共同研究・競争的資金等の研究 - 宮竹 貴久
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抵抗性メスの進化と乱婚メス出現の仕組みの解明と対策
研究課題/領域番号:21K19116 2021年07月 - 2024年03月
日本学術振興会 科学研究費助成事業 挑戦的研究(萌芽)
宮竹 貴久, 安井 行雄, 日室 千尋
配分額:6240000円 ( 直接経費:4800000円 、 間接経費:1440000円 )
当該年度は、確立したコクヌストモドキの不妊化技術を駆使して、以下の実験進化を実施した。不妊オス集団中に、不妊雄など雌にとってのハズレ雄が含まれる時、もし雌がそれを識別できるなら、雌はハズレ雄との交尾もしくはハズレ雄の精子を用いた受精を回避すると推測できる。一方で、雌がハズレ雄を識別できない場合には、多雄交尾を行う雌が繁殖失敗のリスクを低減し、適応度の減少を防ぐことができるため、雌の交尾頻度が上昇するかもしれない。本研究では、コクヌストモドキを用いて、放射線照射によって人工的に不妊化した雄を含ませた集団で当該年度は、新たに16世代に渡って累代飼育する実験進化の手法によって雌の進化的応答を調査した。その結果、処理系統の雌を1回目に正常の雄、2回目に不妊雄と交尾させたときの、雌の産んだ卵の孵化率と、対照系統の雌を1回目に正常の雄、2回目に不妊雄と交尾させたときの、雌の産んだ卵の孵化率との間に差は見られなかった。このことは、本種の雌は、不妊雄と同居させて世代を重ねた雌が不妊雄の精子を避けるように進化したことを示している。これは隠れた雌による実験的な進化を世界で初めて実証したのみにとどまらず、不妊化法においても野生雌が不妊雄の精子を選別する進化を引き起こす可能性を示唆しているため、不妊化法の応用においても重要な可能性を示唆したものである。また実験室で得られた進化実験の結果が、野外で実際に不妊化法が実施されてる現場でも同様の反応が見られるのかについて、今年度は喜界島の野生虫を入手する段取りを整えた。
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ゲノム行動生態学:「生物の動き」を制御する遺伝子と個体の適応度及び集団への影響
研究課題/領域番号:21H02568 2021年04月 - 2025年03月
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(B)
宮竹 貴久, 宮崎 智史, 佐々木 謙, 天竺桂 弘子
配分額:17160000円 ( 直接経費:13200000円 、 間接経費:3960000円 )
本研究では野外採集が容易で、世代を重ねた実験進化に適し、ゲノム操作系が確立したコクヌストモドキをモデルとし、ゲノムから群集まで包括的な理解を目指す。これまでの研究で天敵に出会うと死んだふりで回避し自然選択に有利なロング系統と、普段からよく動き異性との出会いと交尾が多く性選択に有利なショート系統を育種した。系統間ではチロシン代謝系遺伝子群によって制御されるドーパミンの発現が有意に異なり、さらにゲノム比較解析によりドーパミン関連遺伝子領域に系統間で高頻度の変異が見つかった。本研究では「動き」を支配するゲノムを操作した個体の適応度を測定し、自然選択と性選択に及ぼす集団レベルの影響を評価する。当該年度は、コクヌストモドキの死んだふりを長い方向に育種したロング系統とショート系統に関連する遺伝子のゲノム同士のコネクション解析を行い、本種の動きと不動行動の長さに関連する標的遺伝子を特定できた。特定できた遺伝子のmRNAをコクヌストモドキの成虫にインジェクションし、標的遺伝子をノックダウンすることに成功した。長い死にまね時間を選抜したロング系統で標的遺伝子(Hpd)をノックダウンした結果、死んだふり持続時間が有意に短くなることが明らかとなった。また標的領域のゲノムを編集するために、これまで幼虫へのインジェクションを計画していたが、今回新たに成虫にインジェクションする技術開発の準備を整えた。野外の生態学的な調査において、全国からコクヌストモドキを採集して飼育し、各形質を測定したところ、北に生息する集団ほど、死んだふりの持続時間が長く、さらに概日リズムの変異を測定するための活動性の振幅度合いが小さくなることが、本研究によって世界ではじめて明らかにできた。
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「生物の動き」を支配する遺伝子が個体の適応度と集団に及ぼす生態学的影響の解析
研究課題/領域番号:18H02510 2018年04月 - 2021年03月
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(B)
宮竹 貴久, 佐々木 謙, 天竺桂 弘子, 三浦 一芸, 富岡 憲治, 内山 博允
担当区分:研究代表者 資金種別:競争的資金
配分額:17030000円 ( 直接経費:13100000円 、 間接経費:3930000円 )
生物の動きが制御する行動形質が適応度にどのように影響するのかについて、昆虫類を材料として3年間調査した。対象とした行動は、おもに対捕食者戦略、捕食戦略、移動分散戦略および繁殖・交尾戦略である。対象とした生物は主にコウチュウ目の昆虫である。とくにコクヌストモドキ類については、生物の動きに関する形質のうち、歩行移動および不動行動に対して人為的な選抜実験を行い、確立した育種系統間で、相関反応を精査するとともに、トランスクリプトーム解析を実施し、死んだふり行動を制御する遺伝子群を網羅的に解析した。その結果、ドーパミンを介したチロシン代謝系の遺伝子群が生物の動きに関与していることを明らかにした。
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異なるマクロ生物学分野のインタープレイ
2018年04月 - 2019年03月
京都大学生態学研究センター 京都大学生態学研究センター研究集会
宮竹 貴久
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ナビゲーション能力を制御するゲノム行動生態学的研究
研究課題/領域番号:17H05976 2017年04月 - 2019年03月
日本学術振興会 科学研究費助成事業 新学術領域研究(研究領域提案型)
宮竹 貴久
担当区分:研究代表者 資金種別:競争的資金
配分額:8840000円 ( 直接経費:6800000円 、 間接経費:2040000円 )
コクヌストモドキの「動き」が異なる選抜系統より、活動量の多い系統(H系統)と少ない系統(L系統)の成虫をそれぞれ任意に5個体抽出し、脳を摘出し、RNAseqによるトランスクリプトーム比較を行った。その結果、系統間で518の発現の異なる遺伝子を検出できた。選抜した系統間では、当初予期していなかった遺伝子領域にも発現差があったが、これまでの生理学的な研究の結果から発現の違いが予期されていたチロシン代謝系に関連する遺伝子(ドーパミンの前駆体物質)にも系統間で差が見られた。これら関連遺伝子のエンザイム遺伝子はH系統よりもL系統でより多くの発現が見られた。そこで、リアルタイムPCR解析を行ったところ、Tchpd (Hpd) とTcnat (Nat)がH系統に比べてL系統で、相対的な発現量が高かった。このことは活動量とドーパミン供給に関する酵素の影響を示唆している。そのうち、リアルタイムPCRで発現量の差が2倍以上であったHpd遺伝子についてRNAiを行った。L系統の成虫よりRNAを摘出し、逆転写によりcDNAを合成し、LinearDNAを作成した。それによって合成したdsRNAをL系統の秀麗幼虫にインジェクションした。純水及びVermilionも同量インジェクションし、コントロールとした。リアルタイムPCRの結果、dsHPDのインジェクションによって、HPDの発現量が半分以下に抑制されていたが、成虫の活動量に変化は見られず、成虫の分散距離(ナビゲーション形質)を比較したがノックダウンによる効果は認められなかった。これと並行して、①確立した系統間で生活史形質の比較解析、②工学および計画班A02との連携研究において、昆虫類の移動と活動量の解析、③野外コクヌストモドキ集団の歩行軌跡の測定と地域集団の系統間推定、④計画班B01と連携して海鳥が海上で捕獲する昆虫種類の同定を行った。
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野外で生物リズムを持たない個体は、どのように環境に適応して生存しているのか?
研究課題/領域番号:16K14810 2016年04月 - 2019年03月
日本学術振興会 科学研究費助成事業 挑戦的萌芽研究
宮竹 貴久, 粕谷 英一, 阿部 真人
担当区分:研究代表者 資金種別:競争的資金
配分額:3770000円 ( 直接経費:2900000円 、 間接経費:870000円 )
野外より採集してきたコクヌストモドキ類の生物リズムをアクトグラフ装置で測定したところ、リズムが無いと判断できる個体が多くいた。研究初年度は測定した個体の歩行活動データを、カイ二乗ピリオドグラムの測定結果に基づき、リズムの有る個体とリズムの無い個体に分別した。ところが研究2年目になって統計手法に詳しい研究者に相談したところ、この手法でリズムの有無を判断する場合には、統計的な問題点が見つかった。そこで研究3年目に、これらの研究者を研究分担者に加えて、リズムの有無ではなく、リズムの強さをパラメーターとして研究課題の問いに答えることを試みた。その結果、リズムの強さには遺伝変異が存在することがわかった。
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生理活性物質が制御する生物の動きと適応度に関する進化生態学的解析
研究課題/領域番号:26291091 2014年04月 - 2018年03月
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(B)
宮竹 貴久, 佐々木 謙, 藤澤 隆介, 永谷 直久
担当区分:研究代表者 資金種別:競争的資金
配分額:15860000円 ( 直接経費:12200000円 、 間接経費:3660000円 )
コクヌストモドキの「動き」についてカラートラッカーを利用して計測し、遺伝的によく歩く系統と歩かない系統を選抜した。その結果、歩かない系統は歩く系統に比べて天敵であるコメグラサシガメに捕食されにくい反面、オスにおいては有意に多くのメスとの出会いがあり、交尾に成功しやすいことが分かった。さらに歩かない系統はオスでのみ有意に脚(前・中・後とも)が長くなり、系統間の違いには性選択が関与した可能性が高かった。歩かない系統は交尾前の性選択では不利であったが、交尾後の性選択(つまり精子間競争)では歩く系統に比べて有利であった。両系統は外部生殖器の形態にも差が認められたことから生殖隔離への関与も示唆された。
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サツマイモ等の重要害虫であるイモゾウムシの根絶のための実用的な光トラップの開発及び防除モデルの策定
2011年04月 - 2013年03月
農林水産省 農林水産業特別試験研究費補助金 レギュラトリーサイエンス事業
宮竹貴久
担当区分:研究代表者 資金種別:競争的資金
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意思決定の進化生態学的基盤:負け記憶の生態遺伝メカニズム
研究課題/領域番号:23570027 2011年04月 - 2013年03月
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(C)
宮竹 貴久, 岡田 賢祐
担当区分:研究代表者 資金種別:競争的資金
配分額:5330000円 ( 直接経費:4100000円 、 間接経費:1230000円 )
オオツノコクヌストモドキの闘争行動の勝敗と記憶力の関係を調べた。本種のオスは勝利の経験は覚えないが、敗北の経験は4日間覚えていた。人為選抜実験によって闘争の記憶時間には遺伝変異のあることを明らかにした。本種では敗北期間中は戦いに投資しないが、射精への投資を増やした。オスは敗北経験による学習によって、交尾後のオス間競争である精子競争の投資を調整した。さらに雄同士が後脚を用いて配偶者獲得のために闘争するホソヘリカメムシを用いて闘争行動に明瞭な日内パタンのあることを明らかにした。
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生物の光応答メカニズムの解明 と省エネルギー、コスト削減利用技術の開発
2010年04月 - 2013年03月
農林水産技術会議 農林水産業特別試験研究費補助金
寺島一男
資金種別:競争的資金
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害虫の光応答メカニズムの解明と高度利用技術の開発
2009年04月 - 2013年03月
農林水産省 農林水産省委託プロジェクト研究
本多健一郎
資金種別:競争的資金
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飛ばないテントウムシのアブラムシ防除への適用
2008年04月 - 2011年03月
農林水産省 先導的技術実用化促進のための研究
世古智一
資金種別:競争的資金
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繁殖タイミングの変異を介した生殖隔離の生態遺伝学的解析
研究課題/領域番号:19370011 2007年04月 - 2010年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(B)
宮竹 貴久, 松本 顕, 松山 隆志, 富岡 憲治, 谷村 禎一
担当区分:研究代表者 資金種別:競争的資金
配分額:16510000円 ( 直接経費:12700000円 、 間接経費:3810000円 )
時計遺伝子の繁殖隔離に対する関わりについて解明した。
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昆虫の死んだふりと活動性を多面的に支配する生体物質の生理学的解明
研究課題/領域番号:19657026 2007年04月 - 2009年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 挑戦的萌芽研究
宮竹 貴久, 佐々木 謙
担当区分:研究代表者 資金種別:競争的資金
配分額:3600000円 ( 直接経費:3600000円 )
今年度は,昆虫の活動性と関連のある生体アミン等物質のうち、ドーパミン以外のオクトパミン・チラミン・セロトニンなどの生体アミンの脳内存在量を調べた。その結果、長い時間死にまねするロング系統と短い時間死にまねするショート系統では、これらの存在量に有意な差はなかった。これまでの研究結果をまとめると、両系統ではドーパミンの脳内存在量に有意な差があること、ドーパミンのアクチベータであるカフェインの経口摂取および体内へのインジェクションが、ロング系統の死にまね時間を有意に短縮することから、コクヌストモドキの死にまね持続時間を左右している神経伝達物質がドーパミンであると結論づけた。またコクヌストモドキは、天敵であるアダンソンハエトリグモに襲わせたときには, ベンゾキノンを放出しないことが明らかとなり、死にまね行動の動かないという動作自体が有効であること。さらに、集団で暮らす本種では、不動という行為は、死にまねを行う個体の近隣に生息する同種他個体もしくは異種の個体が動き回ることで、天敵の興味をそちらに向ける効果のあることが判明した。このことは死にまねが、集団で暮らす個体にとっては利己的な行為として進化しうること、さらにこの効果が集団サイズをより大きくする可能性を示唆した。さらに死にまね行動と交尾行動には、遺伝的基礎を伴うトレードオフが存在することも証明した。
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ニカメイガのホストレースにおける時計遺伝子と生殖隔離に関する生理生態学的研究
2005年04月 - 2008年03月
科学研究費補助金 萌芽研究
宮竹貴久
担当区分:研究代表者 資金種別:競争的資金
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ニカメイガのホストレースにおける時計遺伝子と生殖隔離に関する生理生態学的研究
研究課題/領域番号:16657009 2004年 - 2006年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 萌芽研究
宮竹 貴久, 富岡 憲治, 積木 久明
配分額:3500000円 ( 直接経費:3500000円 )
イネの害虫であるニカメイガChilo suppressalisは、イネだけでなくイネ科雑草のマコモにも寄生することが知られている。そしてイネ個体群とマコモ個体群の間では、近縁な昆虫種間の生殖隔離機構の重要な要因の1つである交尾時刻が異なっている。すなわち、イネ系統は日没直後に交尾し、マコモ系統では日没約6時間後に交尾する。キイロショウジョウバエでは、交尾時刻の違いは測時機構の影響を受け、生殖隔離に時計遺伝子が関与する可能性が示唆されている。それゆえ交尾時刻の違う本種の個体群間では体内時計と測時機構に変化が生じている可能性がある。そこで本研究では、琵琶湖を有するため農薬散布が少なく本種の両ホストレースの同所的生息が確認された滋賀県で採集した両個体群を用いて、アクトグラフ装置による歩行活動の概日リズム計測を行なった。イネ個体群の概日リズムの自由継続周期(τ)は23.71±0.128時間、マコモ個体群の概日リズムのτは25.96±6.028時間で両ホストレース間に有意な差が見られた。この約2時間のずれはオスの活動時間帯のピークのずれと一致していることもわかった。
これらの発見は、ニカメイガの両ホストレースが、概日リズムに支配される測時機構を介した同所的な時間的生殖隔離(アロクロニックな生殖隔離)の状態にあることを示す。
そこで、概日リズムを制御する時計遺伝子period(約100bp)およびdoubletime(ほぼ全長:約1000bp)の塩基配列解析を行った。その結果、個体間およびホストレース問でいくつかのアミノ酸置換が発見された。今後、ホストレース間の交尾時刻の違いの原因遺伝子としての、概日リズム時計遺伝子の特定への道を築くことができ、将来の生殖隔離候補遺伝子の探索への可能性が開かれた。 -
メスが複数回交尾するのはなぜか
研究課題/領域番号:16370013 2004年 - 2006年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(B)
粕谷 英一, 宮竹 貴久, 安井 行雄
資金種別:競争的資金
配分額:7200000円 ( 直接経費:7200000円 )
メスが何頭のオスと交尾するか(メスの交尾回数ないし交尾率)には種間で大きな変異がみられ、メスの利益に基づく仮説群が提案され研究されてきた。交配可能な集団(系統)間でのメスの交尾回数の変異を持つ種である、アズキゾウムシ(Callosobruchus chinensis)を主な対象として、メスの交尾回数の進化について検討した。まず、交尾回数の集団間変異が、メスの側の要因とオスの側の要因、および交互作用によりそれだけの影響を受けているのかを明らかにし、また変異が遺伝的な部分を持つことを示した。人為選択実験により遺伝相関を検討したところ、メスとオスの交尾率間には相関した進化がみられず、両性の交尾率間には遺伝相関がないと考えられた。これまでの研究でもっとも有力な直接的利益の仮説に関して、メスが複数のオスと交尾する率が高い集団において、複数回交尾にともなうメス自身の直接的利益が見られないことを示した。直接的利益に加えて間接的利益の一部を合わせて評価しても、メスが複数のオスと交尾する率が高い集団で複数回交尾によるメスの利益は見られなかった。メスが複数のオスと交尾する率が高い集団のオスは、メス体内に複数のオスの精子が存在し精子競争のリスクが大きいため、メスが複数のオスと交尾する率が低い集団のオスと比べて精子競争能力が高いという予測が、二重交尾実験と父性解析の結果、支持された。メスが複数のオスと交尾する率は、集団だけではなく、時間帯や産卵基質などの条件などの影響を受けた。しかし、時間帯が異なっても、メスが複数のオスと交尾する率が高い集団では、メスの交尾率が低い集団よりも、交尾率が高いことが普通であり、逆転は見られなかった。産卵基質の有無は、メスが複数のオスと交尾する率が高い集団では交尾率に大きな影響がなく、メスが複数のオスと交尾する率が低い集団ではメスの交尾率に影響を与えた。
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殺虫剤抵抗性系統コナガの感受性回復過程に関与する生理的誘導多発生機構
研究課題/領域番号:14360029 2002年04月 - 2005年03月
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(B)
中筋 房夫, 宮竹 貴久, 福田 宏
資金種別:競争的資金
配分額:9100000円 ( 直接経費:9100000円 )
害虫個体群が度重なる殺虫剤の淘汰を受けると抵抗性が発達するが、淘汰を止めると、数世代後に感受性の回復がみられる。抵抗性の発達に伴って何らかの生活史形質の低下が生じるためと思われるが、どのような機構で生活史形質の低下が起こっているのかは研究されていない。コナガに合成ピレスロイド、フェンバレレートを亜致死薬量で処理(殺虫剤淘汰と同義)すると、雌成虫の産卵数が増加する(生理的誘導多発生と言う)が、多産された卵のサイズは小型化する。小卵化は生活史形質の劣化と見なせる。そこでコナガに抵抗性を発達させると、同時に雌成虫の産卵数、卵サイズ及びその他の生活史形質に変化が生じるかどうかを調べた。抵抗性系統の卵サイズは小型化し、さらに、幼虫の生存率も低下した。コナガを8から10世代淘汰し、約1万倍に抵抗性レベルを高めた系統を作り、その卵サイズなどの生活史形質を感受性系統と比較した。その結果、抵抗性発達がまだ十分起こらない淘汰初期に卵サイズの小型化が生じた。抵抗性系統と感受性系統を個体飼育し、各種生活史形質を測定したところ、抵抗性系統の卵サイズの小型化は明らかに遺伝的であった。抵抗性と感受性系統間の交雑世代の感受性は雄親の影響を、また卵サイズは雌親の影響を相対的に強く受ける遺伝様式を示した。1万倍のフェンバレレート抵抗性個体群を殺虫剤淘汰のない状態で、ストレス(高温、乾燥)と好適環境下(適温、適湿)それぞれで累代飼育し、ストレスおよび好適環境系統を作り、それらの感受性と卵サイズの回復を調査した。LD50値は、全ての世代でストレス環境系統が低く、早い世代から感受性の回復が進んでいた。同時にどちらの系統も卵サイズは大型化した。
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種分化を引き起こす時計遺伝子の生態遺伝学的研究
研究課題/領域番号:14340244 2002年04月 - 2005年
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(B)
宮竹 貴久, 谷村 禎一, 松本 顕, 久場 洋之
担当区分:研究代表者 資金種別:競争的資金
配分額:14800000円 ( 直接経費:14800000円 )
ウリミバエでは、交尾時刻において著しい種内変異があり、交尾開始時刻が5時間異なる同種内の系統間では有意な生殖隔離が生じた。この交尾時刻は概日リズムによって支配されると考えられる。時計タンパク質PERIODをコードするperiod遺伝子mRNAの発現周期が系統間で大きく異なるため、ウリミバエの交尾時刻変異にはperiod遺伝子群の関与が考えられた。そこでウリミバエの時計遺伝子period(per)及びdoubletime(dbt)の塩基配列を決定し、交尾時刻の異なるショート(S)系統とロング(L)系統間の比較を行った。dbt遺伝子がコードするキナーゼDBTは、ヒトのカゼインキナーゼIεの相同分子であり、ショウジョウバエの概日時計機構においてPERをリン酸化し、細胞質内のPERの蓄積を調節する。ウリミバエdbtcDNAの翻訳領域は1320b、コードしているキナーゼDBTの推定アミノ酸配列は440アミノ酸であり、ATP結合領域と触媒領域の配列は系統間で一致した。ショウジョウバエのDBTとは、84%の高い相同性を示した。3'非翻訳領域には数塩基の違いが検出されたが、転写に影響する変異とは考えにくかった。S系統とL系統で安定して異なるアミノ酸が1カ所あり、53番目のアミノ酸がS系統ではセリン、L系統ではロイシンに変化していた。この違いがS系統とL系統の概日リズムの違い、そして交尾開始時刻の違いに関与している可能性が示唆された。今後、キイロショウジョウバエのdoubletime欠失突然変異を用いて、このアミノ酸配列に着目したレスキュー実験を行うことで、交尾時刻を介した生殖隔離(種分化)に関与する遺伝子の特定が可能になる。一方、per遺伝子cDNAの翻訳領域は、S系統、L系統ともに3102b, PERタンパク質の推定アミノ酸配列は1034アミノ酸であり、機能性ドメインであるPAS領域PAS-A(アミノ酸193-242)、PAS-B(343-395)、核移行NLS(72-76)、細胞質局在ドメインCLD(398-457)は系統間で一致していた。S系統とL系統で異なるアミノ酸は3カ所あったが、PERタンパク質の機能に影響する変異とは考えにくい。スレオニン-グリシン反復配列についても多型は検出されなかった。cDANの3'非翻訳領域には系統間で大きな違いはなかったが、5'非翻訳領域ではスプライシングのバリアントが検出され、このバリアントと概日リズムの違いについて今後調べる必要がある。以上の結果と国内外での時計遺伝子と生殖隔離の関係についての報告事例をレビューし、アロクロニックな生殖隔離と生物の測時機構との関連についてのレビューを行った。