークが検出された。これはティーコネクターでは、ポストカラム反応を行わせることは可能であるが、試薬との混合の際にピーク幅の広がりを抑制することができないことを示している。そこでレーザー加工キャピラリーを利用するポストカラム反応器を作製し、同様の実験を行ったところ、ティーコネクターの場合と比較して、ピーク幅の広がりを抑制できることがわかった。さらに、光源としてアルゴンイオンレーザーを利用する高感度分析に関する検討を行った。
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多重注入法を利用する超高感度マイクロチップ電気泳動法の開発
研究課題/領域番号:12750716 2000年 - 2001年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 奨励研究(A) 奨励研究(A)
金田 隆
配分額:2200000円 ( 直接経費:2200000円 )
昨年度はアダマール変換キャピラリー電気泳動法をマイクロチップ電気泳動に応用するために、電気泳動注入法を用いる多重注入装置を作製した。本年度は本装置を用いてマイクロチップ電気泳動を行うために二つの検出器の作製を行った。ひとつはレーザーを斜めから照射し、対物レンズにより蛍光を集める検出器であり、もう一つはレーザーの集光レンズと同じレンズを用いて蛍光を検出する共焦点型の検出器である。蛍光色素を試料として一回の注入によって得られる二つの検出器の感度を比較したところ、共焦点型の検出器がより高感度であることがわかった。この検出器と作製した注入装置を用いてマイクロチップ電気泳動により、約10^<-7>Mの検出限界を得た。さらに本装置によりアダマール変換電気泳動を行ったが、十分な感度向上は認められなかった。これは実験条件の最適化が不十分であること、及び試料注入量の再現性が悪いことに起因すると予想される。マイクロチップ電気泳動では試料注入チャンネルと分離チャンネルに異なる電圧を印加することで試料注入を行う。このとき、試料の注入量は二つの電圧の値の比によって大きく変化することが明らかとなった。このため、安定な試料の多重注入を達成するためには、試料注入チャンネルと分離チャンネルにおける最適な印加電圧の比について、詳細に検討する必要があることがわかった。今後、印加電圧の安定化と最適条件を明らかにすることで、多重注入により10倍以上の感度の向上が期待できる。
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レーザー励起蛍光法による周期信号発生とフーリエ変換を利用する起高感度分析法の開発
研究課題/領域番号:10750585 1998年 - 1999年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 奨励研究(A) 奨励研究(A)
金田 隆
配分額:2400000円 ( 直接経費:2400000円 )
蛍光色素であるフルオレセインナトリウムを試料として用い、開発したアダマール変換キヤピラリー電気泳動法の定量性や検出限界について検討した。定量分析における操作を簡単化するため、従来の装置を改良し、より短い全長14cm(有効長4.5cm)のキヤピラリーを用いて測定を行なった。泳動溶液には、30mM炭酸緩衝溶液(pH9.3)を用い、試料である蛍光色素のフルオレセインナトリウムを、アダマール変換コードに従って、光ゲート法により導入した。試料導入用光ゲート及び蛍光検出には、波長488nmのアルゴンイオンレーザーを用いた。キャピラリーを短くすることにより、分析時間は以前の実験装置を用いたときの約半分に短縮された。この装置を用いてアダマール変換の定量性を調べるために、検量線を作成した。この結果、2.0×10^<-12>〜1.5×10^<-7>Mの領域において良好な直線性(R=0.997)が得られ、アダマール変換法において優れた定量性が得られることが確認できた。さらに高感度化を目指してレーザー出力を250mWに上げて測定を行なったところ、5×10^<-13>Mの濃度においても明瞭に試料ピークが認められた。単一注入での検出限界は3.0×10^<-11>Mであった。したがって、アダマール変換を利用することにより60倍の感度向上が達成できた。1セグメント当たりの注入時間(0.5s)で、キヤピラリー内に導入される試料体積は0.55nlである。この中には166個の試料分子が存在する。これは従来の単一注入方式のレーザー励起蛍光検出法を用いたキヤピラリー電気泳動法と比較して、極めて高感度であることを示す値である。今後、より高感度な蛍光検出素子、高出力レーザーの使用等により、従来の方法では不可能である数桁以下の濃度で分析が可能であると期待される。
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光クロマトグラフィーの基礎と応用に関する研究-生理活性物質の超微量分析と微生物の力の精密測定-
研究課題/領域番号:09450310 1997年 - 1999年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(B) 基盤研究(B)
今坂 藤太郎, 平川 靖之, 金田 隆
配分額:14300000円 ( 直接経費:14300000円 )
本研究では光クロマトグラフィーにおいて微粒子に加わる輻射圧と流れの力を理論的に計算し、分離に影響を与える因子を解析するとともに,本法をタンパク質の分析,微生物や精子の力の測定,赤血球の変形能の評価に応用した。幾何光学モデルに基づき光クロマトグラフィーの基礎理論を構築し,シミュレーションにより分離に及ぼす種々の因子について考察した。粒子の大きさと保持位置の関係,レーザー出力,流速が分解能に与える影響を理論的に計算した結果,レーザー出力を大きくすることで,適用できる粒子の大きさの範囲は広がり,理論上,分子レベルの大きさのものも分離が可能であることが明らかとなった。さらに,本法を抗体被覆微粒子の結合反応を利用するイムノアッセイに応用した。抗体を被覆した微粒子を抗原と反応させるとき,抗原を橋掛けとして微粒子同志が結合する。反応後に,光クロマトグラフィーにより,単一の微粒子と結合した微粒子を分離し,その反応率を求めることで抗原の定量を行った。また,分離セル内で反応を行い、単一分子レベルで結合と解離反応をリアルタイムで観測できることを示した。次いで光ファネルを微生物が有する力の測定に応用した。活動している微生物をセル内に導入すると,レーザービーム内に進入した微生物は勾配力を受け,ビーム軸内に引き込まれる。このとき微生物は光から逃れようとし,微生物がレーザー光軸から脱出した位置を測定することで,微生物が持つ力を求めることができた。本手法は精子の運動能力評価においても有効であることが明らかとなった。また,光ファネルにより赤血球の変形の評価を行った。レーザー出力を一定に保ち,赤血球がビームウェスト付近を通過するように流速を調整して観察を行うと,赤血球が変形する様子を観察することができた。本法により伸張度を測定した結果,新しい赤血球が古い赤血球より変形能が大きいことを確認した。
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間接半導体レーザー励起蛍光検出法による無機イオンの超高感度検出
研究課題/領域番号:08750940 1996年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 奨励研究(A) 奨励研究(A)
金田 隆
配分額:1000000円 ( 直接経費:1000000円 )
キャピラリー電気泳動によって分離した無機イオンを半導体レーザー励起蛍光法を用いて高感度に検出する手法について検討した。装置には半導体レーザー励起蛍光検出器を備えた自作のキャピラリー電気泳動装置を用いた。半導体レーザーの発振波長は660nmである。まず、蛍光性色素を含む緩衝溶液を泳動溶液に用い、電気的中性の原理に基づく無機陰イオンの検出を試みたところ、十分な感度を得ることができなかった。これは色素と無機陰イオンとの移動度に大きな差があることに起因するものと推測される。
そこで泳動溶液としてミセル溶液を用い、分配平衡の変化を利用する無機陰イオンの検出方法について検討した。この方法の検出原理は以下のように説明できる。蛍光色素はミセル中では水中よりも蛍光強度が大きい。一方、過剰の無機イオンの存在下では蛍光色素のミセルへの分配は抑制されるため、無機イオンを負の信号として検出することができる。10μMのオキサジン750を含むテトラデシルトリメチルアンモニウム溶液を泳動溶液として無機陰イオンの分離、検出をおこなったところ、比較的疎水性の高いヨウ化物イオン、チオシアン酸イオンなどの無機陰イオンが大きな負の信号を与えることが明らかとなった。すなわち本手法では疎水性の高い無機イオンをより選択的に検出できる。このとき試料濃度で数十μMレベル、絶対量では数十フェムトモルレベルのヨウ化物イオンを検出することが可能であった。